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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
   第三話 「香川頼造の場合」
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五 未知の光へ。

 見えるという事と目標ができるという事が、これほど心を強くしてくれるとは想像もできませんでした。闇の中を、ただ左手で壁をなぞりながら歩いていたのとは雲泥の差でした。


 様子を確認しながら進むこと、そして、光が強くなる方向へ進むという目標ができたこと。地面に転がる遺体を見てしまうことを除けば、快適とさえ言える状況の変化でした。


「香川さん、華夕ちゃん、ちょっと」


 左側の、ドアの外れた部屋をのぞき込んでいた伊藤さんが私たちを呼びました。


「どうしました?」


 彼女がのぞき込んでいた部屋は、モニタルームのようでした。たくさんのモニタやPCが並んでいたのでしょう、ほとんどが倒れ、床に転がってしまっていました。そして、それまでとは比較にならない強さの光が、その部屋の右側から差し込んでいました。


 他のドアとは明らかに違う分厚いドアが、あっけなく外れて倒れていました。光は、その奥に通じる通路からあふれ出していたのです。

 伊藤さんが慎重に、しかし期待に高まった急ぎ足で通路に向かい、私たちも後に続いて通路から差し込む光の中へ踏み込みました。


 ずいぶん長い間、こんなに明るい光を見ていなかったような、懐かしさを伴った錯覚。眼が慣れてしまえば、なんて事はない普通の照明でした。ただ、驚いたのはその通路が全く無傷だったこと。天井の照明も一つとして壊れておらず、ここだけはあの災害がなかったかのような、あまりにも日常的な、別世界のような趣でした。ただ、きれいに磨かれた床に残された血まみれの足跡が、この通路もまた私たちが歩いていた世界と地続きであることを証明していました。


 隅々までくまなく見えて、足元に障害物のない通路。今まで全く当たり前だった事が、どんなにありがたいことだったか。今までの行軍でへとへとに疲れきっているはずなのに、私たちの足取りは、まるで歩くこと自体を楽しむように浮き立っていました。


「ずいぶん頑丈に作られているのね、ここは……。この施設の中心で、最も重要なセクションって事か。あんな大きな衝撃や振動にも、ひび一つ入らないなんてね……」


 伊藤さんが壁をコツコツと叩きながら、感心したようにそう言いました。


「確かに……」


 華夕ちゃんは少し考え込んで、やはり腑に落ちないという表情を浮かべました。


「重要施設があって、頑丈に作られてることは間違いないと思うんですけど、でも、こんなに無傷なんてあり得るんでしょうか……」

「それは、実際ここが無傷で残ってるんだし、あり得るって事でしょう?」


 確かに伊藤さんの言うとおりでした。事実この場所が存在し、私たちが歩いていること自体が何よりの証拠です。しかし華夕ちゃんはそれを認めた上で、それでも納得がいかないようでした。


「そうなんです。そこがわからないんです。場所によって被害のばらつきがあるのはわかるんですけど……。

 これだけの人が亡くなっていて建物も崩れているのに、この場所だけ無傷とか、私たちがほとんど無傷で助かっていることだって不自然だと思いませんか?

 何かが異常なんです、今回のこと……」


 この子は一体どういう子なんだろう……。私の心にずっと巣くっている疑問がさらに強くなってきていました。この分析力もさることながら、自分が生きていることを「不自然」と言い切ることが出来るメンタリティ。およそ年齢にふさわしくないものでした。


 私は頭を少し振って、床に残されている足跡を眺めました。私たちの後ろでは、私たちの分を含めた六人分の足跡がここまで続いていました。先行する三人分と私たちの足跡は同じように血にまみれて汚れています。先にここを通った三人も、私たちと同じ境遇にあったはずでした。私たちの他にもこの災厄を生き延びた者がいると言う事です。足跡は通路の突き当たり、大きな扉の前まで続いていました。


「とにかく、先に進もう。私たちが生き残っている理由は後からでも考えられるしね。まずは生き延びることを第一に考えよう」


 私がそう言って華夕ちゃんの頭をぽんぽんと撫でると、彼女は驚いた表情で私を見上げ、そして笑顔でうなずきました。


「じゃ、いこっか。あの扉の向こうに、その謎を解くカギがある可能性は高いしね」


 伊藤さんはそう言って華夕ちゃんの肩を優しく叩き、私たち三人は連れだって大きな扉の前に進んでいきました。

 三人が扉の前に立つと、大きな扉は音もなく左右に開いていき、私たちの目の前に、地下施設とは思えないレベルの広さを持った空間が、その姿を現しました。





 整備工場のようなたたずまいを持っていましたが、その空間に点在する設備は今まで見たことがないものばかりでした。伊藤さんと華夕ちゃんは興味津々で思い思いに設備を見て回っています。ただ、二人の興味のありようはだいぶ異なっていました。

 伊藤さんが、その形や配置を把握し、レポーターのような目線で「どんなものを見たのか」に力点を置いて観察していたのに対し、華夕ちゃんはそれぞれがどんな機能を持ち何のために設置されているのかを分析しながら観察していたのです。


 しかし私は、まず彼女たちを無事にここから脱出させることだけを考えていました。先にここへ入った、足跡の主たちの姿は見えません。という事は、ここから脱出するか、さらに先に進んでいるという事です。どちらにしても、彼らの足跡の行方を確かめる事が第一に思えました。


 足跡はこの施設の中央部へ向かっていました。その先には、三機の見たこともない乗り物のような機体が並んでいます。私はその三機に近づいて観察してみました。

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