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ドラキュライブ! 百合ハーレム吸血鬼アイドル誕生夜話  作者: シロクマ
F面 終の章

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40/52

記F3.くま探知

 アクシアが忽然と消失した。

 その直前、勝利は微かな声を逃さず耳にしていた。


挿絵(By みてみん)


『退却せよ、アクシア』


挿絵(By みてみん)


 命令口調の、老人の声。アクシアは「わかった」と返事して、あっという間に霧散した。


「今の、まさか伯爵かよ……!」


 光流が苦々しげに言葉した名を勝利がたずねると、二つ返事で教えられた。


挿絵(By みてみん)


「伯爵……五百年はゆうに生きてきた貴種ノーブルの吸血鬼のジジイだよ。残忍で狡猾、嫌味で……そして“好きなもの”にしか興味がない。本質が趣味人なんだ。大それた野心もなく、研究や蒐集に没頭したがるんだけど、そのために良心もない。五百年も生きてりゃ、ひとりひとりの人間なんて台所に転がってるジャガイモくらいにしか興味がもてないのさ」


 朝焼けの空を睨み、光流は怖い顔してつづける。


「僕はまだ神良を真っ白だと決めたわけじゃない。監視はつづける。ボロを出したら絶対に仕留めてやる。神良も伯爵も、強大な吸血鬼だ。人間にとって無害か有害かの差だけで僕に言わせりゃふたりとも大差がない。……けど、あのアクシアってのは全然ちがう。最後の命令も胸くそ悪い偉そうな感じ、僕が葬ったはずの伯爵そっくりなんだよ」


「え、と、じゃあ、アクシアは悪い吸血鬼の手下ってこと……?」


「さあね! 闇の隣人ダークネイバーってのは人間の善悪では計れないからさ、ド田舎で鹿や猪が作物むしゃむしゃして農家に迷惑かけたって有害だけど悪気はないだろ? 神良はたまたま人に懐いた熊で、伯爵は血の味を覚えた熊なんだ。さしずめアクシアってのが未完成の小熊だとして、伯爵が親グマだったら遅かれ早かれ親にならうもんさ」


「く、クマ……」


 光流は至って真剣だ。闇の狩人という生業を、そのまま本来の狩人や猟師に見立てている。

 しかしどうにも神良とアクシアをクマと表現されると、勝利には愛くるしい想像しかできない。愛嬌があるようで獰猛さと強大さを秘めている、という意味では正しいのだろうが。


挿絵(By みてみん)


『ぐまー! 食べてしまうのじゃ!』


『ぐまぐま。ましゃり、おいしそう』


 等と、二匹揃って着ぐるみなりで仮装してじゃれついてくる絵面が目に浮かんでしまう。

 やっぱり、アクシアの言動に邪悪さがないせいか、平和ボケした一般市民の勝利には警戒心くらいは抱けても、光流のように“駆除”を念頭に置いた殺意までは湧いてこない。


 ある種、その攻撃性や冷徹さもまた光流の優れた才能なのかも、と勝利は思った。


「悪いけど僕にも他の仕事や私生活があるんだ。アクシアのことはこっちで調査するけど、勝利、君は“こっち側”に片足つっこんでるんだから自衛することだね。神良にも伝えておけよな」


 ギターケースを背負って、光流は公園を立ち去ろうとする。

 そして人払いの結界を解除してくる、とのことだ。


「ところでさ、神良どこ?」


「神良ちゃんは朝日を浴びて、その……し、死にました……?」


「……は?」


 しまった。これは説明が長くなる……。そう勝利はややこしい神良の弱点を恨んだ。




 神良との正式な交際にあたって長島はマネージャー兼保護者として条件をつけてきた。


『いいこと翼ちゃん! お試し期間を設けるの! お互いをよく知ることからはじめないと!』


挿絵(By みてみん)


 翼への条件付き賛同は、『最低でも二週間以上の期間を置き、かつ三回以上のデートをする』そして『お試し期間中は吸血禁止!』というもので、長島は翼と神良にこれを約束させた。

 重ねていえば、光流にも『僕にいっぱい報告しろよ! スパイのつもりで!』『おまじないも定期的にするからな!』等と、面倒くさい条件をつけられた。


 ふたりの保護者はしかし、きちんと翼の意志を尊重してくれてはいる。むしろ味方といえる。

 あえて敵を掲げるならば、音々だ。


「私は、翼には早すぎるって言いたいんですけど、神良様がそう仰るなら……」


 等と、難色を示しつつ渋々という調子。

 音々は翼のことを心配する一方、なんとなく軽い嫉妬心に近いものを垣間見せてくる。他の眷属が増えることで神良の愛情をより独占から遠ざかることは明白だ。神良の寵愛を独り占めできないことは理解し承服していても、本心では焼き餅せずにいられない、らしい。

 神良当人は翼のことを大歓迎ながら、逆に翼同様に周囲の注文に縛られてしまっている。


「はぁ、乙女の花園は華やかなほどに手間や気遣いも伴うものなのじゃ」


「自業自得じゃないですか」


 そう翼は冷淡に突き放すも、神良に甲斐性がないと翼としても困るのでそこは大事だ。

 いわゆるハーレムものには二種類ある、と翼は日頃見聞きする少女漫画を元にして分析する。


 一つは、不確定的な関係のゆるやかな猶予。

 もう一つは、確定的な関係のあきらかな維持。


 例えば、複数の恋愛対象に囲まれつつ“まだ決められない”という猶予状態が前者。それは受け身で自由、そして重大な責任は伴わない。後者は受け身ではいられず、不自由で、重大な責任が伴う。どっちかといえば、後者の方がなにかと大変そうながらすっきりとしてもいる。

 翼は、明確な関係を築こうとしている。

 明確だからこその“契約”だ。何事も、契約は慎重でなくてはいけない。

 そして翼にまつわる契約には常にマネジメントを請け負う長島が関わるのは当然のことだ。

 が――、かといって保護者同伴デートの興ざめ感までは翼も受け入れ難かった。





 十月上旬、高木邸勝利の私室。

 主に音楽機材やノートPC、壁には音楽やミュジロ、アニメ関連のポスターやグッズが飾られる。

 パソコン作業を中断してくれた勝利は、ベッドを占拠した翼の不平不満に耳を傾けてくれている。


「夜間の遊園地デートで保護者同伴というのはわかります。ジェットコースターや観覧車、なんにでも後ろをついてくるのは安全でいいでしょう。雰囲気が台無し、なんて文句は言いません。ですが、ホラーが苦手なのにおばけ屋敷についてきて、長島さんが神良に抱きつくのは本末転倒です」


「あ、あははは……」


「しかもあのゴミ漁りアライグマが余計なことを言ったせいで長島さんにまで神良は興味を……」


「なんか“好き嫌いは反省する”と言ってたけど、そっちの意味なんだ……」


「私とのデート中に長島さんの血を吸いたがっているんですよ、デリカシーがありません」


 勝利は八の字眉の困り顔になりつつ、苦笑いして。


「神良ちゃんの場合、吸血は食事と愛情表現をいっしょにしてるような感じだもんねぇ……。翼ちゃんの血を吸いたいなーって気持ちを我慢した反動なのかな? ごちそうを前におあずけされたワンコみたいなものだと思って許してあげよう?」


「……ごちそう、ですか。そう、ですね」


 間接的に褒められて、翼も悪い気はしない。ワンコ神良という表現はファンシーすぎるが。


「……ねえ、つまんなかった?」


「いえ。楽しかったです。百点満点じゃないだけで、貴重な体験でした」


「そっか。いつか私もいっしょに行きたいなぁ、遊園地」


「……誘ったら、断られないと思いますけど」


 翼の問いに、勝利はさっきとはまた違った苦笑いをする。


「私がね、ダメなんだ。元々ちょっぴり人ごみが苦手なんだけど、炎上騒動の後、ひきこもりがちになっちゃって。まだ、知らない人に囲まれるの、怖いんだよね……」


「……神良と似た者同士なんですね、勝利さん」


 翼は一言に、勝利は「ふえ」と意外そうに目を丸めて驚く。


「似てる? わ、わたしが?」


「初デートしてみてわかりました。神良はたくさんの人間に囲まれると緊張したり、やたら心配がります。勝利さんほど大げさではないですが。……ハロウィンライブの本番までに克服すべきです」


「……そっか、やっぱり、本当は怖かったんだね、神良ちゃん」


 神良が吸血鬼だということは世間には秘密だ。

 闇夜に生き、重大な秘密を隠しながら人間として振る舞うことは心労が伴う。秘密を打ち明けられた相手とて、もし拒絶されたら――。翼が想像するに、神良は大胆で積極的なアプローチと裏腹に、内心では繊細で気遣いしすぎるタイプだ。


 翼は人一倍に度胸があって、目立ちたがり屋が先立つおかげで大勢の前でも緊張しすぎない。それでも五万人のライブ会場はプレッシャーが大きい。

 神良の猫動画の公開は、話題集めと動画配信を通じて撮影に慣れる練習、そして不特定の人に観られることに慣れるトレーニングらしい。


「神良ちゃんはね、プロデュースをさせることで私に立ち直るきっかけにしてほしいんだって。……そんな私に、人前で緊張しない方法なんて教えてあげられるかな……」


「無理ですね」


 きっぱりと断言した翼に「え!?」と勝利は驚く。どうもこの人はおとなしいクセに騒がしい。


「ほどよい緊張はプラスになります。緊張しないことより、緊張した状態に慣れる方が早いです。そして失敗を恐れないこと。多少の失敗はごまかしたりフォローしてもらえば補えます。私はそう音々さんに言い聞かされて育ちました」


「ほえー……」


「――そうだ、これから神良を誘ってデートをしたいです。勝利さんといっしょに」


「……で、デート?! 三人で!?」


 十一歳と二十一歳。なぜ翼よりも勝利は初心なのだろうか。

毎話お読みくださり誠にありがとうございます。


もし面白かったと感ずるならば、そなたの血を捧げるのじゃ!

こほん……、もとい、感想、評価、ブックマーク等お待ちしております。

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