十 この戦争とは。
「みなさん、本当にご苦労様でした。そして、ありがとうございました」
モニタスクリーンの中で岐部内閣総理大臣、そして御殿場防衛警備大臣が頭を下げた。
会議室に集まっているメンバーも立ち上がって礼をした。食事を終えたチームトライのメンバーに、分析班の伴弐尉も加わっている。宮司やパイロットの副官たちも集まっていたが、木下と角谷の姿はなかった。
「おかげで、被害を最小限に抑えて終戦を迎える事が出来たと思います。全て、防衛警備軍の方々、とりわけチームトライの皆さんのご尽力の賜物です。
本来ならば私もそちらに出向いて、直接お礼を申し上げるべきところなのですが、戦後処理が立て込んでおりまして」
「いやいや、総理はそちらが本職ですからな、そちらを最優先してもらわんと」
萬田の言葉に、岐部は穏やかにうなずいた。
「詳しい事はまた後日報告してもらうとして、今日はざっくりと、簡単な経緯だけでも報告していただけたらと思っています。よろしくお願いします」
大榊を除いて一同が着席する。
「詳細については、ハユ参尉からのデータを整理し、改めて提出させていただきますので、概要についてのみご報告いたします。
本日1906時。トライセイバーはヤマト所有の機動兵器殲滅を確認。巨大Gコンを制圧。続いて1930時より防警軍制圧部隊がヤマトへ降下。政府施設を制圧致しました。その際にはヤマト側からの抵抗はなく、要人保護についても速やかに行われました」
大榊は簡潔にそう報告し、着席した。
「なるほど。まぁ戦闘状態を継続でけへんわけやから、終戦は当たり前やな。となると、あとは政治の問題や。総理、たのんまっせ」
萬田がうんうんとうなずく。しかし、チームトライメンバーの表情は固い。それぞれが、心に引っかかる何かを感じているのだ。
「あの……」
ハユが手を上げた。ずっと疑問に思っていた事があるのだ。それは。
「この戦いは、何のために行われたんでしょうか……?」
地底国家ヤマトが地上を取り戻すために宣戦布告したという事は知っている。だが、地底の民が地上に上がるために本当に戦争という手段しかなかったのか。
岐部総理大臣と鷹城明は旧知の仲だと言う。ならば尚更、戦争以外の手段を講じる事が出来たはずだ。
「それは……」
岐部は言いかけて、御殿場大臣を見、そしてモニタ越しに萬田空将を見た。
「伴くん。どうや」
「はい」
萬田空将に名指しされ、伴弐尉はトレードマークにもなっているタブレット端末を片手に立ち上がった。
「この回線は、基地奪還後に新たに敷設された専用線です。情報部で極秘裏に敷設されており、完全に直結された回線ですので、盗聴、漏洩のご懸念には及びません」
「彼の言う事なら間違いおまへんで。総理」
萬田空将が請合うと、岐部はうなずき、表情を引き締めた。
「そうですね。あなた方には全てをお話しなければならないですね」
岐部がそう言った時、総理官邸の執務室にコール音が響いた。
「どうやらゲストがいらしたようです。ちょっと待ってください」
岐部がモニタを操作すると、スクリーンが分割され、よれよれの白衣に丸眼鏡の男が映し出された。
「やぁ。……ええと、どう挨拶したらいいか悩むね、こういう時」
男は頭を掻きながら言った。
「鷹城さん……!」
思わず声を上げるハユ。
「鍵、ありがとうございました!」
立ち上がってぺこりと頭を下げる。
「やっぱり、鍵を開けたのは君だったか」
鷹城は優しい笑顔をハユに向けた。
「はい! もちろん、イツキさんや伴さん、そしてみなさんの協力があっての事ですけど……!」
「そうだね。本当にみんな、すばらしい戦いぶりだったと思うよ。
あ~そうだ。ところで岐部君。何の話をしてたんだい? 話の腰折っちゃってごめん」
今更のように岐部に頭を下げる。
「そうですね。ハユさんからの質問にお答えしようとしてたんですよ。
この戦いは何のためだったのか、っていうね」
鷹城は岐部の説明をうんうんとうなずきながら聞いていた。
「それについては、僕から話す方が良さそうだね。全てこちら側の都合で始まった事だから」
「もちろん、ヤマトと総理官邸のホットラインも検証済みです。前回の情報漏洩は別の所から起きておりまして、現状、この通信については盗聴等の恐れはありません」
すかさず伴が保証した。鷹城はうんうんとうなずいた。
「じゃあ、遠慮なく話すけど……、さて、どこから話せばいいかな」
鷹城明はそう言うと、少し考えてから話し始めた。
「少し、歴史を遡らないといけないね。
昔、宇宙に出た人々が地球に戻って来た時、地球に残った人々との間で戦争が起きた事はもう知ってると思う。そして、地球に残っていた人々が敗北し、地底に追いやられたと言う事も。
地底では、人類は七つの国に分かれていて、それぞれがそれぞれの方法で生き延びてきた。だけどね、地底というのは過酷な環境でね。もちろん地上からの援助がなければすぐに滅びてしまう状態だった。
地上の人々は地底の人々がちゃんと暮らせるように、援助する団体を作った。無論、地底の人々が地上への侵攻など考えないように監視するという意味合いもあっただろう。彼らは『連合政府』を名乗り、七大国政府のあらゆる活動に口出しをするようになった。
それから時が過ぎ、地底の七大国も安定して発展できるようになってきた。独自の技術なども開発し、力をつけて来たんだ。
だがそれでも、七大国は全て連合政府のいいなりにならざるを得なかった。連合政府はもともと地上の人間が作った組織だ。地上と地底とを結ぶ、唯一のパイプだったからね。
交易も技術移転も、地上と地底を結ぶものは全て連合政府を通さなきゃいけない。これはとてつもなく大きな利権だ。
連合政府は、軍もなくわずかなメンバーで構成される小さな組織なのに、その巨大な利権と、そこから来る経済力で、七大国を完全に支配下に置いていたんだ」
鷹城は、歴史の講義をする教授のように淡々と説明を続けた。