表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十一話  「闇への序曲」
109/140

十一 蠢動。

「調子はどうだ? TSUBASA」


 彼は懐かしい声で目覚めた。気分は晴れやかだ。身体にも問題はない。


「快調……と言っていいでしょうね。MISAKI。ずいぶんと心配をかけてしまったようで申し訳ない」


 彼は暗闇の中で身体を起こした。


「心配などはしてないさ。お前が死ぬわけはないからな」


 彼女――MISAKIはぶっきらぼうにそう言うと次の作戦行動を彼に送信した。


「なるほど。面白いですね。悪魔どもを一網打尽にしてやれそうです」


「この間とは違い、今度はコンピプレイだ。あまり遊ばせてはやらんぞ?」


 MISAKIは彼の喋り方が少し気になっていた。これではまるで上官と部下だ。まぁ作戦に影響が出る事はないだろうが、余裕があれば再調整させるのも良いだろう。


「近いうちに悪魔は網にかかる。楽しみにしていよう」


「わかりました。MISAKI」


 彼は安らかな気分のまま、再び眠りについた。






 木下麗華は充足していた。心も軽い。同僚達の下らない話につきあわされるのは面白くなかったが、それでも前ほど苛立つ事はなくなっていた。


 心と体を満たされ、そして重要な任務まで与えられた。私は信頼され、愛されているのだ。それさえわかれば、どんな事にだって軽々と耐えてみせる。


 特に今、一仕事をやり終えて充実感に浸っている木下の表情は、いつにも増して美しかった。


「あ、木下さん……!」


 そんな木下を呼び止めたのは角谷曹長補だ。


 相変わらず私に夢中なのね。出海もかわいそうに。

 木下は心の中で舌を出しながら、角谷に笑顔を見せた。


「あ、角谷くん。どうしたの?」


 角谷はどぎまぎしながら周囲を見回した。緊急会議の準備に人員が割かれているせいで、このエリアには人が少ない。今この廊下は木下と角谷の二人きりだった。


「あ、いえ、その……」


 木下のまぶしい笑顔と魔性を感じるレベルのプロポーション。角谷は思わず生唾を飲み込んだ。


「こ、今度一緒に、夕飯でもどうかなぁと思ってさ」


「あら、みんなで?」


 わざと聞き返す。角谷が二人で食事をしようと誘っているのは明確にわかっていた。


「い、いや、良かったら、二人で……」


 角谷とて女性の扱いに慣れていないわけではない。だが、木下にだけはなぜか思うよう振舞う事が出来なかった。それは彼がなおさら木下に拘ってしまう理由の一つであったし、逆に言えば拘ってしまっているからこそ思う通りに振舞えないのだろう。


 木下は、ちょっと考えるふりをして、意味ありげに角谷を見つめた。


「良かった。私、大勢って苦手だから……。角谷くんと二人でなら、いいよ」


 木下は舌なめずりをするような気分で、角谷に微笑みかけた。





 15:00。


 筑波基地に於いて「対ヤマト緊急対策会議」が行われた。


 議長を務めるのは筑波基地総司令である萬田直毅空将である。岐部総理大臣、御殿場防警大臣以下統合幕僚幹部の面々や、大榊、宮司と言った実動部隊司令官、ハユを加えた参謀本部や分析班も出席するかなり大規模な会議であった。


「えーまず、今回発見されたメッセージについてやが、既にここにおるメンバーにはファイルを送って、見てもろてると思います。一応念のために概要を。分析班」


 いつになく真剣な顔で、萬田空将は分析班に発言を促した。


「はい。詳細についてはここでは省き、まず概略を説明いたします。その後、質問等あればお答えいたしますので、よろしくお願いいたします」


 分析班の班長、(ばん)和哉(かずや)技術弐尉が一礼をした。


「今回得られた情報は、かの国が日本攻略をする際の軍事作戦についてです。もちろん軍事以外の作戦もあるでしょうし、軍事作戦もこれだけとは言い切れません。二重三重に作戦を練っていると考えるのが妥当でしょう。その点を考慮の上で、この情報を検討する必要があると考えます」


 伴は手にしたタブレット端末に目を落とした。


「まず注目しておきたいのが、この添付された画像です。これは地底国家ヤマトの大まかな地形、それから都市や軍施設の配置、そして政治中枢の内部地図までが含まれています。この情報が本物で、それを持ち出せる立場にある人物が我々に情報をリークしているのだとしたら、その人物がかの国の国家元首、鷹城明氏である可能性は極めて高いと言えるでしょう」


 ハユは伴の分析を複雑な思いで聞いていた。

 自分がこの情報を発見できなかった事に対する引け目はもう感じていない。ただ、この情報に対する信憑性について、明確に判断出来ない事が、ハユの心を重くしていた。


 情報が得られたのは喜ぶべき事だ。だが現時点に於いて、この情報を元にどう行動していくべきなのか、ハユには皆目見当がつかなかった。


「それから、かの国の軍事作戦についてですが、これははっきりしています。もちろん様々な細かい作戦、戦略、戦術等が記されていますが、中心となる作戦はたった一つで、これが成功するかしないかで戦いの帰趨は決まるでしょう」


 伴はタブレットから目を離し、一同をぐるりと見渡した。


「かの国の目的は、一つ。東京の中枢に筑西の数倍規模の大穴を開け、壊滅に追いやる事です」


 伴は表情を変えず、淡々と言い切った。



 地底国家ヤマトが狙う軍事作戦。それは、悪夢のような作戦だった。

【次回予告】


地底国家ヤマトが狙う東京壊滅作戦。

それは悪魔が立案したかのような恐ろしいものだった。

作戦の実行を止めるため、チームトライに出撃命令が下る。

東京を、日本を守る為に立ち上がるチームトライ。

しかし、ハユだけはその作戦に疑問を抱いていた。


次回

第十二話 「奈落への出撃」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ