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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十三話  「戦いの帰結」
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五 もう一つの戦い。

 その時、イサオは体験した事のない透明な感覚の中にいた。状況の全てを観察し……、そして見える、一瞬先の未来。

 しかし、超能力という感覚はなかった。状況を予測するための材料が揃った時、その思考の工程を経ずに結果が見える、という感覚。

 さっきもそうだ。M型が前に飛び出すのも、T型が撃ってくるのも、俺には見えていた。あれは一体――。


 未来を見つめるイサオの目の前で、さらに信じられない事が起こった。




 MISAKIは混乱を極めた思考の中で、悪魔の放った光に身を晒そうとしていた。悪魔から自分を守るために。悪魔を自分のところへ行かせないために。


 混濁し、混沌とした思考。


 その時、それが起きた。


 彼女はそれをはっきりと知覚していた。


 目の前に現れたTSUBASA。敵機の放ったビームが、TSUBASAの機体を直撃した。その翼には、HMF-CPCの光はない。


 小さな爆発。機体を大破させるようなものではなかった。が、彼の意識が、思考が永遠に失われてしまった事が、彼女にははっきりとわかった。



 TSUBASAの、撃墜。



 これを見たせいで意識がはっきりしたのか、意識がはっきりしたせいでこれが見えたのか。どちらが先かわからなかった。そんな事はどうでもよかった。


 MISAKIは叫び声を上げた。失ってはいけないものを失った事だけがはっきりしていた。そしてまた沸き起こる意識の多重構造。



 MISAKIは我を忘れて狂乱した。






 セイバーの発射したビームが、突然現れたT型の機体を直撃した。扉を狙って撃ったのに。扉を破壊するつもりだったのに。


「うそ……うそっ!」


 トモミは目の前で起きた事が信じられなかった。

 T型の、あの紅翼の敵機の、撃墜。


 霞ヶ浦上空で、そして舞浜から筑西、そしてヤマトへ。

 何度も言葉を交わした強敵。


 彼は自分のパートナーをかばったように見えた。自分の命を捨てて。


 ……命を捨てて。



 私が、殺した……?



 それはトモミにとって、背負いきれない十字架だった。

 私は扉を撃ったんだ。誰も殺したくなんか……。


 M型パイロットの錯乱したような叫び。そして合理性のかけらもない攻撃。

 だがそれはパートナーを殺された者の怨嗟の叫びではないのか。


「トモミ、しっかりしろ! 戦いは終わってない!」


 イサオの声。トモミはびくっと身体を震わせた。


「でも、でも……っ!」


「量産された敵機を破壊できなかったら、戦いを終わらせられないのよ!」


 セリナの声がトモミを叱咤する。


「てめえができねえんなら分離するぞ! 俺達だけでやってやる!」


 イツキが盛大に舌打ちして言った。


「トモミさん、聞いてください。あの敵機に人は乗っていません」


 ハユが言った。


「乗っていない……?」


 トモミには信じられなかった。確かにパイロットの存在が感じられた。なのに、無人機だったなんて……。


「ヤマトの開発していた特殊システムです。詳しい事はあとで説明します。今は早く量産機を!」


 特殊システム……あれが? この仲間を失い、傷つき果てた人にしか見えない敵。これがシステムだというの……?


「……終わらせよう。トモミさん」


 背後からライゾウの声。トモミの肩から力が抜けた。


 そう。終わらせなきゃいけない。こんな悲しいシステムを、これ以上生み出さないためにも。


 ……終わらせる。この戦争を。


 蒼き翼が光を増した。M型の攻撃を受け続け、表面に傷がついていたが、ダメージはない。ただ闇雲にMWAを振り回しているM型。あの冷静な敵が……。


 しかし、それも結局は無人機なのだ。システムなのだ。


「イサオ君、お願い……!」

「わかった……!」


 トライセイバーの右拳が荷電粒子をまとって蒼く光った。


「イツキさん……!」

「一番弱くなってるポイントは、ここだ。はずすなよ?」


 モニタ上に映る大扉に、マーカーが表示された。

 セイバーは扉に向けて飛び、その勢いのまま、光る拳を扉にたたき付けた。


 トモミが、吼えた。全ての感情を吐き出すように。


 交戦エリアとドックを隔てる巨大な扉が、崩壊した。






 同日。18:22。


「それにしても、イサオ参尉達はすごいよなぁ。トモミ参尉やハユ参尉だってまだ学生だし、なのにこんな重責を背負って戦っているんだもんなぁ」


 ぺらぺらとしゃべる角谷(かどや)(あらた)の言葉を笑顔で聞き流しながら、木下(きのした)麗華(れいか)は内心うんざりしていた。この男はどうしてこうも中身のない話を延々とできるのだ。くだらない。


 イサオの副官である角谷新航空曹長補と、セリナの副官である木下麗華航空曹長補の二人は、筑波基地第一格納庫に来ていた。調整室と呼ばれる、ドック入りした機体をモニターする部屋のひとつに、麗華が角谷を呼び出したのだ。

 筑波基地第一格納庫は、技術者のほとんどが改修ドローンの調整にかり出されていて閑散としていた。


 麗華はにこやかな笑顔を浮かべたまま後悔していた。

 一番篭絡しやすい相手だったとは言え、人選に失敗したと感じていた。自分の担当するセリナも、角谷が担当するイサオもトライツヴァイのパイロットではないか。情報収集の手間を省く助けにもならず、結局の所、角谷は麗華にとって全く役に立たない存在だった。


「そうだね。だから私達が、出来るだけサポートしなきゃ」


 麗華はアイン、ツヴァイ、ドライのデータをまとめながら言った。各機のデータを集めて分析し、今後のサポートに活かすというのが名目だった。


「だよなぁ。……でも、俺……」


 角谷はどうやらイサオの信頼を失ったらしいという事を口に出しかけて、やめた。麗華に弱みを見せたくなかったのだ。麗華の性格からして、無能な男に惹かれると言う事はあるまい。角谷は、弱い自分を見せるタイミングを計算するだけの狡猾さは持っていた。まだ一回寝ただけだ。全てを見せるのはまだ早い。


「ところでさ、麗華。今夜、部屋に行ってもいいかな?」


 角谷は話題を変えた。麗華はそれを心底あきれ果てて聞いていた。何を考えているんだ、この男は。いや、何も考えていないのだろうな。


「ううん。今日は私が新くんの部屋にお邪魔するわ。参尉達が帰還してひと段落したら行くから」


 自分の部屋に来られて居座られるのはごめんだった。こちらから出向けば、帰ることも出来る。その後金富参尉の部屋へ行く事も可能だ。角谷の方は一時間も見ておけば、シャワーを浴びる時間も取れるだろう。

 麗華は一瞬でそう計算すると、にこやかに答えた。


「わかった。部屋、片付けておくよ」

「うん、ありがとう。楽しみにしてるね」


 麗華はそう言うと、データをまとめた端末を、調整室のコンピュータに接続した。念入りに端末を操作し、データをアップロードする。

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