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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十三話  「戦いの帰結」
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十八 心。

「折角の休暇なのに、基地に残ってるなんてもったいないんじゃない?」


 セリナは自分の病室に集まっている三人を、少し呆れ気味に眺めた。

 脚の怪我はまだ完治してはいなかったが、既に歩き回る事も、普通に生活する事も可能なのだ。


 ただ、十数センチにわたる、一生消えない醜い傷が残っただけで。


 その事実はセリナの心に、意外に深い傷を作っていた。もちろん騒ぎ立てる事はしない。しかしセリナは必死でその傷の存在を忘れようと、意識から消し去ろうと努力していた。


 が、一人になるとだめだった。いつの間にか、傷の事を考えてしまう。


 だから、三人の見舞いは、正直なところありがたかった。


「折角の休暇だから、セリナさんのお見舞いに来たんですよ?」


 ハユが花瓶の水を取り替えながら言った。こんな作業をしていると、学校で日直に当たった中学生のようにしか見えない。


 何故ハユはイサオ達のように家に帰らないのだろう。そんな疑問が浮かんではいた。ライゾウも同様に感じているだろう。しかし、セリナはそれ以上の事を言わなかった。ハユがその家庭に葛藤を持っている事はなんとなく気づいていた。だからこそライゾウもその事を口に出さないのだろう。だが、本当にそれでいいのだろうか。


 セリナは少し考えて、こんな事を考えるのは自分らしくない、と思い直した。自分があれこれ考える問題ではないじゃないか。


「セリナ参尉はコーヒーの方がお好きなんでしたっけ?」


 キッチンから顔を出したのはハユの副官、出海(いずみ)彩華(あやか)技術曹長補だ。ハユについて、彼女もセリナの見舞いに来ていた。


「ありがとう。でも今日は紅茶の気分かな。ライゾウさんは?」


「そうですね。私も紅茶をいただけるかな?」


 相変わらず穏やかなライゾウの声。


「了解いたしました!」


 出海の顔がキッチンへ引っ込む。


「そう言えば、寺嶋くんは?」


 セリナが見回して言った。


「あぁ、彼はイサオ君に付き添って、イサオ君のご実家に行っているよ」


「そっか、今イサオ君には副官がいないですもんね」


 セリナは敢えて角谷の名前を出す事を避けた。一連のスパイ事件は、チームトライに大きな心の傷を残していたのである。

 無論、最も傷ついているのはセリナだったが、むしろ、だからこそ、一番周囲を気遣っているのもセリナだった。

 セリナはふぅっと一つ息をついて、ハユとライゾウを見た。


「……あれからまだ一ヶ月も経ってないんですね。随分昔のような気がするけれど」


 そう、光が丘の震災。それぞれの経緯で巻き込まれたこの三人が、地下の暗闇で出会った、あの日。

 あの日から、三人の運命は大きく、音を立てて変わっていったのだ。


「そうですね。あの時はこんな事になるとは思ってもいませんでした。あなた達を無事に地上に帰す事。それだけしか考えていませんでしたから」


 穏やかな顔でそう言うライゾウに、セリナはしんみりとした表情で、ゆっくりとうなずいた。


「もう、自分は死んじゃってもいいから、なんて考えちゃだめだよ、ライゾウおじさん」


 あの時の口調に戻ってそう言うと、ハユはライゾウの手を握った。


「ごめんごめん。もう大丈夫だよ。この通り、少しは鍛えたしね。みんなハユちゃん達のおかげだ」


 柔らかい笑顔。確かに見違えるほど鍛え上げられたライゾウではあったが、それでも印象は前と変わらぬ柔和なものだった。これが人徳と言うものなのだろうか。以前の自分なら、視界の中にも入らないタイプの、ただのおじさんの風体。


「ライゾウさん。あの時は本当に……」


 セリナが素直な気持ちで感謝の言葉を言いかけた時、基地内に、けたたましく警報が響き渡った。





「これは……やはり間違いないな。仮説でしかなかったが、こうも顕著に観測されるとは……」


 トライセイバーの戦闘データを詳細に分析しながら、鷹城明はつぶやいた。

 あらゆる角度から、何度も検証してみた。だが、答えは同じだった。


「データの取り方には問題ありません。測定誤差までを考慮に入れての検証ですから、結論に間違いはないと思いますが」


 (ばん)和哉(かずや)技術弐尉がタブレットを見ながら冷静な声で言った。鷹城は細かく何度もうなずく。


「再現性を確認しない事には最終的な判断を下せないが……。それを含めて今後のデータが必要だね。この現象に普遍性があるものなのかどうか……」


「この現象は、一体なんなのですか? この超速機動とも言うべき現象は、トライセイバーのシステムではないと……?」


 鷹城はデータを見つめたまま、伴に顔を向ける事無く口を開いた。


「超速機動だけじゃない。詳細はパイロットに直接聞いてみたいところだけどね。これはパイロット個人に起きた現象だと思われる。

 |Concentration exceeding the limit《限界を超越した集中》――。C.E.L.と僕は呼んでいるけどね」


「C.E.L.……」


 伴が鸚鵡返しにそうつぶやいた時、鷹城の端末にアラートが表示された。


「これは……!」


 手早く内容を確認し、鷹城は思わず声を上げた。


「どうなさいました?」


 ただならぬ気配。伴の表情は変わらなかったが、その目に緊張感が走った。


「地底国家ユーラシアが……全滅した」



 鷹城の口から恐るべき事実が語られた瞬間、畳み掛けるように警報が響いた。

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