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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
   第三話 「香川頼造の場合」
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六 発進シークェンス。

 乗り物のように思えたのですが、全くその正体はつかめませんでした。自動車の類にしては車輪がなく、飛行機にしては翼もジェットエンジンのようなものもありません。強いて言えば船や潜水艦に似ていると言えなくもないですが、海や川で運用されるものが、このような地下で建造されているなんてことは考えられませんでした。


 足跡はこの三機より前方まで伸びて、そこで途絶えていました。とすると、最初ここにあったのは六機で、先に来た三人がそれに乗ってここを脱出したという事でしょうか。


「これ、なんですかね……?」


 いつの間にかそばに来ていた伊藤さんが、機体をコツコツと叩いてそう尋ねました。


「乗り物……かなと思いますが。もう三機、前に並んでいたのに乗って、足跡の主たちはここから脱出したようですね」


 私はそう言うと華夕ちゃんの姿を探して周囲を見回しました。華夕ちゃんも機体のそばへ来ていて、機体を触ったりしながらじっくりと観察していました。


「でも、これで脱出って……飛べるとは思えないけど……」

「うん……私もそう思う……。中まで見てみないと何とも言えないけど……。でもこれが飛ぶなんてそんなこと……」


 華夕ちゃんは少し考えて、伊藤さんの方を向き、


「おねえさん、そこにパネルがあるでしょ?それで開けられませんか?」


と、機体側面についている手のひら大のパネルを指さしました。確かにそのパネルのそばに、人が通れるくらいの大きさの、ドアのような部分があります。


「これ? 触っても大丈夫かな……」


 そう言いながらも伊藤さんがパネルに触れると、ドア部分が内側にスライドし、機体内部への入り口が現れました。中をのぞくと、単座式のコクピットのようです。


 ドアを開けた伊藤さんが先頭に立って入り、続いて華夕ちゃんが入ると、私は入るスペースがなくなるほどの広さしかありませんでした。

 伊藤さんがシートに座ると、華夕ちゃんは内部を観察し始めました。私もなんとか半身を機体に入れてのぞき込むと、シートの前にあるメインコンソールは真っ黒のままでした。


「これ、本当に動くのかな?」


 伊藤さんがシートの前にあるモニタに触れると、音もなくモニタにシートベルトのアイコンが浮かびました。


「そっか、安全性の確保のため、シートベルトをしないと起動しないようになっているみたい」


 華夕ちゃんが言い終わる前に、伊藤さんは覚悟を決めたのか、シートベルトを装着し、しっかりとシートに体を固定しました。


 モニタ類が次々と灯り、全周囲のモニタが周囲の様子を映し出しました。メインコンソールには起動完了のメッセージが表示され、続いてコマンド待ちのメッセージが表示されています。


 私はコマンドの中に「発進シークェンス」があるのを見つけ、思わず声を上げました。それは、この機体がここから脱出できることを意味しているからです。


「華夕ちゃん、伊藤さん、この機体はここから出られるようです。三人でここから脱出しましょう!」

「この、機体で……?」


 華夕ちゃんは不安そうに私を見上げました。


「確かに、この機体じゃ飛べそうにないし、無事に脱出できるか……」

「私は大丈夫だと思う」


 私は確信を持ってそう言い、コクピットを出ました。


「ここから発進させる前提で作られているはずだからね。それに、前に三人の人がここから発進しているようだし。根拠としては弱いかもしれないけど、私は賭けてみてもよいと思う」


 右のポケットに入っているおしぼりに触れながら、私はそう言って隣の機体に向かいました。ここに長く留まっているべきではないと、あの警官が私に言っているような気がしていたのです。



 真ん中の機体のハッチを開け、シートに収まってシートベルトを締めると、機体に火が入りました。シートの全周囲を囲むモニタが作動し、右側にある三機目に華夕ちゃんが入って行くのが映し出されます。私は「発進シークェンス」の詳細を確認しようと、メインコンソールに眼を移しました。


 その時、地面がわずかに揺れ、私は全身が総毛立ちました。余震です。間をおかずに本格的な揺れが始まり、私は左右の機体を確認しました。二機は無事でしたが、ここに長居するべきでないのは確実です。私はコンソールに表示されているマイクのアイコンを選択し、二人に呼びかけました。


「発進しましょう! 余震が来ているし、ここも安全とは言い切れません。もしこの機体について不安なら私が先に出ます。そうでなければ一刻も早く発進して下さい!」


 二人が無事に発進するのを見届けてから発進しなければと言う気持ちと、この機体の実験台にならなければと言う相反する考えが、私を焦らせていました。この余震は、あの時の揺れとは比べ物にならないほど弱いものでしたが、それでもここが安全であるという保証はありません。


 上の方で隔壁が開いていく音が聞こえました。左右を見ると、二人の機体のカタパルトが作動し始め、斜め上方に傾いていくのがわかりました。二人は私の言葉を信じてくれたのです。


 恐ろしい勢いで左右の二機が射出されるのを見届け、私は発進シークェンスを起動しました。私の乗る機体のカタパルトが作動をはじめ、上方の隔壁が開いていきました。


 射出される際のGはほとんど感じませんでした。あの勢いで射出されるなら相当のGを覚悟していたのですが、拍子抜けするほどのあっけなさで、私の機体は眼がくらむ程の星空の中へ射出されました。






 発進シークェンスが完了すると、まず最初に私は周囲を見回し、二人の機体を探しました。


 突然、キーンという耳をつんざく音とともに、私のすぐそばを何かが高速で通り過ぎ、私は操縦桿にしがみつきました。


 メインコンソールがブザーを鳴らして危機を告げています。メインモニタには無数の光点が灯っていました。5つの大きな点と、無数の小さな点。全周囲モニタには、無数の戦闘機と軍事用ヘリが映っていました。


「所属不明機に警告する。所属を明らかにし、投降せよ。くり返す。所属を明らかにし、投降せよ」



 やっとの事で脱出したのもつかの間、私たちは何もわからないまま、軍に包囲されていたのでした。

【次回予告】



突如都市を襲った災厄に巻き込まれた三人の男と三人の女。


全てが変わってしまったこの日、この六人の運命はどこに向かうことになったのか。


そしてこの日を発端に、世界はどう変貌してゆくのか。



次回

第四話 「その日、何が起こったか」

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