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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十三話  「戦いの帰結」
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三 連合政府。

「へぇ、フルパワーのビームクラスターカノンを無傷で……。やるねえ」


 総理執務室でモニタを見ながら、鷹城明は感心してつぶやいた。


「まぁスペック上は耐えられるんだけど、まさか無傷とは。ありゃあパイロット達の力だな。なぁ……」


 鷹城明は秘書官に声をかけようとしたが、その姿は見えなかった。


「どこいったんだろうなぁ。今俺達がやれる事なんて何もないのに」


 鷹城明がぼやく。事態は計画通りに推移している。全ては誤差の範囲内だ。

 自分が暗殺される事まで想定して組まれていた計画だけに、この段階に来て鷹城自身がやらなければならない事は何もなかった。


 ……しかし。


 何か、嫌な予感がした。


 だが、鷹城はその「予感」を完全に無視した。多少の「想定外」があろうが、既に趨勢は決しているのだ。自分自身によくない事が起ころうが、何の問題もない。


 その時、執務室のドアが開き、その「嫌な予感」がサングラスをかけた四人の男の姿をもって室内に入ってきた。


「鷹城総理。この状況がどういう事なのか、ご説明願いたい」


 四人ともスーツ姿であったが、殺気をまとっていた。銃を携帯しているのは間違いなさそうだ。


「これはみなさんおそろいで。連合政府のみなさん、なんか険悪な雰囲気ですねぇ。どうしました?」


 鷹城は涼しい顔で言った。彼らがどんな手に出ようがもはや意味はないのだ。


「ふざけないで頂こう。我々は、現状の説明を求めているのだ」


 先頭になって入室した男が一歩前に進み出て言った。残りの三人はスーツの胸に右手を入れた。銃に手をかけている事を鷹城に意識させようとしていた。


 連合政府。


 五百数十年前、地底に追いやられた人類を監視する目的で組織された国際機関である。そもそもは宇宙より帰還した現地上人類によって組織されたものだが、彼らが地底で過ごした長い年月は、彼らを、地底国家群に近しい存在に変貌させていた。だが彼らは地底国家に属する事もよしとせず、地底国家の上に君臨する存在としての立場をさらに強めていたのである。

 地上と地底の唯一の窓口として利権を確保しながら、今回の地底国家群の蜂起を画策したのも彼らであった。


「ふざけてなどいませんよ。これは戦争ですからね。現状はご覧のとおりですが、何かわからない事でも?」


 鷹城はあくまで平然として言った。目前の四人が苛立つのが手に取るようにわかるが、別にどうと言うことはない。


「事前の戦力分析によれば、ヤマトは最も優位だった。早々に勝利を収めて、他国の支援に回る予定だったはずだ。それが現状、最も敗北に近い状況にあるというのはどういう事かと聞いている」


「ちょっとイレギュラーな事がありましてね。封印していたはずの機体データが敵に渡っちゃったのかな。敵さんその機体を作って運用してるんですよ。まぁそういう細かい誤差は生じてますけど、まぁ問題ないでしょう。ヤマトは勝ちますよ」


 鷹城は四人に笑顔を見せ、自信ありげに請合った。


「計画にあった、T型とM型の量産か」


 男は幾分落ち着いた声で言った。


「しかし、それならば何故運用しない? 同型機は既に作戦投入しているのだろう?」


 鷹城は眼鏡をくいっとあげて笑った。


「最終調整ってヤツですよ。あれは操縦系に新システムを導入していますからね。テスト機で得たデータをフィードバックしてからでないと使い物になりません。まぁそれもほぼ終わってますが。

 決戦場がこっち側になってしまった事も、まぁ誤差の範囲内ですよ。穴の上か下かの違いだけです」


 鷹城は事も無げに言った。


「ところで、他国の皆さんの戦況はどうなんです?」


「OG、AA、エウロは均衡している。サザンクロスとオリジンは優勢だ。ユーラシアは情報を出し渋っているため、把握し切れていないが、大きな動きは現状確認されていない。詳細な情報は共有する。早急にけりをつけて、支援に回るよう要請する」


 全体的には優勢だという表現だったが、鷹城は冷静に分析していた。「均衡」と表現した国は実際は劣勢に回っているのだろう。自由に生きてきた地上人類と、地底でさまざまな制約の下ようやく生きながらえてきた地底人類では、基本的な国力が違うのだ。鷹城は最初から、この戦いは地底人類の敗北に終わると踏んでいた。


 だが、ヤマトは勝つさ。


 鷹城はそんな思いをおくびにも出さず、四人の男に笑顔を見せた。


「ユーラシアさんも相変わらずですな。まぁ、ヤマトについては心配ご無用。交戦エリアでしとめてみせますよ」


 鷹城が自信たっぷりにそう言った時、警報が鳴った。


「どうやら敵さんが交戦エリアにたどり着いたようですね」


 モニタを覗き込む鷹城につられ、四人の男もモニタに見入った。






「こ、ここは……」


 目の前に突如開けた空間。トモミは思わず声を出していた。

 筑西の大穴の底までたどり着いた後、ハユの誘導で暗い通路を通り抜けた。トライセイバーがその先でたどり着いた空間。それは、殺風景な荒野。砂埃が舞う広大な土地。


「交戦エリア、というそうです。ここは……戦争をする場所……です」


 ハユは鷹城のデータにあった地図を見ながら、言った。


「戦争をする場所って……」


 セリナの声は、信じられないという響きだった。こんな地下でも戦争をしていたというのか。そしてその戦争をする専用のエリアがあったというのか。地底の世界とは一体どんな世界だったのだ。


「どっちの方向?」


 性急に問いかけるトモミ。今はそんな事を考えている時ではなかった。ハユは一瞬、トモミの質問の意味をはかりかねたが、すぐにその意図を把握した。そう。T型M型の量産施設だ。しかし、ハユが地図データを共有しようした時には、トモミは既に移動を開始していた。イツキだ。イツキがハユよりも早くデータを共有していたのだ。


「ありがとう、イツキさん」


 イツキはハユの謝辞には答えず、トモミをコールした。


「見たところ、規模からして20機前後は作ってるはずだ。起動されたら詰む。急げよ!」


「はい!」


 トモミが短く答えてペダルを踏み込もうとした時、六人のコクピットに、この世のものとは思えぬ叫びが響き渡った。


 それは、混乱、錯乱。

 自らの力で律する事のできぬ感情の奔流。

 押しとどめる事のできない狂乱にとらわれた、M型パイロット――MISAKIの声だった。

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