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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
序章 第一話 「速水勇夫の場合」
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三 地獄からの脱出。

 光が当たっていた壁は、廊下の曲がり角になっていた。角を曲がると、通路には微かな光があった。走り出したい気持ちを抑えて、足下を探り探りゆっくりと進んでいく。


 障害物の多いその空間。だが、微かにでも視覚が使えるのは大きな助けになった。

 通路の突き当たり、左から光が来ていた。ドアの外れた部屋の入り口だ。光源に近づくにつれて、周囲の様子がはっきりしてきていた。


 電源の落ちている、死んだモニタ。コンソールパネル。あるものは倒れ、割れ、またあるものは設置されたままに並んでいた。そのモニタの一つが、奇跡的にスクリーンセイバーを表示していた。光源はこれだったのだ。


「病院……かなんか、かな……?」

「良くわかんないな……。何かの施設みたいだけど……。」


 倉科の声は震えていた。無理もない。見えて来るというのはいい事ばかりではなかったのだ。

 歩き始めてから頻繁に踏みつける柔らかい感触。

 薄々分かっていたその正体を目で確認してしまうのは気が狂いそうな経験だった。


「施設なら……出口、あるよね、絶対……」


 倉科は悲鳴も上げることもなく、気丈にそう言った。


 絶対に守らなきゃならない。


 俺の心に、力がみなぎってくるのを感じた。


「うん、絶対に見つけてみせる。

 ……ほら、あそこに扉、見えるだろ? あそこから出られるかも知れない」

「うん……」


 部屋の反対側の扉。窓もなく、頑丈そうな扉だった。

 俺達がその扉を開けようと手をかけると、その扉は呆気なく外れ、倒れてきた。


「うわっ!!」


 慌てて倒れてくる扉をよける。すると、今度は目を焼かれるような強烈な光に包まれた。


「きゃあっ!!」


 たて続く俺達の悲鳴、扉が倒れ、コンソールを破壊する音。

 目をつぶり、倉科をかばうように抱き、静まるのを待つ。


「……っく……、暗闇に目が慣れきっちまってたから……」


 ゆっくりと目を開ける。目の前には、汗と埃で汚れてしまってはいるが、それでも可愛らしさを全く失っていない倉科の顔があった。恐怖は残っていても、静けさと光が戻ってきた事が、彼女を安心させているのがわかる。


「でも、ここは、電気とか生きてるんだね……」


 倉科は俺からそっと身体を離しながら、外れた扉の中を覗き込む。中は別世界のように明るかった。


「そうみたいだな。ますます帰れるのが確実になってきたぞ!」

「うん!」


 倉科は、汚れた顔で、輝くように笑った。





 その通路はそれまでとは違い、全く破壊の跡が残っていなかった。よほど堅牢に作られていたのだろう。

 俺達は明るくきれいで整然とした通路を、場違いに汚れた格好で歩いていた。

 人の気配はなく、それは俺達にとって不安要素ではあった。しかし、だからこそ、悪い方向には考えず、俺達はペースを上げて歩いていた。


「ここ、すごく頑丈に作られているんだね」


 倉科が通路を見回しながら言った。

 壁にヒビ一つ入っていないだけではなく、天井にある照明もすべて生きている。さっきまでいた場所の破壊ぶりと比べて異様さすら感じる。


「そうだね……。シェルターか何か、かな。多分ここの電源も、自家発電なんだと思う」

「何があるのかな……。この先に……」


 倉科は疑問と言うより、むしろ不安の表情を浮かべていた。少しおびえてもいるようだ。情報が全くない不安。自分達がどんな状況に置かれているのかさえ知る術もないもどかしさが、その声ににじんでいた。


「これだけしっかり守られているんだ。何か重要な物が保管してあるか、重要な設備があるか、じゃないかな」

「重要な……?」


 倉科が鸚鵡返しにそう聞いた。俺達は通路の突き当たり、大きなドアの前に来ていた。


「そう。例えば……非常口とか」


 俺がドアの前に立つと、ドアは左右に開いていき、広いスペースが目の前に広がった。

 重要な物。重要な設備。


 俺達を待ち受けていたのは、その両方だった。





「速水くん、これ……なんなの……?」


 格納庫だろうか。スペースの中央部に、見た事もない形状の機体が六機、並んでいた。


「車……? いや、なんだ、これ……」


 近づいてみると、明らかに乗用車のサイズではない。前部にハッチらしきものがあり、人が乗ることを意図して作られているように見える。

 俺は興味を持って、三機ずつ二列に並んでいる、前列一番左の一機に近づいた。


「人が乗れるみたいだな……ちょっと見てみる」

「あ、危なくない……?」


 倉科が小走りに追いかけてくる。


「でも、調べてみなきゃ何もわかんないし……」


 ハッチらしきものの付近にあるパネルを触ると、音もなくハッチが開いた。中はワンシートのコクピットになっている。ちょうどゲーセンにある、乗り込むタイプの筐体にそっくりだ。


 俺は早速中に入り、シートに座った。シートベルトを締めると、機体に火が入る。

 倉科がハッチからのぞき込んで来た。


「は、速水くん……大丈夫……?」

「うん、大丈夫みたい。っていうか……俺はまだ何も操作してないんだけどな……」


 シートベルトを締めただけで計器が次々と起動していき、目の前のメインコンソールにも火が入った。

 起動完了のメッセージとともに、パイロット登録完了のメッセージが表示され、続いてコマンド入力待機状態になる。シートの周囲を囲むシームレスモニタが、機体の周囲を映し出した。全面ガラス張りと同様の視界だ。


「ねえ、ここに表示されているのって……」


 倉科が後ろに来て、モニタを覗き込んでいた。


「発進シークェンス……。ここから地上にカタパルトで……って……」


 倉科がモニタ上のメッセージを読む。俺が画面に手を触れると、発進手順と操作が表示された。

 ここはやはりこの機体の格納庫で、その深さは地下40メートルと表示されていた。『発進シークェンス』とは、カタパルトを使って、この機体を一気に地上へ射出することができるシステムらしい。


「地下40メートルって……そんなに深く……。助かったの、奇跡だな……」

「うん……」


 確かに奇跡だった。ただまっすぐ落ちたとしたらとても助からない深さだ。俺達が落ちた上に何も落ちてこなかったことまで含めて、相当の奇跡が重なったという事になる。

 しかしそんな奇跡に浸るのは、ここを脱出してからだ。まずはこの忌まわしい地下空間から脱出しなければならない。倉科と一緒に。


「これに乗って発進すれば、地上までカタパルトが上げてくれるって訳だな。

 一人乗りみたいだけど、倉科、隣のヤツに乗れそう?」


「勝手に乗っちゃっていいのかな……?」


 倉科は不安そうな声を出すが、不安の原因が「うまくいくかどうか」ではなくて「勝手に乗ったら問題になるのではないか」だというのがおかしかった。


 すでに倉科は右隣の機体のハッチをあけ、恐る恐る中を覗き込んでいた。勝手に中に入るのを、まだためらっているらしい。


「倉科、今って、確実に、非常事態ってやつだろ? そんな事言ってる場合じゃないって」

「うん……そうだね」


 俺はモニタ越しに倉科に声をかけると、倉科は決心を固めるようにうなずいて、俺の隣のマシンに乗り込んだ。


「よし……脱出だ!」


 俺達が発進シークェンスを起動させると、何重にもなっている天井が次々と開いていき……。



 俺達の乗った二機は一気に地上へと射出された。

【次回予告】


生きることに興味がない。


死にたいという欲望もない。


ただ、それだけの存在。


他人の気配に苛立ち、それを避けるために闇を求める。


それでも状況は、否応なく彼を巻き込んでいく。



次回

第二話 「真島一樹の場合」

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