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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十三話  「戦いの帰結」
122/140

一 戦闘開始。

(前回のあらすじ)


 東京をパニックに陥れた地底国家ヤマトの作戦。

 その真意を読み取り、最善の対策を打つべく、

 日本防衛警備軍は総力をあげる。

 懸念されるスパイの存在。

 解く事のできなかったデバイスの謎をハユが解いた時、

 ヤマトの恐るべき作戦の全貌が明らかとなり、

 トライセイバーがその姿を現した。

 6月13日17:42。


 パニックも終息を迎えようとしていた。だがそれは、人の心が落ち着いたのではなく、単に騒ぐ者が物理的にいなくなっただけの事だ。

 防衛警備軍の出動により道路をふさいでいた放置車両が撤去され、交通が復旧した。

 だが人々は疲れ果て、ただ機械的に都外へ向けて歩いていた。


 17時過ぎに、敵機が東京を襲撃するという報が流れたが、大規模なパニックは起きなかった。戸外にいる人々の大部分はその情報を得る事が出来なかったし、一部小規模なパニックが起きたが、それも広がることはなかった。

 実際に敵機が東京上空に現れることはなかったし、人々にはもう騒ぎを起こす力は残っていなかったのだ。

 ただひたすら、防警軍の指示に従って避難する。それだけを考える事しか出来ぬほど、人々は疲弊していた。


 速水(はやみ)勇悟(ゆうご)は有線ネット情報で戦況を確認して、ふうむ、と考え込んだ。

 敵の機体は日本側の機体を追って東京から離れたらしい。これは勇夫の機体か、それとも。

 敵機が東京襲撃をあきらめ、防警軍機を追った理由が理解できなかった。一体何が起きているのだ。


 勇夫達に任せておけばいいのだ、と頭で理解してはいた。自分の息子達を信じ、そしてあの大榊という軍人達を信じて全てを託したのだ。だが、情報が欲しいという気持ちは抑えられなかった。

 秘密裏に防警軍が接触してきた時、言われるままに筑波基地へ避難していれば、もう少しマシな情報は得られただろうか。

 そう考えて、勇悟は苦笑した。


 Tシリーズパイロットの家族という事もあり、優先的に保護するという軍の申し出を断ったのは勇悟だ。そんな特別待遇を受けるのは彼の性に合わなかったし、何より店を守りたいという気持ちが強かった。もちろん、妻の優佳(ゆか)娘の優美(ゆみ)は力づくで防警軍に託した。勇悟が残るのならと、優佳は共に残りたがったが、勇悟は頑として聞き入れなかった。


 今頃、勇夫は戦っているのだろうか。

 勇悟はため息をつくと、客用の椅子に腰掛け、テーブルに頬杖をついた。


 静まり返った町。この界隈に残っているのは勇悟を含めて数人いるかどうか。

 勇悟は、肝心な事は何もわからないながらも、有線ネット情報から目を離すことができなかった。






 17:45。


「そうか。セイバーがね。やっぱり僕の見込んだ通りだったな」


 総理執務室のソファに座ってコーヒーを飲みながら、鷹城明が言った。


「かなりギリギリだったようですけどね。ちょっとギャンブルが過ぎたのでは?」


 総理秘書官は特に感慨のこもらぬ声で言った。


「そう言うなよ。僕は彼らを信じていたからね。それに、もしギャンブルだったとしても、賭け金は彼らの命じゃない、僕らの命だろ?」


 鷹城の言葉に秘書官は苦笑を浮かべ、執務デスクの椅子に腰を下ろした。


「それはそうですが、その後の事も考え合わせると、結局は相当分の悪いギャンブルである事に間違いありません」


「でもまぁ、あれしか方法がなかったんだからしょうがない。

 ところでユーラシアの動きは……いや、華連の動きの方が気になるな」


 鷹城は真顔になって言った。


「そうですね。ユーラシアの方は当初の予定通り、華連へ工作員を送り込んで内部から崩す作戦を継続中ですが、これと言って状況に変化は報告されていません。ただ、華連が全く動きを見せていないのが、逆に気になりますね」


「そうか。動きはない、か……。まずいかもしれないな……」


 渋面になって、残りのコーヒーを口に含む。


「今後の事を考えると、やはり、残しておいた方が良いのでは?」


 秘書官の言葉に鷹城は一瞬うつむいて考え込んだが、すぐに顔を上げた。


「いや、それはダメだ。あれは残しておいちゃいけない。だろ?」


 鷹城の言葉はきっぱりと、誤解のしようがない明快さを持っていた。


「そうですが……お寂しくはありませんか?」


「いや、忌まわしいものを処分するんだ。清々するさ。でも、それは君も同じだろ?」


 鷹城は決然とそう言うと、ソファから立ち上がった。


「とにかく、セイバーが起動したんだ。全てはうまく行ってる。

 ……あ、いつもの事だけど、一応突っ込んどくよ。今君が座ってるの、僕の椅子だから」


 鷹城は機嫌よく笑いながら、コーヒーのお代わりを淹れにキッチンへ消えた。

 残された秘書官は、表情のない顔で、鷹城の背中を見送った。


――私はそう簡単に割り切れないわ。あなたのようには。――






 同時刻。


 紅翼の敵機が二機、光を引いてこちらへ向かって来ていた。


「行こう! 地底へ!」


 イサオは操縦桿を倒し、ペダルを踏み込んだ。筑西の大穴より突入し、地底国家ヤマトへ攻勢に出るのだ。

 二機の敵機を抜く事は、このトライセイバーなら容易いと思えた。


 ……だが。


「う、動かねえ……!」


 トライセイバーはイサオの意思に応えず、微動だにしない。


「な、どういうことなんだっ……!」


 さらに迫り来る二機。T型がCPLコンパチブルカノンを放ち、M型がMWAを展開してビームの刃を生成した。

 次の瞬間、トライセイバーは紅翼の二機の背後に移動していた。即座にコンパチブルキャノンを放つ。そのビームはT型の右の翼を焼いた。


「え……!?」


 イサオは自分の両手を見つめた。セイバーが見せたこの動きは自分が操縦したものではない。


 操縦しているのは誰だ……?


「イサオくん! セイバーのメインコントロールはアインのコクピットみたい! サポートお願いします!」


 その時、イサオの耳に飛び込んできた声は……。


「と、トモミ……か……!」

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