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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十二話  「奈落への出撃」
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二 敵の作戦。

「ブラフ、ちゅうのは大胆な意見やけど、よう考えたら筋は通っとるな。実際、この情報だけで日本がどれだけ混乱しとるか。それに、こっちから打って出るちゅうのがようできん状態になっとる。なんのコストもかけんでこれだけの効果を出すんはほんますごいで。

 だけどなぁ。だとするなら、今回分析班が解析した、鷹城さんからの情報提供とされとるもんが罠やった、ちゅうわけやな」


 萬田空将は少し考えながら言った。ハユもその可能性は考えないでもなかった。だが、自分が発見できなかった情報に対する偏見もあるのではないかという思いが、その方向への考察を妨げていたのだ。イツキに言われた言葉は、ハユの心に刺さったままになっていた。


「まぁもちろん、これは可能性の一つです。我々の対策としては、作戦は実行されるものとして練られるべきでしょう」


 ハユは、自分達で見つけた解析結果が罠である可能性に言及したり、そしてそれにも拘りすぎず、公平に対応策を考えようとするこの伴という軍人を、畏敬の念をもって眺めた。


 自分なら、このメッセージを発見したら完全に信じ込み、疑う事など出来なかったかもしれない。


「ハユくんはどう思う?」


 萬田から突然振られ、ハユは狼狽した。もちろん、考えなどまとまってはいない。自分の判断に「予断」が紛れ込んでいる事など意識した事がなかったからだ。だが、発言を求められている以上、その期待には応えなければならなかった。


「今はなんとも言えないと思います。伴さんのおっしゃるように、可能性は色々考えられますし、ええと……」


 何とか有益な答えを出さなければ、と必死で考えをめぐらすハユに、萬田は笑顔を向けた。


「そやなぁ。考えると難しいなぁ。でもな、僕は考えを聞いたんとちゃうねん。どう思うかやねん。根拠のある考えを聞きたい時はそう言うしな、今は根拠なしでええから、どう思てるかを聞きたいねん」


 萬田の言葉に、ハユの肩からふっと力が抜けた。そうか。思ったこと。つまり、私の「私見」でいいんだ。現状では誰にも正確な結論を出すことは出来ない。私にだって、誰も「正解」を求めてなんかいないんだ。


「あ……、えっと、私は、この作戦の情報は、罠である可能性も高いと思います」


 ハユは一つ息を吐いて、言った。


「ふうむ、そうすると、あの鷹城さんが罠をかけるために嘘の情報をこちらに流したちゅう事か」


 チームトライのメンバーが、少し驚いた顔でハユを見つめていた。鷹城に心酔しているといっていいハユが、鷹城の裏切りを示唆する発言をするとは信じられなかったのだ。


「あ、いえ、違います」


 ハユは萬田に、そしてチームトライのメンバー、また、岐部総理大臣に向け、首を横に振って否定した。


「あの情報は、鷹城さんの意思で入れられたものじゃないと私は思います。鷹城さんがご存じなかったか、知っていても入れざるを得なかったのかはわかりませんが、ヤマトの主戦派による罠なんじゃないかなって、私思うんです」


 根拠など度外視で思いを話しながら、ハユは意外にこの意見は正しいんじゃないかと考え始めていた。少なくとも辻褄は合う。


 あれほど解析に時間を要するセキュリティをかけたのも、鷹城自身がヤマト主戦派の目をかいくぐるためという解釈だけではなく、そうすることで逆に「鷹城自身からの情報である」と思わせるためだとも考えられるし、ヤマト側が時間稼ぎをするためとも考えられる。


 それは巨大Gコンのエネルギーを蓄積するためかも知れないが、時間を置いた上で東京壊滅作戦をリークする事で、より焦燥感を煽り立てる効果を狙ったものなのかもしれない。

 「既に、すぐにでも東京が壊滅するかもしれない状況にあった」という恐怖によるパニックは、実際大きな効果を上げている。


 萬田は何度もうなずくと、全員を見渡した。


「僕はハユくんの意見に賛成や。だが、もちろん、最悪の事態の見据えて対応せなあかん。そうなると、軍としては急ピッチで都内の収拾にあたるべきやな。出来るだけ増員して事態の収拾に当たらしてくれ」


 萬田は折原にそう指示すると、もう一度全員を見渡した。


「これに反対するもんや対案のあるもんはおるか?」


「あの……」


 イサオが手を上げた。


「おお、チームトライのイサオくんか。なんや?」


「敵の作戦阻止はどうしますか? 敵の作戦が実行される危険だってゼロじゃないでしょう。俺たちだけでも、敵地に乗り込んでGコンをつぶさないと危険だと思うんですけど」


 出来る限り犠牲者を増やさないと覚悟を決めたイサオらしい発言だった。もちろん都内には残してきた家族がいる。軍人達にしても同じだろう。一刻も早く脅威は取り払いたいと考えるのが当たり前だったし、それは正しかった。


「そやな。敵のGコン兵器をつぶさん事には、国民全てが人質に取られとるようなもんや。だがな。もしこれが罠やったとしたら、君達だけが敵地に向かう事、それが敵さんの目的ってことになる。みすみす罠にはまりに行くのは面白ないなぁ」


「でも……!」


 イサオがさらに反論しかけた時、ハユが手を上げた。


「私もイサオさんの意見に賛成です。やっぱり、都内の収拾がつくまでの間にも攻撃の可能性がゼロではない以上、対策は必要だと思います」


 ハユはそう言うとイサオの方を向いた。


「でも、いきなり敵地に乗り込むのは危険だと思います。だから、ドライで筑西の大穴へ先行し、Gコンの動きをモニターするのがいいと思います」


「そないな事ができるんか?」


 萬田が面食らって聞き返した。位置も特定できていない謎の超兵器の動きを完全にモニターするなど本当に可能なのか。


「できます」


 ハユは自信をもって答えた。

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