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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十一話  「闇への序曲」
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九 若さ。

「うらやましい? 俺が?」


 イサオには信じられなかった。うらやましいと思っていたのはイサオの方なのだ。


「もちろんだよ。私にはもう、イサオ君みたいにまっすぐに考えたり、見たりする事はできないからね」


「まっすぐに……」


 イサオはライゾウの言葉を鸚鵡返しに口に出した。だが、ライゾウの言う「まっすぐ」の意味はわからなかった。


 トモミの心の支えになりたくて、その方法を聞きたい。なのに、それが全然言い出せない。くよくよ考えて別の事ばかりを言っている。そんな自分が「まっすぐ」だなんて言えるのだろうか。


 そういう考え方こそが、ライゾウの言う「まっすぐ」なのだが、それはイサオの理解の範囲を超えていた。


「私はね、そんなに純粋に、まっすぐには考えられないんだよ。まず自分の発言が他の人にどう聞こえるかを考えてしまう。言いたい事を言わずに、話の流れがそうなるように持って行こうとする。前もって、先回りして考えすぎるんだな。それで、口に出す時には最初思っていたものとは全く違う言葉になってしまう」


 ライゾウは話しながら、こんな事を話している自分に少し驚いていた。イサオが話しやすくするための方便だとは言え、今自分の口から出ている言葉は、これまで誰にも話した事がない正直な自己分析だったからだ。


「いや、これは余計な話だったね」


 そう言って苦笑するライゾウを、イサオは不思議な思いで見つめていた。こんなに雄弁に喋るライゾウを見るのは初めてだった。

 いつもいるのかいないのかわからないような、輪郭のぼやけた印象しかなかったこの中年男性の中には、やはり何かがあるのだ。イサオは改めてそう確信した。


「ライゾウさん、俺……」


 イサオは思い切ってそう切り出した。だがすぐに言葉に詰まる。


「大丈夫。秘密は守る」


 ライゾウがいたずらっぽくにやっと笑い、軽く握った拳をイサオに向けた。イサオは一瞬きょとんとしたが、ふっと微笑して、自分の拳をライゾウの拳に当てた。肩から力が抜けるのを感じていた。


 ライゾウの拳から確かに何かを受け取ったような、そんな安心感がイサオの心に広がっていた。







 ほぼ同時刻。


 自室の整理もそこそこに、ハユは早速記録デバイスの分析を再開しようとしていた。

 朝霞分屯基地の部屋とは格段に差がある自室。一時的に民間人を泊まらせるだけの部屋とは違い、今度は規模の格段に違う筑波基地の、士官クラスの部屋である。その差は歴然であった。


 またハユの部屋には特別に、参謀職のための情報機器も揃っていた。日本防衛警備軍の工場と謳われ、情報基地としての役割をも担う筑波基地が持つ力の一端を、ハユは自由に使う事ができる。


 ハユが記録デバイスのコピーを仮想ディスク上に展開し、腰を据えて分析にとりかかろうとした時、ハユの副官である出海曹長補が飛び込んできた。


「ハユさん! 筑波の……いえ、当基地の分析班が、記録デバイスに隠されたメッセージを発見したそうです!」


「本当ですか!?」


 ハユは思わず立ち上がった。複雑な気持ちだった。

 どんな内容かはまだわからないが、これで鷹城明が行った宣戦布告の意味が明らかになるだろう。単に戦争を仕掛けてきたのではないと信じたい。


 その根拠が明らかになるだろうという期待感と同時に、やはり自分が発見したかったという悔しさがハユの心の中に存在した。


「はい! 既にハユさんの端末にデータ送信済みとの事です。15時から緊急対策会議がありますので、それまでにお目通し下さい」


 出海はそう言うとキッチンに向かい、きちんと整頓されたばかりの戸棚から紅茶の缶を選び、ポットで湯を沸かし始めた。


 ハユは少し慌てて端末を起動すると送られてきていたファイルを展開した。ざっと目を通して、ハユは思わず声を上げた。


 そこには、地底国家ヤマトによる日本攻略作戦の全容が記されていた。






 私は、速水君の心の支えになれるんだろうか。


 あらかた片付いた自室でデスクに向かい、トモミは小さくため息をついた。


 イサオの鬱屈した表情が気にかかっていた。夜の電話も最初の数日だけでその後途切れている。イサオの勾留がその原因だが、勾留が解けても夜の電話が再開される事はなかった。


 いつも思いつめた表情のイサオに話しかける事すらままならないのに、夜の電話で何を話せばいいのか。


 こんな時、稲本さんならどうするだろう。そして、ライゾウさんなら。


 筑波基地奪還までの不安定だった時期、自分の心を支えてくれた稲本の顔を、トモミは思い浮かべた。そして戦いの中で感じた、ライゾウの存在による絶大な安心感。


 私は、速水君の心の支えになれるんだろうか。稲本さんのように。ライゾウさんのように。


 トモミがもう一度小さくため息を漏らした時、暖かく柔らかい手がトモミの頭をそっと撫でた。


「どうしました? トモミ参尉」


 手と同じように暖かく柔らかい声にトモミが振り向くと、稲本曹長補の丸顔が微笑んでいた。


「もぉ、稲本さん、『参尉』はやめてくださいよぉ」


 トモミは唇を尖らせて抗議した。


「だめですー。トモミ参尉は、正式に軍属になって、私の上官なんですから!」


 そう言いながらも稲本の目は笑っている。


「でもまぁ、そうですねぇ。この部屋の中で、二人だけの時なら、智美ちゃんと呼んで差し上げても良いですが?」


 いたずらっぽく笑う稲本に、心の支えってこういう事なのかも知れないなとトモミは思った。


「じゃあ私も友美ちゃんって呼んじゃおうかなぁ」


 トモミが言い返すと、稲本は頬を膨らませた。


「こら、年上のおねえさんに失礼でしょ? それに紛らわしい!」


「だって、友美ちゃんの方がちっちゃいもん!」


 自分がどんどん笑顔になっていくのを自覚しながらの応酬。


「もぉ! 言ったなぁ!」


 稲本の両手がトモミの髪をくしゃくしゃにかき回した。


「ごめんなさいごめんなさい! 許して稲本さん!」


 室内に二人の笑い声が弾けた。


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