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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
第一章 第四話  「その日、何が起こったか」
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一 軍、登場。

(前回のあらすじ)



 全てを失った男、香川頼造。彼の心をわずかに生に傾けたのは、命を散らした名も知らぬ若い警官と、守るべき少女だった。


 頼造、華夕、瀬里奈の三人は、謎の機体に乗り込み、闇の世界を脱出する。


 しかし、闇をさまよった先で彼らを迎えたのは、廃墟と化した都市と、彼らを包囲する軍用機の群だった。



 6人の運命が、動き始める。

 新暦518年5月25日18:43。東京の一部に壊滅的な被害をもたらす地震が発生した。


 免震構造で建築された建物の倒壊、地盤の崩落。死者行方不明者は17万人を越え、過去類を見ない規模であったが、その様相は、記録に残るどんな大地震とも異なっていた。

 震央である東京都練馬区の一部、半径2kmの範囲内に被害が集中しており、その範囲外に於いてはほぼ被害が見られなかったのだ。


 また、二次災害による被害が少なかったのも、この地震の顕著な特徴の一つである。地震発災後にも火災等の発生は確認されているがごく小規模であり、ほぼ全ての被害がたった数分間の地震の間に起きたという事になる。この点も、今回の災害の奇妙な点であった。





 同日、19:36。


 日本防衛警備軍航空部首都防衛師団に所属する大榊(おおさかき)弘明(ひろあき)航空壱尉は、ブリーフィングルームへ向かう廊下の壁に寄りかかって、ふっと絶望的な笑みを浮かべた。

 手には一通の命令書。つい先ほど発災した直下型地震の災害出動である。


 もちろん災害出動について彼に異論はない。ただ、その発令の早さと内容に違和感を覚えただけだ。しかし、違和感を違和感のままで終わらせない彼の性格が、彼の精神に大きな負担をかけていた。いつもの事である。


 彼の配属されている朝霞の分屯基地は被災地区の至近に立地していたが、被害は軽微であった。詳細の確認や倒れた設備等の復旧のためまだ隊員たちが基地内を走り回っているが、彼らの報告では人的被害をはじめとする深刻な被害は確認されていない。数kmしか離れていない被災地区の、壊滅的と言っていい被害状況とは対照的だ。


「いよいよ我が中隊も出撃ってわけですね、大尉」


 大榊の部下、金富(かなとみ)(じょう)航空参尉が親しげな笑みを浮かべて大榊に声をかけた。大榊はいつもの無表情に戻り、壁に預けていた身体をまっすぐに伸ばした。


 この金富という男は人当たりが良く、上司からも部下からも人気がある。大榊直属の部下であり、彼の方では実直な大榊を慕っているようだったが、大榊としてはあまり好感を持っていない。何故かと問われると答えに窮するのだが「馬が合わない」とでも言うのだろうか。一緒にいると気疲れするというのが、大榊の密かな感想だった。


「金富、言葉には正確を期せと言っているだろう。大尉などと言う階級名は、防警軍では採用されていない。また、出撃ではなく、出動だ」

「失礼しました!」


 大仰に敬礼をしてみせるが、反省など全くしていないのは明白だった。同様の会話はこれで何十回目だろうか。自称「軍事オタクで右翼」を公言している金富は、古色蒼然とした軍事用語を使うことを好んだが、彼が嫌味のない性格だった事もあって大きな問題になったことはない。


「……で、今回の命令はどんなですか?」


 ブリーフィングルームへ向かいながら、金富は真剣な表情で大榊にたずねた。自分の小隊を持たず、大榊の補佐官という立場である金富としては、ブリーフィングの前に概要だけでも把握しておきたいのだろう。


「第一義は現地状況確認だ。陸上部隊や重機の使用可否等のデータを集める。もちろん救助可能な生存者を発見した場合は出来る限り迅速に救助活動を行う」


「ふーむ。ドローンの情報で何か出たんですかね?」


 金富は訝しげな表情になった。被災地区の状況は、偵察用ドローンによって発災直後にデータが取られている。そこで発見された被災者の救助と言う事なら話はわかるが、今更情報収集が任務と言うのは解せる話ではない。


「そういう報告は受けていない。だからこその出動と言う事だろうな。ドローン任せで、実際被災者を探知できていなかったとしたら、世論が黙っていないだろう」

「人の目より、機械のほうがミスしないですけどね、実際は」


 金富は呆れたように言ってから、しまった、という顔になった。


「いや、もちろんこれはあくまで一般論として、ですが」


 慌ててそう付け加える。防警軍の言動にはマスコミをはじめとする世間の目が厳しいのがこの国の情勢だ。いざと言う時の「失言」を避けるためにも、常に言動には留意するよう習慣化しておく必要があった。


「しかし、完全に日が落ちてるのがネックですね。赤外線カメラでのリアルタイム解析と、念のために投光機も全機に装備させときますか。行動範囲は二機一組で割り振ると言う事で」


 金富の提案は完璧と言えた。大榊が提示した命題に過不足なく対応している。だが、大榊がそれを褒めることはない。完璧にやってのけることが当然。それが、大榊が自分にも他人にも求める最低ラインだ。


「そうだな。装備の手配を頼む。ただし……」


 大榊は立ち止まった。


「俺の機には、対人用コーキングガンを追加。各機の機銃にも弾薬を装填しておいてくれ」


 金富は一瞬立ちすくんだがすぐにニヤリと笑い、大榊に続いてブリーフィングルームへ入った。





 同日、20:41。


 朝霞分屯基地所属、首都防衛師団第一大隊第一中隊|(通称「朝霞中隊」)は、都内の被災地区上空に展開していた。19:45のブリーフィングから20:30の作戦開始というタイトなタイムテーブルをこなすのは、隊員達の練度と金富の周到さの賜物だ。普段は後方での任務に就くことが多い金富が、珍しく大榊のヘリに同乗していた。今回の任務についてまだ疑問があるらしい。


「それにしても、朝霞の眼と鼻の先なのにここまでの被害が出ているというのは、ちょっと信じられませんね」


 赤外線カメラの画像を解析し、可視光線で見ているのと同様に調整された地表の様子を見ながら、金富は嘆息した。大榊にしても、その感想には同感だった。過去の震災の記録を想起してみても、ここまで破壊されつくした街並みは思い当たらない。まるで空襲にでもあったかのような、徹底的な破壊だった。ただし、その廃墟はほとんど純粋に破壊、倒壊したものであって、炎による被害はほとんど見当たらない。そこが空爆など武器による破壊と大きく異なる点だった。


「震度7、いやそれよりはるかに強い揺れだったみたいですね。じゃないと免震構造の建物がここまで破壊されるなんてことはないでしょう。

 でも、だとしたら朝霞でもかなり揺れてなきゃおかしい。朝霞じゃあ強めに見積もっても震度3か4程度でしょう。

 大尉がブリーフィングでおっしゃってたテロの可能性ってのは、その辺と何か関係があるんでしょうか」


「上ではそう見てるって事だろうな」

 大榊は言った。

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