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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十三話  「戦いの帰結」
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九 帰還。

 同日19:30。


 筑西の大穴より、改修型ドローン部隊が地底に降下して行った。

 陸上部隊を乗せたコンテナを係留して降りていく者も少なくない。地底国家ヤマト制圧部隊である。


 ただし、彼らの主な任務は戦闘ではない。

 既に戦力と呼べるもののないヤマトにおいて、彼らの任務は政府要人の保護である。彼の国の内部で、指導者の暗殺などが起こらぬようにするためだ。軟禁状態にあるという鷹城明の安全を確保する事も、最重要任務だった。


 チームトライのサポートによって、彼らの任務は滞りなく完遂された。一発の銃弾も撃たれず、一滴の血も流れなかった。


 いや、そうではない。

 日本防衛警備軍が到着する前に、反鷹城派の有力なメンバーは既に死んでいたのだ。

 自ら頭を撃ち抜いた者。何者かに射殺された者。

 防警軍に目立った抵抗が向けられなかったのは、そういう理由でもあった。






 21:11。


「ようやく回線が復旧したよ。心配かけてしまったね、岐部君」


 日本国総理官邸の執務室に、鷹城明の声が響いた。岐部(きべ)信太郎(しんたろう)内閣総理大臣はモニタに映る旧友の顔を嬉しそうに眺めた。


「トライセイバーの諸君のおかげだ。こちらの問題も大方片が付いた。あとは事後処理だけだ。協力頼むよ」


 モニタの中の鷹城明は、相変わらずの風貌で、頭をかきながら言った。その変わらない雰囲気が、岐部にはとても心地よかった。


「それはもちろん。後で、基地やチームトライのメンバーとも回線をつないで話したいんだけど、いいかな?」


「チームトライ?」


 鷹城がきょとんとして聞き返す。


「あぁ、トライセイバーの運用にかかわるチームの名前だよ。君がこっちに来たら、そのメンバーになってもらうんだから、覚えておいてくれ」


「へぇ、チームトライか。いい名前だね。でも、僕がそのメンバーになるってのはまずいだろ。せめてオブザーバー的な立ち位置がいいんじゃないか? 仮にも敵国のリーダーだったわけだし」


 鷹城は丸眼鏡を外してレンズを磨きながら言った。まんざらでもない気分なのだろう。


「でも、戦いはまだ続くんだろう? ならしっかりと最後まで関わってもらわないと」


 岐部の言葉に、鷹城は眼鏡をかけ直し、苦笑して見せた。


「友達使いが荒いなぁ岐部君は。でもその前に、岐部君にも一仕事してもらわないとね。これから僕達と、和平交渉をしなくちゃならないんだから」


「それは問題ないよ。もちろん、和平交渉時の君の演説にかかってるわけだけど」


 鷹城は一気に困り果てた顔になった。


「その演説ってのがどうも苦手なんだよなぁ。岐部君、代わってくんない?」

「さすがにね。それはね。無理」


 二人はひとしきり笑った。


「……勝ったね。鷹城君」

「あぁ、僕達は勝ったんだ。岐部君。完全に、とは言えないのが残念だが」


 二人は、黙祷を捧げるように、目を閉じた。





 新暦518年6月13日、地底国家ヤマト、降伏。


 その報が全国に流れた。東京都にも安全宣言が出され、日本国民は一旦の安堵を得た。


 今回の戦争は、一体なんだったのか。

 三日後の6月16日に設定された和平交渉で、その全てが明らかになる。


 人々は期待と一抹の不安を抱きながら、それでも終戦の安らぎに満ちた夜を味わっていた。






 同日22:37。


「みんな、ご苦労さんやったなぁほんまに」


 大榊と合流し、筑波基地に帰還したチームトライを待っていたのは、基地司令官である萬田空将からのねぎらいの言葉だった。


「すぐにでも休んでもらいたいというのが本音なんやけどな。まぁ簡単な報告会を兼ねて、一緒に飯食お思てな。とりあえず風呂でも浴びて、いつもの会議室に集まってくれへんやろか」


 萬田が申し訳なさそうに言うと、大榊はメンバーの表情を見回して、うなずいた。


「了解いたしました。なるべく急ぎますが、三十分くらいは見ておいていただけると助かります」


「あぁあぁ、急がんでええ急がんでええ。……と言ってももうこんな時間か。眠なるなぁ。まぁみんな明日は思う存分朝寝坊してええから、もう少しだけ辛抱してや」


 口調こそ冗談めかしてはいるが、萬田は本気で心配しているようだった。ついこの間まで民間人だったチームトライのメンバーだ。それにまだ年若い者もいる。そんな彼らが戦争を終結させる立役者になってくれた――。萬田はまさに頭の下がる思いだった。


「あの、萬田空将」


 ハユがそっと手を上げる。


「ん? ハユくん、なんや?」


「今回の戦闘データをまとめておきました。整理するほどの余裕がなくて申し訳ないですけど……」


 ハユは地底での戦闘データを記録したデバイスを、折原航空参佐に差し出した。


「おお、それは助かるな。折原君、早速分析班に回しといてくれ。あと、大榊君も必要やろ。データのコピー送ったっといてや」


「かしこまりました。空将。

 ハユさん、恐れ入ります」


 ハユからデバイスを受け取ると、折原はハユに丁寧にお辞儀をした。


「助かります。宮司壱尉へは、私の方から共有しておきますので」


 大榊が踵を揃えて敬礼すると、萬田は大きくうなずいた。


「ほんならいったん解散や。あぁそれから大榊君はちょっと残ってくれ。一つ、耳に入れておきたい事があんねん」


 萬田が最後に付け加えた言葉。それは大榊にとって、ある程度の予感を伴った、不吉なものだった。






 会議室に用意されていた食事は、チームトライのメンバーが想像していたものとは大きく異なっていた。オードブルやサラダバーのようなものはなく、温かいご飯、味噌汁。そしてコロッケやトンカツ、から揚げなどの揚げ物類、ハンバーグやカレー、そして卵焼き、きんぴら、漬物などの惣菜といった馴染みのある料理が並んでいた。


「これはな、とある有志の方からの差し入れでな。こういう料理の方がほっとするやろ」


 萬田が早速卵焼きを口に入れる。


「ほぉ! これはむっちゃうまいで! ほら、早うみんなも食べ!」


「空将! まだ皆さん召し上がってないんですから! ねぎらう側の空将が先に召し上がってどうするんです!」


 折原が慌ててたしなめる。


「なんや、あかんか。折角の料理も冷めたらもったいないやろ。みんな勝手にどんどん食うたらええねん。無礼講や」


「無礼講というのは、目下の者が目上の者に気を遣わなくて良い、という事でしょう。目上の者が率先して無礼講を享受してどうするんですか!

 ……すみませんね、皆さんも遠慮なさらずどんどん召し上がってくださいね」


 もはやお馴染みとなった萬田と折原のやり取り。正直、イサオは食欲など全くなかったが、彼らの言葉に押されるように、料理を取って席に着いた。


「……いただきます」


 味噌汁に口をつける。その瞬間、イサオははっとした。


 そしてあふれてくる、涙。



 ……親父の味だ。



 帰ってきたのだ。戦いの場所から。俺は帰ってきたんだ……。


 勇夫は乾いた心に水をまくように、懐かしい味のする料理を腹に詰め込んでいった。

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