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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十一話  「闇への序曲」
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四 憂鬱。

「実は、敵の行動の分析は難航していてな。今言えるのは大榊が言ったことで全てだ」


 宮司がきっぱりそう言い切った。


「だが、今度は俺の方からも報告させてもらう。例の宣戦布告の記録デバイスだが、これに何かあるんじゃないかってな。今筑波に送って詳細に解析中だ。ハユちゃんには既にコピーを渡して見てもらっているが、明日以降は筑波のクルーに俺やハユちゃんも加わって、現物を解析する事になる。よろしく頼むよ、ハユちゃん」


「はい。よろしくお願いします」


 ハユはにっこり笑って宮司に返事をすると、いつになく真剣な顔になった。


「私、どうしてもあの宣戦布告をそのまま受け止められないんです。あの鷹城さんが、日本に戦争を仕掛けるなんておかしいと思うんです。

 もし、鷹城さんがヤマトの人たちの目をごまかして私達にメッセージを送ってくれているんだとしたら……」


 大きな舌打ちが響いた。イツキだ。もうその舌打ちには慣れたはずのハユであったが、今回の舌打ちは違った。とても冷たい響きだった。ハユは思わず身体を強張らせ、その言葉は途切れた。


「そんな予断を持って解析されたんじゃ、結果を信じるわけにはいかねえな」


 ハユは何も言えなかった。イツキの言ったことは間違っていない。

 がたっと音を立てて立ち上がると、イツキは大榊を見た。


「コアなところの話はもう終わってんだろ? 後の枝葉末節は、俺の副官様に伝えといてくれ」


 くるりと背を向けてドアに向かう。


「おいイツキ! まだ終わってないんだぞ! 席に……」


「どんな命令でも、いつでも拒否ることができんだったよな?」


 イツキを咎める宮司の言葉を遮るように、イツキは挑戦的に言い返した。確かにその通りだった。宮司は歯噛みする思いだが、言葉が出ない。


「それじゃ頼むぜ、副官さん。はい、おつかれ~」


 イツキはそう言い残すと、ミーティングルームを後にした。






 それから程なくしてミーティングは終了した。

 イツキが去った後の空気は硬く、細かな事項の伝達だけで、予定よりも三十分早く終わったのだ。


「イツキの言うことなんていちいち気にしちゃだめよ。私はちゃんと信頼してるから。ね、ハユちゃん」


 表情の硬いハユに声をかけて見送ると、セリナは席に戻ってため息をついた。

 既にほとんどのメンバーが退出し、残っているのはセリナとセリナの副官である木下(きのした)麗華(れいか)だけだ。


 金富が部屋を出て行く時セリナに視線をよこしていたようだが、セリナはそれを敢えて無視した。


 ミーティングの内容は、セリナが既に聞いていた内容と一致していた。それ以上でもそれ以下でもなかった。


 という事は、これ以上あの男との関係を続けたところで得られる情報は変わらないと言うことだ。ただ発表前に聞くことができると言った程度のもので、情報の質からしても早く知ることにあまり意味はない。


 あの男が自分に対して情報を出し惜しみしているとは考え難かった。彼から聞いていなかった情報がミーティングで出てこなかった事がその根拠だ。もし恣意的に情報を隠そうとしていたなら大榊や宮司と情報の統制を行っていることになるが、大榊たちにはそうするメリットがない。

 また、セリナにはもう一つ、根拠と思えるものがあった。


 あの男には、まだ何か隠していることがある。


 それはセリナの直感だった。明確な根拠はなく、女の勘とでも言うべきものだったが、セリナはその勘が正しい事を確信していた。


 何かを隠しているからこそ、それ以外の情報については全て語ろうとしているのだとセリナは感じていた。


 どちらも冷静に見れば根拠として希薄だったが、セリナが彼との関係を無価値と断ずるには充分だった。


「セリナ参尉、どうされました?」


 なかなか席を立とうとしないセリナに、木下曹長補が声をかけた。


「具合でも……」


「ああ、いいの。気にしないで。私は適当に部屋に戻るから、あなたは今のミーティングの内容、まとめといてね」


 セリナは木下に目を向けることもなくそう言った。


「了解しました」


 事務的な木下の返事を背中で聞いて、セリナはミーティングルームに一人残された。


 正直、セリナはあの副官、木下麗華の事が嫌いだった。何故と言うと答えに窮するのだが、なんとなく馬が合わないのだ。


 今だってそうだ。少し気に入らない事を言うとすぐに反応が事務的になる。可愛いだけでちやほやされて、自分の思い通りに生きて来たんでしょう、どうせ。


 セリナは会社でもそういうタイプの後輩達が大嫌いだった。同じ態度でも、年下の男子社員なら可愛いと思えるのに、女子社員のそれは我慢ならなかった。


 セリナはもう一つ荒いため息をついた。

 苛立ちは募っていたが、それでも自分がどうにかできないことはない、と信じていた。



 自分の手に余ることなど、あってはならなかった。

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