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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十三話  「戦いの帰結」
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十二 有機演算処理システム。

「あの……鷹城さん」


 トモミが意を決したように手を上げた。どうしても聞いておきたい事があったのだ。


 敵機、死闘を繰り広げたT型とM型。

 戦闘後、破壊された敵機の残骸を確認した時、やはり人が乗るコクピットは存在しなかった。ならば何故、彼らは意思を持って行動しているように見えたのか。特に、M型の最後の姿はトモミには人間そのものに見えていたのだ。


 トモミが何を聞こうとしているのか、ハユにはわかっていた。T型とM型が搭載するOSの秘密。トライセイバーに封印されていたデータによって、ハユは全てを把握していた。もちろん大榊や基筑波地には、あの時すぐにその情報を含めて送付していた。だがハユは、パイロット達には超合体シークェンスの情報のみを共有し、敵機のシステムについては敢えて伏せていたのである。


 それは、あまりにも衝撃的なその情報が、特にトモミの戦意に大きく影響してしまう危険を考慮しての判断だった。

 そして、今もなお、ハユは自分の口からそれを話す勇気が持てなかった。うまく説明できる自信がなかった。


 鷹城明がどう説明するのか――。それは、ハユにとっても興味深かった。


「ヤマトのあの機動兵器……。私には、人が乗っているようにしか見えませんでした。でも、無人機でした。彼らは一体何だったのですか? 私は何度も彼らの声を聞いているんです。教えてください。私達は、一体何者と戦っていたのですか?」


 トモミはモニタ越しに鷹城明を見据え、一気にそう言った。鷹城は一瞬ハユに視線を移し、うなずいた。


「T型とM型の事だね。あれは無人機だよ。トモミくん」


 鷹城はトモミをまっすぐに見つめて言った。


「ただし、あれに搭載しているのは単なるAIではない。人間にしか持ち得なかった能力を付与し、強化した新型のOSなんだ。そう言った意味では、あの機体は人造人間と言っても良い代物なのかもしれない」


「人造……人間……」


 トモミは鷹城の言う意味をはかりかねて、鸚鵡返しにつぶやいた。

 人造人間。という事は、あの恐ろしい敵機そのものが、人工的に作られた人間だと言うことなのか……?


「記憶、情報処理、思考、判断。これらの分野においては、既にAIを中心とする技術が人間の力を凌駕している。だが、感情、直感、他者との共感、そして欲求などは未だにAIでは再現すら出来ていない。

 T型、M型に搭載した新システムは、その人間特有の能力を持ち、更にAI技術によって大容量の記憶、高速度情報処理、思考、判断を備えたシステムってわけだ。


 それが【有機演算処理システム】。つまり、AIの中心に、人間と同じ脳神経細胞を組み込んだものなんだよ」


「それって……もしかして……」


 トモミの脳裏に恐ろしい考えが過ぎっていた。人間と同じ脳神経細胞。と言う事は、人間から脳を取り出して……。


「安心してくれていいよ。あれに使われている脳神経細胞は、クローン技術で培養されたものだ。T型に使われた細胞も、M型に使われた細胞も、そもそもの細胞提供者は健康に生きているよ。この通り」


 鷹城は笑って自分を指差して見せた。


「え、じゃあ……」


「そ。T型に組み込まれていた脳神経細胞は、僕の細胞から作られたものだ」


 鷹城はそう言って肩をすくめた。


「人間の感情や欲望を持たせるためのシステムだ。という事はもちろん、T型やM型にも感情や意識があるという事になる。だからこのシステム自体が人道に反するという批判はあるだろうね。


 僕としてもこんなシステムは実用化したくなかった。だが、ヤマトとしても軍備を整えなければならなかった。連合政府の圧力が大きかったというのも大きな要因だ。


 だから僕は、人間を戦いにかり出すよりは、せめて戦う罪を背負うべき僕の細胞を使おうと決めたんだ。M型のシステムには、腹心の秘書官から細胞を提供してもらった。あのシステムで使われた細胞は、全て僕と秘書官二人の細胞から作られたものなんだ」


 淡々と語る鷹城。トモミには鷹城の気持ちが全く想像できなかった。自分のクローンを兵器に組み込むというのはどんな気持ちなのだろう。しかも、それが撃破される事まで予定の上で。自分の一部を失うような気持ちなのか。それとも、自分の子供を失うような気持ちなのか。


 一体この人は、何を考えているんだろう。何を感じているんだろう。


「近いうちに僕も地上に上がる事になる。また詳しい話はその時にしよう。僕の方も色々聞きたい事があるからね」


 鷹城はハユに顔を向けた。


「君がまとめてくれたデータも見てみたいんだ。こちらからの観測でも、だいぶ興味深い現象が確認されているからね」


「では、こちらの分析班で収集したデータも含めて、共有いたします。整理はせずに、生データでお送りしたほうがよろしいですよね」


 伴が立ち上がって言った。鷹城は笑顔でうなずいた。


「それでは、私の方からもご報告致します。

 まず、戦果については先程概要の報告がありましたので省かせていただきます。私の方から特に報告しておきたい事は、鷹城総理大臣が仰っていた事と重なるかと思いますが、トライセイバーの超速機動とでも言うべき現象についてです。詳細にはまだ分析中ですが、これは筑波奪還作戦時にトライアインに起きた現象と酷似しています」


 伴の報告に、鷹城はうんうんとうなずいた。


「そう。それなんだ。また、今回は他にも気になる事があってね。詳細に調べてみないとなんとも言えないんだが……。

 パイロットのみんな、僕がそっちに上がったら、一度ゆっくり話を聞かせてもらえないかな」


 あの透明な感覚の事だ――。トモミはモニタ上の鷹城に視線を向けた。自分でも正体のわからない、あの感覚。でもあれは、トライセイバーに隠された秘密の機能なんじゃないのか……?


「あぁ、それから、伴君、だっけ。『総理大臣』は勘弁してくれないかな?」


 鷹城は頭を掻きながら言った。


「いえ、しかしそれでは……」


「柄じゃないしさ。一応終戦して、ヤマトという国家はなくなるんだ。だからさ、呼び捨てでいいんだけどー、うーん、せめて、僕の本業の方で呼んでくれるとありがたいかな」


 そのやり取りを、岐部総理大臣は苦笑いしながら聞いていた。


「私からもお願いします。まぁ今ここは非公式の場ですし」


「そうですか。では……」


 岐部総理大臣の言葉を無碍にも出来ず、伴は表情を変えずに言い直した。


「この件、つまりトライセイバーの超速機動をはじめとする特異現象については、鷹城博士と協力しながら分析したいと思います」


 伴はそう締めくくった。やはり『総理大臣』より『博士』の方が断然しっくりくるな、とハユは思った。

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