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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十二話  「奈落への出撃」
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三 情報。

「まず、巨大なGコン兵器は、ヤマトの中にも一基しかない、もしくは同時に運用できるのは一基だけだと考えられます。なぜなら、複数の同時稼動ができるなら、今までの段階で使われているはずだからです。敵が日本に攻めてくる侵攻ポイントが一箇所に絞られている事は、これまでの段階では防御側、つまり私達にとって有利なポイントでしたから。


 だとしたら、現在筑西で稼動しているGコンの動きをモニターすれば、敵が東京壊滅作戦を開始するタイミングが予測できる事になります」


 ハユの言葉は明快だった。


「一つ補足します。現在、筑西の大穴では常に重力均衡状態が保たれております。穴の内側面の崩落を抑えるためだと思われますが、つまり、現状では常にGコン兵器が大穴の保全のために稼動していると言う事です」


 宮司が手を上げて補足する。一同は納得したようにハユに視線を戻した。


「もちろん、変化があり次第対応に向かう必要がありますので、チームトライ総員の派遣をお願いします。また、都内の情勢が落ち着いてきたら、随時増員をお願いしたいです」


「そうやな。その辺の詳しい事は戦術レベルの作戦会議で決めよか。とりあえずは折原君。ありったけのヘリ部隊と、改修済みのドローンを都内に回してくれ。

 チームトライのみんなは一旦自室で待機や。良く休んどいてくれ。分析班もご苦労さん。あとは指揮官レベルだけ残ってちょっと話した後、戦術レベルの会議を招集するからよろしくおねがいします」


 萬田の言葉で、「対ヤマト緊急対策会議」は終わった。





「伴さん!」


 会議室から出ると、ハユはすぐに(ばん)和哉(かずや)技術弐尉に駆け寄った。


「どうしました?」


 伴は表情を変えずに振り向いた。ハユは自分がどう話を切り出そうか全く考えていなかった事に気付き、目を泳がせた。


「あ、あの……」


 ハユが次の言葉を見つけるのを、伴は嫌な顔一つせずに待っていた。おそるおそる伴の顔を見上げるハユ。一瞬、目が合った。


「あの、伴さんはあのデバイスの事、どう思いますか?」


 ハユはストレートに質問をぶつけてみた。伴と言う人物の人となりはわからなかったが、信頼してもいい人物だと直感的に感じたのだ。


「そうですね。分析した結果については既に会議でお話していますし、あなたが聞きたいのはそういう事ではないのでしょうね」


 伴は相変わらずの口調で言った。彼の落ち着いた低めの声は、ハユにとっても好ましい響きを持っていた。


「正直なところ、まだわからないですね。いや、データ的には全て解析済みですし、これ以上何もないというのは間違いないでしょう。検出された、意味のあるデータは、報告したものが全てです」


 伴はタブレット端末に一瞬目を落として言った。


「でも、何かまだあるんじゃないかという気持ちもあるんですよ。全データを何度精査しても結果は変わりませんが、それでもね。私の考えとしては、あの結果が全てだと結論付けています。でも、思いはまた別のところにある、というわけです」


「思いはまた別……」


 ハユは鸚鵡返しにそう繰り返した。

 思いと考えは別。だからこそ伴は、自分の出したデータにすら公平に接する事ができるのか。


――そんな予断を持って解析されたんじゃ、結果を信じるわけにはいかねえな――


 引っかかっているこの言葉が、またハユの脳裏に響いた。


「私もそんな風にできるのかな……」


 思わずポツリと口をついて出た言葉。伴はタブレットをしまうと、ハユの顔を見つめた。


「ハユさんは、幽霊を信じますか?」


「え……?」


 虚を突かれてきょとんとするハユ。


「僕は結論は出せていません。幽霊の目撃談というのは、例えば木目の一部が人間の顔のように見える、と言った具合に、意味のない風景に意味づけをして幽霊として見てしまうところから来ているものがほとんどと言っていいでしょう。幽霊はいる、という強い思いが、何気ない風景をそう見せてしまう、という事例が多いんですよ。

 しかし、逆にもし幽霊はいない、と強く思って見ると、実際に幽霊がいたとしても、風景の具合だと見誤ってしまう可能性もあるわけです」


「思い込みや感情が、見る目を眩ませてしまう……」


 もちろんハユも、伴の話は知識として知っていた。が、今のハユには心に刺さる話だった。


「感情が目を眩ませるというのは、僕たちがもっとも避けねばならない事です。でもね」


 伴はそこで一旦言葉を切り、一息の間を置いてから再び口を開いた。


「あのデバイスを受領してからデータを発見するまで、2000人時以上をかけています。これはね、絶対に何か情報が隠されているという強い思いがないとできない事ですよ」


「強い思い……ですか」


 2000人時。実際に分析班が作業できた日数としては五日と言うところだろう。一日あたり400人時である。40人態勢でかかっていたとしても、一人一日10時間、分析をし続けた事になる。

 これほどのリソースを割く上層部の判断も、またそのハードワークを一人一人がやり遂げた事も、強い思いなくしては有り得なかっただろう。


「感情は真実を見る目を眩ませる事もありますが、また、感情が真実を見つける原動力になることもある、という事でしょう」


 伴の言葉は、ハユの心に光を灯すようだった。


「あの、伴さん! あのデバイスの分析は、もう終わったんですよね?」


 ハユは勢い込んで言った。そうだ。私はまだ真実が残っていると信じている。ならばやる事は一つだ。


「ええ。これ以上の分析は、行う意味がないと判断されています。それに、僕にも別の任務が入っていますしね。これ以上の調査をする事は不可能です」


「じゃあ……!」


 勢い込むハユ。しかし、それを遮って、伴は口を開いた。


「ですので、あのデバイスは既に適切に処分しました」


 その言葉は、ハユを打ちのめすように響いた。

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