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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
第一章 第四話  「その日、何が起こったか」
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二 遭遇。

 テロの可能性を念頭に置いた上層部からの命令が異例の早さであった事も大榊の頭に引っかかっていた。単なる災害派遣や情報収集ならいざ知らず、各種の情報を勘案してテロの可能性ありと判断を下すのには時間を要するはずだった。

 大榊が受領した命令書には総理大臣も署名している。つまり、各種専門家による分析や、閣議による方針決定などを経ていると言う事だ。大榊がこの命令書を受領したのは発災から一時間もたっていない19:30であったが、通常このような発令が行われるには、短く見積もっても3~4時間はかかると見て良い。


「裏に何かあるってことでしょうかね」


 金富がそう言いながら鼻をぴくつかせた。興奮している時の癖だ。


「さぁな。それを考えるのは俺達の仕事じゃない」


 大榊は金富には取り合わず、被災地区の地図に眼を走らせた。現在位置は光が丘公園上空。上層部から、特にこの周囲を重点的に調査せよと命令を受けた地区だ。それについても、大榊には腑に落ちぬところがあった。


「大尉が直接ここの調査をするよう命令が来ているって事は、ここがテロの標的になっていた可能性があるって事ですか。いや、テロ組織が潜伏していた場所と推定されているという事でしょうか」


 金富の洞察は鋭い。大榊が腑に落ちないのもその部分だった。命令書や付随する資料を検討していても、上層部がこの地点を【テロの標的】と見ているのか【テロ組織の拠点】と見ているのかが不透明なのだ。通常このような事はあり得なかった。標的と拠点とではその後の対応は全く異なる。そこを明らかにせずに命令を下すことは、作戦行動に命を張る者に対して不誠実極まりない。


 が、大榊には上層部がそのような不誠実さを故意に行うとは思えなかった。【テロの可能性】【光が丘公園周辺】という詳細を把握していながら、それが【標的】なのか【拠点】なのかは不明。ありえないと思われるほどの矛盾だが、それが実際に起きているのだろう。真相は、その全てに矛盾がなく筋が通っているはずだ。大榊はその真相にたどり着きたいという自分自身の欲求も、この命令を遂行する大きな動機になっている事を自覚していた。


「どちらにしても、テロリストとぶつかる可能性があるって事ですよね。ドローン部隊のほとんどが出払っている時に、最悪のタイミングだ」


 金富がぼやく。朝霞分屯基地所属のドローン部隊は現在、茨城県筑波市にある防警軍基地に於いてメンテナンスとシステムのアップグレードを行っており、朝霞には偵察用の数機しか残っていない。テロリストの戦力がわからない以上、戦闘の初手には無人機を運用するべきだったが、それも出来ない最悪のタイミングであると言えた。


「とにかくまずは情報収集だ。予断を持って目を曇らせると足をすくわれるぞ」

「了解!」


 こういう時素直に従うところが金富の評価が高い要因だろう。鋭い洞察を見せながら、上に対する尊重と敬意を示す、その如才なさは天才的だ。


 光が丘公園周辺に不審な点は見当たらなかった。大規模に倒壊したビルやマンション群。生存者はおろか、動くものを見つける事も出来なかった。赤外線によるサーモグラフィでも、生物を確認することは出来ない。


 自然の地震であると断じるには不自然な点が多すぎたが、人為的に引き起こされたとすると、それ以上に不自然だった。自然現象にしては被害が限定されすぎ、人為的なものだとすれば規模と被害が大きすぎた。帯に短したすきに長し、と言ったところだ。


 大榊は頭を整理するため、不自然な点を整理し始めた。


・限定された範囲の被害と、それ以外の被害の差。

・火災などによる二次被害の少なさ。

・半径2kmという広範囲に徹底的な破壊をもたらす兵器は想定不能。

・政府レベルでテロを想定しているが、その根拠が不明。

・ピンポイントで【光が丘公園周辺】を【標的】または【拠点】と想定している。

・【標的】【拠点】という相反する可能性を同時に想定している。

・【光が丘公園】は、被災地域の中心からは外れている位置である。


「なるほど。確かにここ、被災地区の中心じゃないですね」


 大榊の横に立ち、メモをのぞきこんで金富が言った。大榊はその金富の無礼を咎める風もなく、金富を見上げた。


「いや、失礼しました。でも、ここが被災地区の中心でない以上、テロの標的であった可能性は相当低いですよね。拠点と見る方が理に適っていると思いますが」


 確かに金富の言う事には大榊も同感であった。なぜ光が丘公園に焦点が当てられているのか。被災地区の中心に標的があると考えるほうが自然ではないのか。

 思考は堂々巡りになってしまう。まだ自分達に開示されていない情報があるのだと考える他はなかった。


「……ん?」


 金富がモニタに不審な変化を発見した。


「大尉、地表に変化あり。瓦礫の一部が吹き上げられています!」


 金富はそう言うと、大榊の言葉を待たずに拡大画面をモニタに表示させた。

 地面から瓦礫が吹き上がっている様子がはっきりと見て取れた。小さなものだけではない。何tもありそうな大きな塊も軽々と吹き上げられている。


「これ……なんですか……?」


 大榊にも全く未知の光景だった。


「とりあえず全てのライトを消せ。こちらに気付かれるな」


 金富が手際よく機体外部のライトを消す。その間に、瓦礫の吹き上がっている箇所がもう一つ増えた。

 何が起こると言うのか。大榊の身体に緊張が走る。何か対策を打つ必要があるのではという責任感と、その対策が全く浮かばない焦燥。金富も同じ事を感じているようだ。


「何か出ました!」


 金富が報告する。大榊も見ているということは解っていても、報告せずにいられなかったのだ。最初に瓦礫が吹き出していたあたりから何かが発射されたのが、大榊にもはっきりと見えた。射出された何物かは一気に上空へと消えていった。

 続いてもう一つの物体が発射され、瓦礫の吹き出しが止まった。

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