表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十三話  「戦いの帰結」
132/140

十一 鷹城明。

 連合政府。一般には全く知られていない存在だった。大榊や宮司といった、軍の士官ですら聞いたことはなかった。国の閣僚レベルならば知っていようが、さもなければ財界の中心人物ならあるいは知っているかも知れない程度の、厳に秘匿された存在、それが連合政府だった。


「今回の地上侵攻は連合政府の旗振りで行われた。でなければ七大国揃って行動に出るなんて事はありえない。

 ということはだ。連合政府は、地上と地底のパイプ役という利権を放棄したわけさ。いや、正確に言えば、別の利権に乗り換えたんだろう。

 そしてその新しい利権にとっては、人類が地上と地底に分かれている事は不都合なんだろうね」


 鷹城の説明は驚くべきものだったが、そこには聞き入らざるを得ない、真実の重みがあった。

 自分達が何をしてきたのか。自分達は何のために戦ってきたのか――。その答えが、目前に迫っていた。


「連合政府は、七大国に地上へ出る事を要求した。そうする事で、更なる発展が約束されると。

 そしてそれを拒む事は許されなかった。

 地底での経済制裁は、すなわち、国民の死に直結するんだ。逆らう事はできなかった。


 さらにもう一つ、連合政府は七大国に要求した。

 それは、地上進出の際、武力による戦争を起こす事。戦争によって、地上の領土を勝ち取る事、だった」


 鷹城の言葉に、イサオの目が丸くなった。

 何故だ。友好的に地上に上がってくればいいじゃないか。多少の軋轢は生むかも知れないが、殺しあうよりははるかにマシじゃないか。

 イサオは、素直にその疑問を口にした。当然の疑問だ。

 鷹城はイサオの顔を見て、一つうなずいた。


「そうだよな。僕もそう思うよ。イサオくん。でも……」


「経済……ですか」


 ハユがぽつりと言った。


「そう。まさにそうなんだ。

 経済活動。経済規模が拡大するために一番必要なのは何か。それはね、無駄遣いをする事なんだ。

 人間一人あたりの生み出す価値が、一人以上の人間を生活を支えられるのなら、必ず余剰が出る。無駄を完全に省くと、その余剰分は売れずに捨てられる事になるだろう?


 つまり、誰かが大きく無駄遣いをしなければ、経済は発展しないんだよ」


「なるほど……そしてその究極の無駄遣いが、戦争ってわけね」


 セリナが腕組みをして言った。


「そう。とにかくヤマトとしても日本に戦争を仕掛けなければならなくなった。

 そこで僕は考えた。日本と協力して乗り切ることはできないかと。

 僕はたまたま昔地上に出たことがあってね。その時に、岐部君と友人関係になっていた。彼となら乗り切ることが出来るはずだと思ってね」


「もちろん私は鷹城さんから聞いた事を信じました。彼との友情もありますが、その話に筋が通っていて、真実が持つ説得力を感じたからでもあります。


 私が彼からこの話を聞いたのは、もう何年も前の事です。その時は一介の議員でしかなかった私ですが、なんとかその戦争までに総理大臣となって、彼に協力できるように努力してきたんです。

 その時彼の言っていた事が、ずーんと心に響きましたからね」


 岐部総理大臣は穏やかな声で言うと、モニタ越しに旧友を眺めた。鷹城は少し照れたように、丸眼鏡をはずしてレンズを拭いた。


「戦争に一般人を巻き込まない。この戦争で出来るだけ人を殺さない。

 戦争被害者を出さずに終戦させる事が、僕達の「勝ち」だ。僕と岐部君はその時そう誓った。

 ……心ならずも出だしで多くの犠牲を出してしまったけど」


 鷹城の表情は無念そうだった。


「光が丘の一件……ですか」


 宮司が言った。そう。5月25日18:43。17万人もの死者行方不明者を出した大災害。そして、民間人だったTシリーズパイロット達をこの戦いに巻き込んだ、すべての始まり。


 光が丘を襲った震災。それは筑西に大穴を開けたGコンがもたらしたものだ。そして目標となった光が丘の地下には、Tシリーズの建造拠点があった。これは偶然によるものなのか――。


「そう。たくさんの犠牲を出し、そしてトライセイバーパイロットのみんなを巻き込んでしまったあの事件。あれを防ぐ事が出来なかったのは、僕の最大のミスだ」


 鷹城は沈痛な面持ちで言った。


「連合政府の息のかかった者が内部にいた事に気づかなかった。

 Gコンを使った光が丘へのテロ。だが奴らの目的がまだはっきりしていないんだ。

 どうやら連合政府には、トライセイバーの情報は漏れていなかったみたいだったからね」


 いや、だとしてもあのテロを起こした者が光が丘地下で建造されていたトライセイバーを狙ったのは間違いないだろう、とイサオは思った。いくら何でも、目的のはっきりしないテロがたまたまトライセイバーのあった光が丘で起こるなど、ありえないじゃないか。


 ならば、考えられるのは。

 トライセイバーの存在を知っている、別の敵。


 もしかしたらその正体はとんでもない者かも知れない。そう、例えば、味方を装った、敵の指導者とか――。


 イサオは射るような目を、モニタに映る鷹城明に向けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ