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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十三話  「戦いの帰結」
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十三 残る問題。

「それにしても」


 宮司が口を開いた。


「鷹城博士の先見性は凄まじいですな。予言と言ってもいい。

 トライセイバーが建造されたのは少なくとも光が丘のテロより前の時点でしょう? その段階でここまで正確に情勢を予測していたとは」


 宮司が改めて、トライセイバーに封印されていた鷹城からのメッセージを思い出していた。

 あのメッセージには、ヤマトの現状、そして作戦の全容や進捗までもが添付されていたのだ。実際に侵攻が始まる前にここまで予測が出来ていたとは。


「あぁ、いや、それは……」


 鷹城の目が泳ぐ。


「鷹城博士、鍵は何番までご用意されていたんですか?」


 ハユがくすっと笑いながら聞いた。鷹城が、ばつが悪そうに苦笑する。


「さすが、君にはばれてるよね。いちお、17番まで作っていたよ」


 鷹城は頭をかきながら答えた。


「ん? どういう事だ? ハユちゃん」


 目を白黒させながら宮司が聞く。


「私が預かっている鍵には、『KEY 3』って書いてありました。三番目の鍵という事です。

 博士は鍵を17番までご用意されていたそうですから、17通りのメッセージを、トライセイバーのシステムに封印されていたって事です」


「そういう事。で、例の宣戦布告をする時、状況は僕の三番目の予測と合致していたからね。三番目の鍵になるデバイスに、宣戦布告を収録して、そっちに送り出したってわけさ」


 二人の解説に、宮司はむぅ、とうなり声を上げた。

 そんなトリックを使う鷹城も、それを見抜いたハユも、一体どんな頭をしているんだ。


「いやぁ、参りました。トリックもさることながら……、いやあの時点で、今の状況予測を17パターンに絞り込めるというのもすごい」


 宮司としては、もろ手を挙げて降参、という気持ちだった。


「あの、博士。ちなみに、一番目と二番目の予測って、どんなものだったんですか……?」


 ハユがおそるおそる、という感じで質問した。鷹城が、その当時により現実的だと思っていた予測はなんだったのか――。


「いや、ほとんど変わらないよ。

 一番目は僕が殺されている場合。そして二番目は、僕と秘書官が殺されている場合。三番目は両方生きている場合だったんだけど、三番目が当たってくれてよかったよ」


 目を丸くするハユ。鷹城は事も無げにそう言うと、照れたように鼻の頭を掻いた。




「最後にもう一点。ご報告があります」


 伴がタブレットを片手に、立ち上がった。


「情報漏洩問題についての報告です」


 大榊は、はっと身を固くした。帰還した直後に萬田から概略だけは聞いていたのだ。

 金富の、スパイ容疑。だが詳細を聞くのはこれが初めてである。


「本日18:30頃、士官候補生の角谷(かどや)(あらた)木下(きのした)麗華(れいか)の両名が、Tシリーズのデータを集め、外部に送信しているところが発見されました。第一発見者は金富(かなとみ)(じょう)航空参尉。ですが、彼がこの情報漏洩の首謀者でした。

 我々が現場に踏み込むと、金富は木下を殺害し、逃走しました」


 誰も声を上げなかった。チームトライのメンバーが身じろぎをする微かな音だけが響いた。稲本や出海達も、頭を強打されるような衝撃を感じながらも冷静さを保っていた。


 ――そっか。あの男、あの子ともデキてたのね。


 セリナにとって、それは大して驚く内容ではなかった。想像はついていた事だ。

 ただ、それが確認できただけの事だった。


 木下の態度に、嫉妬のような情念を感じた事は一度や二度ではない。本人はうまく隠しているつもりだったのかも知れないが、セリナにはそれが手に取るようにわかっていた。なぜなら。


 そのような感情は、セリナにとってはお馴染みのものだったからだ。会社にいた頃は常にそんな暗い感情とともにあったような気がする。

 しかし、金富との関係において、そんな感情は一度もわかなかった。彼が今や裏切り者の犯罪者だとわかっても、何の感傷もわかなかった。

 多分金富がその場で銃殺されていたとしても、自分は何も感じなかっただろうな、とセリナは思っていた。


「それで、金富と角谷はどないしたんや」


「はい。角谷新は現在身柄を確保して、取調べ中です。彼については余罪はないようです。今回木下に利用された、というところでしょう。


 金富は、現在まだ逃走中です。申し訳ありません。

 現在、基地への出入りを入念にチェックしていますから、基地内のどこかに潜伏しているのは間違いありません。

 余罪については調査中ですが、現在わかっているだけでも、朝霞基地における情報漏洩も含めて相当数の案件に関与していた事が確認されています」


 大榊は思わず立ち上がった。深々と頭を下げた。


「申し訳ありません。全て上官である私の責任です」


 最初から金富とは馬が合わなかった。いつも気疲れしていたのだ。今にして思えば、金富に何か油断の出来ないものを感じていたのかもしれない。だが彼の実務能力は買っていたし、感じていた不信感も好悪の感情から来るものなのではないかと思い、公平に評価しようとしていたのだ。しかし、それがこんな事態を巻き起こす事になるとは。


「そやな。だが壱尉の責任問題を云々するのは、金富をとっ捕まえてからや。基地内の警備態勢は強化しとるし、捜索もしとるけど、奴は銃を持っとる。みんな充分気ぃつけてや」


 萬田が厳しい顔で言った。


 確かに、イサオが基地に戻ってきた時、廊下を巡回している軍人が多いなと違和感を感じてはいた。

 なるほど。そういう事だったのか。それなら……。

 イサオは手を上げた。


「なら、俺達は全員で部屋に戻るようにします。一人一人部屋まで送っていけば危険は少ないと思うので」


 イサオの発言にライゾウもうなずく。


「私も同行しよう。最後の一人まで無事に部屋へ送り届けなければ」


 大榊が言った。


「俺も一緒に行こう」


 宮司の表情も厳しくなっていた。


「そやな。わしらは金富の捜索、確保に全力を尽くす。これから巡回を減らしてその分捜索を強化するから、君らは部屋に戻ったら今日は外出は控えてくれ」


 萬田はいつになく真剣な表情で言った。


 戦争は終わった。しかし、筑波基地ではまだ、全てが終わってはいなかった。

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