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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
    第十一話  「闇への序曲」
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二 宣戦布告がもたらしたもの。

 地底国家ヤマト。それが先日来日本を騒がせている【敵】の名前だった。その名前は、かの国家が日本に宣戦布告をして来たという事実とともに、日本中に広まった。


 彼らヤマト側の主張はこうだ。




 人類が西暦を使っていた頃、宇宙開発のために地球を飛び立った人々は、数世紀を経て科学技術を発展させた。そしてその圧倒的な技術力軍事力を持って地球に戻り、地球上で平和に暮らしていた人々を蹂躙し、地下世界に追いやったのだ。


 それが五百数十年前に起きた戦争である。


 この戦争は、地上地下、どちらの世界の歴史からも抹殺されてしまった。だが、正統人類が地下に幽閉され、帰還者達が地上を闊歩している現実こそが、その動かぬ証拠である。


 地下国家群は地上を取り戻すため、地上人類を駆逐する。それが地下に追いやられた正統人類の、当然の権利なのだ。




 新聞各紙、各放送局はこぞって特集を組んで今回の事態を報道したが、その論調は大きく三つに分かれていた。



 一つ目は、反戦講和論。


 五百数十年前の戦争犯罪を反省し、謝罪と賠償を以って講和すべきと言うのが主張の大筋だ。また、被害者たる地下国家に対し先日来岐部政権が採ってきた軍事偏重政策こそが彼らを刺激し、このような宣戦布告に走らせたのだ、と現政権への批判も強い主張のひとつであった。


 この論を主に主張しているのはほぼ全ての新聞社と、その系列の放送局である。全メディアの中では35%ほどのシェアを占めていたが、主張の激しさと声の大きさで、実質以上の影響力を持っていた。



 二つ目は、主戦論。


 今回テロや攻撃をして来たのはヤマトの側である。国民の生命財産を守るという国家の基本的な責務を果たす為には、敵の攻撃を永久に封じる他はない。その唯一の方法は圧倒的軍事力による制圧である、というものだ。


 この論を主張しているのはごく一部の新聞社と、それと思想を同じくする団体、個人である。全メディアの中では数%ほどしか占めていない勢力だが、狂信的とさえ言えるその信念の強さは、軽視できない存在感を持っていた。


 また五百数十年前の戦争についても、独自の解釈を示しており、その解釈には一定の説得力があった。


 曰く、宇宙開発に出た人々は地上に残った人類から棄民扱いされていたと言うのである。特権意識を持った残留人類は地球環境を破壊し尽くしていった。宇宙人類は地球が完全に死の星となる前に帰還し、そのテラフォーミング技術をもって地上を再生したのである。地球環境を破壊することしかなかった残留人類に、地上に住む権利などない。


 主戦論者ではない人たちの中にもこの解釈を正とする者は存在したし、主戦論自体、完全に否定されるべきではないという風潮も根強い。



 三つ目は、実力行使容認融和論。


 全メディアの中で最も多く、60%近くを占める論調だ。

 もちろん国民の生命財産を守る事は大前提として、敵国が宣戦布告をしてきた以上戦う事は避けられない。だが敵国の国民にもできる限り被害を出さず、日本側主導で融和する為に、最低限の実力を見せる事は必要であろう。敵国側の主戦論者さえ一掃出来れば良い、という主張である。もちろんこの「一掃」というのも、斬首と言うことではなく逮捕というレベルで良い。出来るだけ敵味方共に被害を出さず、最終的な融和を目指すというのがこの主張の主眼であった。


 全メディア中で最も多くを占めるこの主張を報じる新聞社は皆無であった。新聞社に属さない放送局や個人が発信し、多くの人に受け入れられていったのである。


 しかしこの種の報道で、視聴者が求める論戦が行われる事はなかった。


 反戦講和論を打ち出す放送局は、同種の主張をするコメンテーターや有識者しか起用しなかったし(時に主戦論者を起用して、結論ありきで言論的リンチを行う事はあったが)、実力行使容認融和論を打ち出す放送局がどれほどオファーしようと、反戦講和論者がその番組に出演する事は一切なかったからだ。


 反戦講和論者達の言論的鎖国作戦によって、公平なディベートが行われる事はなかったのである。






 新暦518年6月11日10:00。


 Tシリーズのメンバー達は、新たに用意された専用ミーティングルームに集合していた。

 大榊、宮司、金富の他、各メンバーの副官達まで集まっていた。最重要ミーティングである。


「では、T分隊のミーティングを始める」


 大榊が口火を切ると、宮司が驚いて大榊に向き直った。


「おいおい大榊ィ。なんだ、その……T分隊ってのは」


「Tシリーズを運用するこの分隊の名称ですよ。名称がなければ呼称しにくいですから」


 大榊は表情一つ変えずに言った。


「いやそれにしても【T分隊】はねぇだろ。ネーミングセンスは士気にも関わるぞ?

 ……そうだなぁ。せめて【Tチーム】とか【チームT】とかの方がまだ……」


「変わんねぇよ、旦那」


 イツキがまぜっかえす。


「そうか……? うーん……。ハユちゃんはどう思う?」


「そうですね……。私は士気に関わると言うのも理解できますが……、あまりみんなで意見を出し合うって程の事でもないかなって」


 ハユの意見はもっともだった。見事にしゅんとなる宮司に、空気が和む。


「チームトライ……」


 イサオがぼそっとつぶやいた。宮司ははっと顔を上げた。


「チームトライ……。いいなそれ! イサオ、俺はチームトライに一票だ!」


「そうですね。Tシリーズの機体名称に共通して入っている言葉だし、トライって、私達が何かに挑戦するみたいな意味にも取れますし」


 セリナがうなずきながら言った。


「私も、イサオ君の案に賛成です」


 トモミがイサオに微笑みかけた。


「ライゾウさんはどうですか?」


 イサオはトモミにうなずき返し、すぐにライゾウに意見を求めた。今イサオが抱く関心の中心にいるのは、このライゾウだった。

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