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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十二話  「奈落への出撃」
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九 陽動。

 紅翼の敵機が向かう先、それは東京。


 トモミはビームのシャワーを回避しながら、紅翼の敵機を追った。

 もし敵機が東京に現れれば、住民のパニックはさらに拡大する。それだけは避けなければ。

 トモミのその思いはライゾウにも充分に伝わっていた。


 どんな理由があろうと、一般市民を大量虐殺するなど戦時としても国際法違反だ。許される事ではない。だが地下国家に、地上世界の国際法が通用するものなのか。


 ライゾウはトモミの操縦にあわせてIコン制御を最適化しながら、蒼い翼にHMF-CPCを展開させた。


 トライアインの翼が、蒼い輝きを放った。






「敵機は東京に向かっています! 東京の部隊に伝えてください! 時間がありません!」


 トモミの悲痛な報告が大榊の耳を打った。本当ならチームトライの増援が欲しいところだろう。だが、こちらの状況を理解して、それを言わずにいるのだ。


「大榊さん!」


 イサオが叫ぶ。オフェンスに回るべきトライツヴァイも、防戦を強いられていた。上空から長い触手のようなアームを伸ばし、様々な方向から仕掛けてくる攻撃はかなり厄介だった。本体に攻撃をするどころではない。

 アームはそれぞれビーム砲を内蔵し、そのビームで刃を生成して直接斬りかかってくる事もできた。


 ビーム砲による射撃の出力が弱いのが救いだったが、刃による斬撃はバカにならない。

 イサオは斬りかかってきたアームの刃を、新しく装備された可変式ビームダガーの刃で弾き返した。


「俺達も東京に!」


 イサオの声は大榊に決断を迫っていた。


 東京にいる多くの人命。敵機の戦力と錬度は、アイン一機で対抗できるものではない。こちらにしても、改修型ドローンという足手まといがいるとは言え、ツヴァイとドライの二機をもってしても防戦一方の状況だ。


 どちらかに戦力を集中し、各個撃破すべきではないか。

 大榊の頭の中でめまぐるしくシミュレーションが行われていた。



①チームトライ三機で東京防衛にあたる場合。


 東京の被害を出来る限り抑える。

 筑西の敵機が東京の敵と合流した場合、3対2の戦いとなる。だが、現状よりは戦いやすいのではないか。

 筑西の敵が東京に来ない場合、筑波基地を襲撃されるというリスクが存在する。

 何より大きなリスクは、敵のGコン兵器の状態をモニターできなくなるという事だ。



②チームトライ三機で筑西の敵に対応する場合。


 Gコン兵器の状態をモニターする事ができる。

 舞浜に現れた敵の東京襲撃に対応できない。

 この場合、舞浜の敵が筑西に合流する可能性はまずないだろう。もし合流する気があるのなら、最初から東京には向かうまい。



 ここまでを数秒で考えた大榊は、筑波基地をコールした。


「チームトライは東京へ向かう。筑波基地は敵機の襲撃に備えてください!」


 大榊がこの決断を下したのにはもう一つ理由があった。


「そやな。敵機がわざわざ東京を狙うのは、Gコン兵器がブラフやったっちゅう事やからな。筑波基地と東京じゃ、守らなきゃならんものは決まっとる。こっちは僕らで何とかするから、とっとと敵を始末してきてくれんか」


 萬田の返事は、大榊の読みと完全に一致していた。


「ツヴァイ、ドライ、聞こえたな! 我々は東京へ向かう!」


「待ってください!」


 大榊の指令を遮ったのは、ハユの声だった。






 いよいよショーが始まる。もうすぐ。


 東京へ向かって加速を続けながら、彼は鼻歌でも歌いたい気分だった。

 蒼翼の悪魔鳥はちゃんとついて来ている。あとは人型と獣型をおびき寄せればいい。


 数百万人の観客に、やつらを叩き潰すところを見せ付けてやる。そう。絶望に震えながらショーを楽しんでくれ。


 その時、彼の心にまた何か違和感が生じた。地下から抜け出す時に感じたものとはまた別の、もっとはっきりした違和感。


 彼がそちらに意識を向けると、追ってきているはずの悪魔鳥が方向転換をし、全く別の方向へ向かうのがわかった。


 何があったというのだ。何故、突然奴の気が変わったのだ。


「困りますね、気まぐれを起こされては……。観客どもは待ち焦がれているんですよ!」


 しかし、彼は遅滞なく用意されていたプランBに移行した。


「観客がいないのは残念ですが……、アクターがいなければ幕は開きませんからね」


 何の未練もなく彼は進路を変更し、蒼い鳥を追った。






 ハユが言った通り、敵機がアインを追ってこちらへ向かっている。


 大榊は一か八かの賭けに勝った事を知った。もちろん、敵機がそのまま東京へ向かうようならチームトライ三機で急行するつもりであった。しかし、現状はハユの言葉通りの展開だ。


 無論、敵二機を同時に相手取るのは容易ではない。だが、特性の違う三機が揃う事で、戦術はかなり広がるはずだ。大榊はその戦術について考えながら、今しがたハユが言った言葉を思い出していた。


 東京へ向かい、その防衛に当たるという指令に真っ向から反対し、アインを筑西に呼び戻す策をハユは提示した。その理由はこうだ。


 彼らが東京を狙うのは、Gコン兵器がないもしくは使えないからではなく、『Gコン兵器がないと思わせ、東京防衛に目を向けさせるため』だ。実際にGコン兵器があるかどうかは不明だが、こちらの目を地底から引き離すのが敵の目的だと考えられる。


 ハユの意見にも理があった。しかしどちらも筋が通っている以上、リスクの少ない方を選ぶほかはない。


 だが、大榊に一か八かの賭けをさせたのは、ハユが続いて言った事だった。


「先ほど、鷹城さんからのメッセージを全て確認しました。鷹城さんは、今回の作戦の全貌を教えてくれていたんです。舞浜に敵機が現れる事も含めて。


 詳細は後で報告します。ヤマトは現在、私達に知られたくない作戦を地下で展開しているんです。だから私達をここから遠ざけたいんです。


 都民を虐殺する事は、現状彼らにとって利益はありません。だから、必ず敵はアインを追ってきます。


 私達を、完全に叩き潰す為に」


 ハユが言い終わらないうちに、大榊は既に決断を下していた。一か八かの賭けに出るのだ。


「アイン! 敵機の追跡をやめ、筑西に合流しろ! だが、敵機の動きだけは確認しておけ!

 ……よろしいですね? 萬田空将」


「当たり前や。現場の指揮官は壱尉や。僕は責任だけ取ればええ。楽させてもらうでえ」


 冗談めかした言葉の裏に鉄のような芯を感じ、大榊の肩から力が抜けた。


「感謝します」



 アインが敵の追撃をやめ、筑西に向かったのには、こうした経緯があった。


「大榊さん、みなさん、それからもう一つ、お伝えしなきゃいけないことがあります」



 ハユの真剣な声が、各機のコクピットに響いた。

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