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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十二話  「奈落への出撃」
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十 合流。

 追う側と追われる側が逆転していた。敵がこちらの追撃を阻む理由で発射していたビームシャワーは、今度はこちらを後ろから撃墜するべく発射されていた。


 トモミはアインをジグザグに飛行させ、敵からの火線をかわしながら筑西へと急いでいた。


 ヤマトはこちらに知られたくない作戦を地下で進めている。

 ハユが語った事実は衝撃的だった。だが、敵機がアインを追って来ている事がそれを証明している。


 だとしたら……。


「大榊さん!」


 トモミが大榊に呼びかける声と、イサオの声が重なった。


「アインが合流したら、俺達、ヤマトへ向かった方がいいんじゃないでしょうか」


 イサオが言った事は、まさにトモミが言おうとした事と同じだった。


 もし敵が秘密裏に作戦を進めているのなら、今のうちに阻止するなり情報を得るなりした方が良いだろう。


 敵地の情報は、鷹城からの新たなメッセージでわかっている。危険である事に変わりはないが、手をこまねいているわけにはいかない。


「いや、さすがにそれはあかんやろ。いくらなんでも……」


「萬田さん、私も危険だと思います。ですから私には判断できません」


 ハユが言った。


「ですから、判断をお任せしたいと思います。ヤマトが現在行っている作戦の情報をお送りしますので」


 ハユがまとめた敵作戦の資料が、チームトライ、そして筑波基地に共有された。


「これは……!」


 萬田が息を飲むのがわかった。


 T型及びM型機動兵器の量産計画。つまり、紅翼の敵機を量産しようというのだ。

 それが、鷹城によってもたらされた、敵作戦の根幹だった。


「もうあなたに恥はかかされませんよ! 無傷で合流などさせません!」


 突然割って入る声。敵だ。その声には聞き覚えがあった。忘れもしない。筑波奪還の時に死闘を演じた、あの敵パイロットの声だ。だがその印象には大きな違和感が付きまとう。


「あなた……あの時の……?」


「そう……。女性でしたね……。忌々しい悪魔鳥のパイロット……!」


 紅翼の敵機は出力を上げたビームを発射し、そのまま縦になぎ払った。

 さながらビームの長剣に見えるその斬撃は、トライアインの蒼い翼を直撃した。






 彼女は苛立っていた。いくら主目的がT型のサポートだといっても、こんな素人達を撃破できないとは。


 確かに装甲が堅牢なのは認める。出力の低いMWAのビーム砲ではかすり傷程度のダメージしか与えられない。それにしてもだ。


 人型の機体は出力と攻撃力はありそうだが、機動力が弱い。MWAで軽く翻弄してやれば、本体を攻撃してくる余裕すらない。


 獣型は攻撃力も機動力も貧弱だ。電子戦用の機体の特性を生かし、こちらの攻撃を読んで防いでいるが、こちらもディフェンス一辺倒だ。


 もう一機の改修型ドローンについては、分析するまでもない。


 なのに、何故こんなに手間取っている。


 T型と合流できればあんな敵などひとたまりもないだろう。早く来い。TSUBASA。


 TSUBASAが追っている鳥型の機動力は侮れなかった。機動力そのものが武器になるレベルだ。しかし、武装や出力はやはり貧弱で、総合すれば弱敵の部類に入るだろう。主目的を戦闘に置いているT型であれば問題ない相手のはずだ。


 やはり、こちらにはない新技術とやらの力なのか。


 報告に上がっていた、慣性制御システム、引斥力制御システム、圧力制御システム。確かにこれらの力は未知数だ。だが所詮Gコンの応用型に過ぎないではないか。


「MISAKI、遅くなりました」


 TSUBASAの声。上空を蒼い鳥がパスして行く。彼女は展開していたMWAを収納した。


「随分上空を散歩していたんだな」


 彼女――MISAKIは上空を見上げた。紅い翼は高度を下げぬまま、彼女に言った。


「いいえ、MISAKIが予定の高度より低いだけですよ」


 次の瞬間、下から火線が走った。MISAKIは身を翻して避け、彼――TSUBASAに接近する。


「そうか。奴の引力というわけか」


 イサオはMISAKIの攻撃を防ぎながら、ARコンの出力を上げ、じりじりと本体を引き寄せようとしていたのだ。気付かぬうちにじわじわと高度を下げられていた。思わぬ失態に、MISAKIは苦笑のような感情を覚えていた。


 鳥型が架電粒子ビームを浴びせてくるのも構わず、MISAKIは八本のMWAを全てT型に接続した。鳥型の放つビームなど、二機の翼が展開するHMF-CPCを貫く事は不可能だ。


 TSUBASAが構える大口径のビーム砲が変形した。砲身は短くなるが、口径がさらに大きくなる。更に砲口の周囲に反射板が展開された。


「さぁて、いくつ消し飛びますかね……?」


 M型から流れ込む大量のエネルギーを感じながら、TSUBASAは迷わずトリガーを引いた。






 紅翼の敵機が武装を連結した。巨大なエネルギーが集中していく。


「みんな! 逃げて!」


 トモミの叫びにツヴァイ、ドライ、ドローンが反応した。しかしその動きは遅い。


 敵機から巨大ビームが伸びていくのがトモミには見えた。何とかみんなを助けなきゃ。


 三機の回避運動は不自然なまでに遅かったが、ビームの奔流が彼らに迫るスピードも減速しているように見えた。これならツヴァイとドライは回避できそうだ。


 しかし、大榊のドローンは絶望的だった。確実にビームに飲み込まれる。


 それにしてもやけに静かだった。周囲の全てが水の中にいるようにゆっくりに見える。これは一体――?


 この感覚には覚えがあった。そう、この透明な感覚は――。


 トモミは蒼い翼のHMF-CPCを最大限に展開した。これで防ぎきれるかはわからない。だがトモミは迷わずアインを大榊機の前に移動させた。この全てが遅くなった時空の中で、彼女とアインだけがリアルな速度で動く事ができた。


 蒼翼が、ビームの奔流から大榊機を護るようにその輝きを増した。

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