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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
第一章 第四話  「その日、何が起こったか」
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四 保護。

「所属不明機に警告する。所属を明らかにし、投降せよ。くり返す。所属を明らかにし、投降せよ」


 投降を勧告する軍用ヘリ。軍に包囲された速水勇夫は焦っていた。


「俺は都立光桜高校二年C組速水勇夫! もう一人同じクラスの倉科がいる! 撃つな!」


 コクピット内で何度もわめく勇夫。しかしその声が軍用ヘリに届いている気配はない。


「倉科! 大丈夫か! 倉科!」


 一緒に脱出した倉科智美の乗る機体が近くにいることはわかっていた。が、コクピット内で怒鳴ったところで彼女に聞こえるわけもない。






 同じ頃、当の倉科智美はコンソールパネルを操作していた。機械には疎い彼女だったが、状況が状況だ。自分で何とかするしかない。しかし、智美にはコンソールに並んでいるアイコンが何を意味するものか解らなかった。


「どうしよう……。全然解らない……。速水君、どこにいるの……?」


 投降を呼びかける声と軍戦闘機の飛行音が響くコクピット。しかし意思疎通の出来るものがいないその空間は、智美にとっては恐ろしい静寂の空間だった。


「私は倉科智美です! 聞こえませんか? お願い、誰か答えて……!」


 智美が叫んだ時、コンソールからシステム音声が流れた。


「音声入力システム、スタートアップ」


「音声入力……?」


 おうむ返しに聞き返す智美。コンソールにマニュアルが表示され、音声ガイダンスが流れる。


「コマンドを音声で入力できます。操作説明を行いますか?」


「お願い、軍の人に私たちを攻撃しないでって伝えて! 速水君はどこ?」


 システムからの回答は即座に行われた。


「日本防衛警備軍ヘリSR16、同軍戦闘機KK-27Fともに通信回線を構築不能。速水君、とは?」


「通信できない……。じゃあ速水君は? 地下から出る時、一緒だった速水君……」


 智美は目の前が真っ暗になった気がした。何も頼るものがない今は、隣に勇夫の存在を認識できた地下の暗闇よりもさらに心細かった。


「履歴確認。該当機T2-1。通信回線開きます」


 システムがそう答えると、コクピット内に勇夫の声が響いた。


「くっそー、なんで届かねえんだよ……! 倉科! 大丈夫か!」


 こんなに勇夫の声が懐かしいとは。


「速水君!」


 智美は自分が涙声になっているのを感じながら叫んだ。


「……ったく……、どうなってんだ……。倉科は、無事、なんだろうな!? くそっ! なんもわかんねえ!」


 勇夫の声は悲痛に響いていた。智美は胸が熱くなるのを自覚した。


「速水君! 私はここにいるよ! 大丈夫! 速水君!」


 勇夫を早く安心させてあげたい。智美は必死で勇夫に呼びかけた。が、その声は勇夫には届かない。


「倉科……! 倉科は……!」


 智美の眼に、涙が溢れた。


「速水君……! どうして……」


「T2-1側の通信回線がカットオフされています。双方向通信には、両機共に通信回線のオープンを要します」

「そんな……」


 智美の表情に絶望が浮かぶ。






 香川頼造は焦っていた。軍の呼びかけに答えているのだが、彼の声は外に届かなかったのだ。脱出の際に二人に呼びかけた外部スピーカー機能をコンソールパネルに探したが、表示が切り替わってしまっていて、マイクのアイコンを見つけることが出来ない。


 周囲を取り囲む軍用ヘリと戦闘機。コンソールパネルはそのスペックを分析表示していた。頼造には全く興味のない情報だ。下手に触って攻撃をしてしまったりはしないかと頼造は怖気づき、どうする事もできない。






 伊藤瀬里奈のコクピットでは、瀬里奈の苛立つ声が響く中、システムが淡々と状況を説明していた。音声入力を起動したところまでは良かったのだが、瀬里奈の「状況を説明して」という命令が、却って彼女を苛立たせる事になったのだ。

 システムは彼女達の機体を囲む軍用機一機一機の名称、スペックを表示し、音声による解説を行っていた。


「そんな事はどうでもいいの! 私達は一体どうなっているの!?」


 思わず金切り声になる瀬里奈に、システムは淡々と、現状の機の現在位置、高度について報告を開始する。






「なんだよこれ。ギャグ漫画か?」


 真島一樹はそうつぶやいて呆れたように笑った。通信回路を開いて、各機のコクピット内の音声を拾っているのだ。このような状況の中で、彼は明らかに面白がっていた。


 ……しかし。


 突然外部スピーカーを使って軍へ呼びかける声が響き、一樹は渋面になった。しかもそれは、彼が地下で避け続けた、あの幼い少女の声だった。


「防警軍のみなさん、攻撃はやめて下さい! 私達に攻撃の意思はありません。私も、頼造おじさんも、瀬里奈さんも、そして多分他の三機の人たちもです。私達は、地下に閉じ込められ、そこから脱出してここまで来ました。救助を要請します。私の名前は、今野(こんの)華夕(はゆ)です!」







「データ照合。声紋一致。間違いないです、大尉」


 金富が端末の画面を大榊に示した。

 今野華夕、12歳。まさかこんな少女がこんなものに乗っているとは……。


 大榊は驚きを禁じえなかった。彼女の名前は、大榊も当然知っていた。IQ240の天才児。

 数年前、日本だけにとどまらず、世界中で話題になった名前だ。彼女が8歳の時夏休みの自由研究で製作したプレゼン資料「正の質量・負の質量・零の質量」は当時の物理学会を震撼させた。マスコミが熱狂的に報道し、彼女は一躍時の人となったが、現在その熱はすっかり収まっている。


 しかし、政府機関や企業では彼女の協力を欲し、コンタクトを取り続けていた。軍属の大榊や金富が彼女の名前を知らぬわけはなかった。


「しっかし、あの天才少女とこんなところで出くわすとは思いませんでしたよ、大尉」


 金富は大仰に嘆息してみせる。


「本人であることは間違いないですし、信用していいでしょうね」

「当たり前だ。他の機も害意を見せてはいない。基地へご足労願うぞ」


 大榊はそう言って、マイクのスイッチを入れた。


「今野さん、確認が取れました。基地へご同行願います。他の方々にも基地へ来ていただき、身元確認等のご協力をお願いします」


 ようやく取れたコミュニケーション。不明機の少女が安堵のため息を漏らすのが聞こえた。無論、大榊も全く同感だ。


「みなさん、聞こえましたか? 軍の方々と基地へ同行しましょう。この機体のシステムは音声入力ができるみたいです。音声入力オン、と言えば起動します」


 少女の言葉を聞き、頼造が地下施設にいるときから感じていた謎は解けた。頼造はもちろん、天才少女今野華夕の名前を覚えていた。音声入力システムを起動させながら、ここまですべて彼女に助けられてきた事を納得し、受け入れていた。しかも、それは全く不快な事ではなかった。


「それから、この機体は、通信の機能もあるみたいです。通信機能もオンにしておいた方が安全だと思います」


 華夕の呼びかけを聞き、金富は眉をひそめた。


「通信機能……。無線通信技術が実用化されたなんて話、聞いています? 大尉」


 大気圏内の空間電位相が不安定になり、電波通信が実用性を失ってから数世紀が経過している。電波に代わる新しい通信技術はおろか、空間電位相の安定化すら実現できていない現在、通信機能を装備した機体が存在することは脅威であった。通信技術があるという事は、精密なレーダーを備えている可能性も充分に考えられるという事だ。未だに信号弾を使用している防警軍とでは天と地の差がある。


「あの機体、どこの誰が建造したのかはわからんが、宝の山かも知れないな」


 大榊は無表情のままそう言って、機首を基地へ向けた。

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