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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十三話  「戦いの帰結」
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四 混線。そして「願い」。

「MISAKI! どうしました!? MISAKI!」


 TSUBASAは焦燥にかられ、何度もMISAKIをコールした。

 MISAKIの様子はただ事ではなかった。単なる思考ノイズではない。このような反応は見た事もなかったし、自分自身が経験した事もなかった。


 大穴の最下部に到達したあたりから様子はおかしかったのだ。M型は硬直したように動きを止めていた。敵機を追尾しているというよりはただ敵機に引っ張られている状態だ。

 彼はM型を支えて、敵に引き寄せられるまま。何が起きたのかを分析していた。だがデータベースのどこにも、目指す情報はない。


「これも、あの悪魔どもの仕業……ですか!」


 T型の目が赤く光った。それは怒りに燃える瞳のようにも見えた。


「ならば……屠り去ってみせましょう……刺し違えても!」


 彼はM型をそっと離すと、両手にビームの長剣を構え、敵機に向けて一気に加速した。




「馬鹿な!」


 鷹城はデスクを叩いて立ち上がった。連合政府の男達も思わず二三歩引いてしまうほどの剣幕だった。

 モニタの右半分に別画面を表示させる。ラボに併設された大型ドックの内部映像だ。


「やはり……。しかし、誰が……」


 ぎりぎりと歯ぎしりをするようにつぶやく鷹城。ドックでは、M型の一斉起動が行われていた。整然と並んだM型の目が光り、起動しているのがわかる。だが、一機も動き出そうとはしていない。


「ほう、既に量産機の準備はできていたというわけですか。ならばもっと早く運用すべきでしたな」


 その言葉に、鷹城はもう一度強くデスクを叩いた。


「……出て行け」


 鷹城が四人を見ずに言ったその言葉は静かだった。そしてすぐにインタフォンのスイッチを入れた。


「筆頭秘書官を出頭させろ。今すぐだ」


 鷹城は四人に目を向けた。出て行こうとしない四人を、その目は非難していた。


「あなたは、我々に命令する権限を持たない。我々は……」

「出て行けと言っている!」


 鷹城の怒気に気圧される四人。鷹城は突然、表情を変えた。にっこりと、穏やかな笑顔だ。


「調整の済んでいないM型を何者かが起動したようです。暴走の可能性があり、大変危険です。連合政府の方々には一刻も早く避難していただきたい。

 私は責任者として対策を講じる必要があります。あなた方がいらっしゃると、その身の安全を図るために、打てる対策も限られてしまいますからね。


 はっきり言って、邪魔です」


 柔和な笑顔。その丸眼鏡の奥で、瞳だけが硬質な光を帯びていた。






 もう一人の私が中に入ってくる。違うものを見て違うものを感じて、違う事を考えている私が。同じデータ。違うデータ。同じものが重なって別のものが混じって。またもう一人の私。またもう一人の私。私の中に入っていく。何が見えているの。同じデータが重なってもう一人の私がもうひとりのわたしがもうひとりもうひとりのわたしが。どうしてわたしがこんなにもうひとりのこんなにわたしがもうひとりの。わたしはわたしはわたしはわたしが。


 TSUBASA。たすけて。


 MISAKIは狂乱したまま、近づいてくる悪魔を追いかけるように、八本の触手を悪魔に絡みつかせた。理屈など考える事はできなかった。本能的な動きだった。


 わたしのところにちかづいてくるあくま。くるな。くるな。くるな。いかせない。くるな。わたしを。わたしが。TSUBASA。たすけて。


 MISAKIは触手を力いっぱい引いた。





 捕まった……!


 M型のMWAが機体に絡み付くわずかな振動を、トモミは明確に感じ取っていた。

 だが、M型はビームを発射する事も、MWAに刃を生成して斬りつける事もせず、ただ取り付いただけだ。

 トモミにはその行動の意味がわからなかった。だが何か、恐ろしい何かがその裏に潜んでいるように思えてならなかった。


「このままあの扉をぶち抜けばドックのあるエリアだ!」


 前方に、巨大な扉がそびえている。ドックで製造された兵器を戦場に送り出す、扉。

 イツキの声に背中を押され、トモミはビーム・バンチ・カノン砲を、行く手を遮る扉に向けた。






 俺ができる事はなんだ……!?


 イサオは自問自答を繰り返していた。敵機を引力で捕らえる事は地上を守る上での切り札になった。しかし、地底まで下りてきた今、ビームの刃を生成して迫ってくるT型を斥力でやり過ごす事くらいしか出来ていない。


 イサオは状況を確認した。ヤマトの内部構造はイツキやハユによって情報がもたらされる。俺は。

 その時、イサオの目の前にM型が飛び出してきた。MWAによって自分の機体を引っ張り、トライセイバーの前に飛び出したのだ。その意図は。

 イサオは叫んだ。


「トモミ! M型は自分を盾にして扉を守る気だ!」






 イサオの言葉はトモミを驚愕させた。MWAでトライセイバーに取り付いたのはそういう意図だったのか。

 しかし、セイバーに引きずられているだけのM型がどうやって……?

 その時、M型がセイバーに絡ませたMWAを引いて、前に飛び出した。扉の前で振り向いて、行く手を阻むように両手を広げる。

 そうか、自分を盾にして、とはそういう事か。でも……!


「悪いけど、行かせてもらいます……!」


 トモミはM型の数メートル上に狙いをつけた。


「トモミ! T型だ!」


 イサオの声。出力を最大に上げて撃ってきたT型のビームを避け、トモミは扉に向けてトリガーを引いた。






 ビームを放った瞬間、TSUBASAは既に次の行動を起こしていた。かわされる事も想定の内だ。敵機の斥力も利用し、全力でM型に向かう。


 MISAKIが助けを求めている。

 妙に確信めいたその感覚。


 案の定、敵機はこちらのビームをかわし、MISAKIの方向へビームを放った。だがそれはMISAKIを狙ったものではない。ドック施設と交戦エリアの間に存在する扉を破壊するつもりなのだ。MISAKIはそれを防ごうとしているのか。


 だがそれだけではない予感がしていた。今のMISAKIは合理的な思考が出来る状態なのだろうか。


 TSUBASAの視線の先で、M型が上昇するのが見えた。まさか。

 MISAKIは、自分を盾にして扉を守る気なのか。


「そんな事は……!」


 TSUBASAはさらにスピードを上げた。全てのエネルギーをGコンにまわした。ビームの刃は消え、その紅い翼は光を失った。



「間に合え……! 頼む……!」


 全てのリソースをつぎ込んだT型の加速。

 彼の全ての力、全ての願いを集約した飛翔。



 そして、彼の願いは成就した。

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