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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十二話  「奈落への出撃」
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四 信頼。

「さて、もう一つの、これも大きな問題やが」


 がらんとした会議室に残った面々を見回して、萬田空将が口火を切った。


 残っているのは岐部総理大臣、御殿場防警大臣、そして統幕のメンバーと、萬田空将、折原航空参佐、実戦部隊から大榊、宮司、金富の三名。極度にメンバーを厳選した、機密性の高い会合であった。


「情報漏洩の問題や。今回の経緯を見ると、昨日の段階で、ちゅうか例の分析結果が出てすぐに、情報がリークされた可能性が高いねん。


 まず、野党の動きや。あの意味不明な審議拒否も、この情報が流れたのなら納得できる話や。なんや地元の状況を確認するとかで、すぐに東京から出ていっとるわけやしな。選挙区が東京の議員まで東京から出ていっとるわけやから、東京が危ないちゅう情報を受けての行動と考えるのが自然やろ。


 そしてマスコミや。今朝の早朝から一斉に報じ始めたのもなんかおかしい。当然報道したらパニックになるちゅう事を見越して、自分らが避難し終わってから報道したんやろな。

 まぁそれは憶測にしか過ぎんけど、ひとつ確実な事は、軍内部に情報をリークしたもんがおるちゅうこっちゃ。


 ここまでで何か質問は?」


 実際、この情報リークはテロに等しい。国や軍の機能を麻痺させ、パニックを起こし、人的な被害も少なくないのだ。当面の事態収拾は最優先としても、この問題についても後回しにする事はできなかった。


「はい」


 金富航空参尉が手を上げた。このメンバーの中では場違いな程に階級が低いが、それでも発言をしようとする姿勢は美点とも言えた。萬田空将が金富にうなずくと、金富は立ち上がった。


「今回の情報漏洩が意図的なものかどうかに関わらず、重大な問題であると考えます。空将は、犯人の目星はついておられるのでしょうか?」


 宮司がじろりと金富を見上げた。この意味のない質問はなんなのだ。萬田空将に顔を覚えてもらおうと言う魂胆か。


「そんなんつくかいな。僕かてまだ筑波へ来たばかりやで?」


 宮司の思いを知ってか知らずか、萬田はあっさりと答えた。


「しかしまぁ、朝霞組は大丈夫やろと思てる。ちょっと前に朝霞で情報漏洩が起きたのは知っとるが、その時にきっちりと調査を受けとるわけやからな。

 となると、逆にスパイちゅうか、情報を流すやつ、まぁスパイと言ってええか。スパイは複数の基地に潜伏しとるちゅう事になる。これは由々しき問題やで」


 萬田はそう言って、大榊に目を向けた。大榊も全く同感だった。

 大榊がうなずくのを見て、萬田はさらに言葉を続けた。


「ちゅうわけで大榊壱尉、金富参尉を借りてもええか?」


 唐突な申し出に、大榊は言葉につまる。


「空将! お話の持って行き方が唐突過ぎます! 大榊壱尉もお困りじゃないですか!」


 折原が萬田をたしなめると、萬田はたちまちしゅんとしてみせた。


「ごめんなさい、大榊君」


「あ、いえ、空将、頭をお上げ下さい」


 大榊は慌てて立ち上がった。


「あ、そか? なら上げさせてもらうわ」


 あっさりと頭をあげ、萬田はにっこりと笑った。


「まぁ、冗談はさておき、今回の情報漏洩についてもきっちり調査せなあかんやろ。だがそれ程人を割く余裕もない。だから、朝霞での手腕を買って、金富君に調査を仕切ってもらおう思てんねん」


「金富を……で、ありますか」


 宮司は思わず声を上げた。いくら人的資源に余裕のない状況とは言え、一介の参尉にこの任務は重責過ぎやしないか。金富が上層部の評価を得るのがうまいとはいっても、配属たった二日目で空将の信頼を得るというのは考えづらかった。いつの間に……、と言うのが宮司の正直な感想だ。


「そや。朝霞での調査は金富君が仕切っとったんやろ? ならまぁ今回はちょっと人数と規模が大きくなるだけや。いけるやろ」


 萬田はそう言って、大榊を見た。宮司も、そして金富も大榊の表情を注視していた。


「……わかりました。金富をお預けいたします」


「よし、じゃあ決まりや。金富君、よろしく頼んます」


 金富は踵を揃え、ビシッと敬礼をした。


「はっ! 金富航空参尉、謹んで拝命いたします!」


 萬田は満足げにうなずくと、折原航空参佐に顔を向けた。


「これで、この話はOKやな。で、この後は実戦部隊との作戦会議か。しんどいな」


 ぼやく萬田と、満足げな金富を見ながら、宮司は胸に一抹の不安を感じていた。






 同日14:32。


 俺は、倉科を支える事ができるだろうか。

 俺は、家族を、みんなを助ける事ができるだろうか。


 内装を一新され、今やTシリーズの専用ドックとなっている第一格納庫でT2-1を眺めながら、イサオはぼんやりと考えていた。


 ツヴァイの大破という屈辱を受けた筑波奪還作戦。あれから武装が装備された。シミュレーションでもまずまず使いこなせている。だがしかし。


 イサオは一つため息をついて、T2-1の機体に寄りかかった。視線の先には、T1-1。トモミの機体だ。ライゾウを支えにして、信じられないような活躍をして見せたトライアイン。


 イサオがもう一つため息をついた時、コツコツと靴音を立てて角谷(かどや)(あらた)航空曹長補が歩み寄ってきた。


「こちらにおられましたか! 15時より作戦会議です。場所は……。

 ……どうかなさいましたか?」


 イサオの反応が鈍い。角谷は少し心配になった。


「いえ、なんでもないです」


 イサオの声は重い。角谷はイサオの隣に寄りかかった。


「今度は大丈夫ですよ。ツヴァイは特に拡張性が高いですからね。三機の中で最も追加武装を搭載しています。手持ち武装だけでも、可変式ビームダガー、コンパチブルキャノン……、いや、本来搭載されるべきだった物が搭載されただけなんだとも思いますが。今までまともな武装がなかったのが不思議なんですから」


 イサオはまだ黙っていた。元気付けようとしてくれているのはわかる。だが今はそれが煩わしかった。


 そもそも今までイサオはそれ程親しく角谷と話していたわけではない。なのに、急に馴れ馴れしくそばに寄りかかっている角谷の態度が不思議だった。そして、やはり煩わしかった。

 何か良い事でもあったのだろうか。妙に地に足の着いていないような明るさをイサオは感じ取っていた。疎ましかった。


「それとも、何か他に悩み事が? トモミ参尉の事とか……」


「わかってます。俺は大丈夫です」


 言いかける角谷の言葉を遮って短くそう言うと、イサオはT2-1から身体を離した。振り返りもせずに歩き去るイサオを、角谷はただ見送るしかなかった。


 この瞬間、イサオの副官、角谷新は、イサオが悩みを打ち明ける対象から永遠に外れたのだった。

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