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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十一話  「闇への序曲」
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三 敵の意図は。

「私はもちろん、イサオ君のアイデアが良いと思うよ」


 ライゾウは大分力の戻った声で言った。


 ライゾウが意識を取り戻した6月6日から早五日。ライゾウは驚異的と言えるレベルで回復していた。


 連日のリハビリ、そしてシミュレーション訓練。過酷なトレーニングと言っても過言ではないレベルのリハビリと高タンパクな食事が、一度ごっそりと肉の削げ落ちた身体に新しい筋肉をつけ始めていた。

 柔和で少ししょぼくれた風采は相変わらずだったが、体型や体質は目に見えて変化していた。


 起きている時間のほとんどを、訓練とリハビリに費やしているのだ。ライゾウのストイックさは軍人達も舌を巻く程だった。


 ライゾウのリハビリには常にハユかトモミが付き添っていた。もちろん寺嶋(てらじま)曹長補も常にライゾウに付き従っているのだが、二人はそれが自分達の当然の任務であるかのように、いやむしろ当然の権利であるかのように、ライゾウの付き添いを寺嶋に任せようとはしなかったのだ。

 自然、イサオがトモミとすごす時間は激減していた。


「では今後、本分隊については【チームトライ】と呼称する」


 大榊がまとめた。


「6月6日付けで宣戦布告されたわけだが、現状敵からのアクションは何もない。だが、宣戦布告をされている以上、敵からの攻撃を待つのではなく、こちらから打って出る事を考えねばならない」


 ――そうか。敵から戦争だと宣言された以上、専守防衛と言うわけにはいかないよな。


 イサオはぼんやりと考えていた。今ひとつ実感がわかなかった。宣戦布告から数日はかなり緊張していた。いつ敵が攻撃を仕掛けてくるかわからない。その時、まだ修理の完全ではないトライツヴァイでどこまで戦えるのか。


 しかし、丸五日の何もない日々が、イサオの弛緩を呼んでいた。人間はそれ程長い期間緊張を持続していられるものではない。あれほど騒いでいたマスコミすら既に興味を失い、日常のありふれたスキャンダルを大きく報じるようになっていた。戦時下の緊張感などまるでなかった。


「各機の修理はとりあえず終わってる。鹵獲した敵機の部品、武装なんかも解析中だ。光が丘の地下から出てきたもんもあるし、少しは戦いやすく出来るはずだ。作戦に間に合えば、だがな」


 宮司があっけらかんと言った。トライツヴァイの大破ぶりから考えて、五日で修理が完了したと言うのは驚異的だった。整備中隊の能力もさることながら、そのオーバーワークがかなり懸念される状況だ。


「そこで、Tシリーズの整備がひと段落したこの時点で、我々チームトライは筑波基地へ転属となった。明朝、機体ともども筑波基地へ赴き、基地指令に挨拶を済ませた後、正式な辞令交付となる。詳細は後ほど資料にて伝達する。何か質問は?」


 大榊はその場にいる全員を見回した。


 実際、筑波基地へ転属になるのはチームトライだけではない。朝霞分屯基地所属の大榊中隊、宮司中隊はその全てが筑波基地への転属となっていた。残るのは五十畑空将補と医療スタッフくらいのものだ。


 これまでのヤマトに対する実戦経験を買っての最前線入りである。


 日本防警軍が、ヤマト攻略の拠点を筑波基地に定めたのは、基地の規模だけが理由ではなく、ヤマト側のテクノロジーを駆使したTシリーズを整備するため、最先端の設備を誇る「防警軍の工場」の力が必要だったからだ。


 今まで整備隊中心の基地であったが、今回の事を受けて本格的な実戦部隊が配備され始めていた。習志野からも陸上部隊が転属して来ることになっている。


「あの、今の話とは直接関係ないんですけど……」


 手を上げたのはセリナだ。


「今現在の敵の動きについて、わかっている事を教えてもらえますか?」


「現在、敵の動きは確認されていない。筑西の穴にも変化はなしだ。前回戦った敵機本体は回収されてしまったようだが、その修理に当たっているのではないか。また、パイロットが負傷している事も考えられる。

 ただ、敵軍の将兵が彼一人と言うことはあり得ないだろう。今までこちらに投入してきた戦力は無人機中心だったが、敵地へ乗り込むとなれば有人機による反撃は確実だ」


 大榊は淡々と答えた。実は大榊自身、敵の考えが読めていないのだ。宣戦布告とは戦闘を開始するためのものだ。もし現状、敵が戦闘を開始するための準備をしているとしたら、宣戦布告のタイミングが拙速に過ぎるのではないか。充分準備が整ってから布告するのが常道である。


 ならば何故あのタイミングでなければならなかったのか。

 その理由が大榊にはどうしてもわからなかった。


 もちろん、こちらから打って出るための準備はする。敵からの攻撃が早かった場合の対応策も考えている。だがそれでよいのか。何か重大な見落としがあるのではないか。それがあの宣戦布告の、謎のタイミングと関係しているのではないか。


 大榊の不安を払拭できる要素は皆目存在しなかった。それでも、動かなければならないのが軍人である大榊であった。

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