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【リアルロボット系社会SF】蒼翼の獣戦機トライセイバー  作者: 硫化鉄
序章 第一話 「速水勇夫の場合」
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一 告白未遂。

 遠雷……。


 地上から時折響いてくる遠雷の音に、俺達は闇の中、身をすくませていた。

 音が近づけば身じろぎし、音が遠ざかれば安堵の吐息を漏らし……。

 闇は、永遠に晴れないと思わせる力を持っていた。


 僅かな光源すらない真の闇。目が慣れる事もないこの闇の中で、分かるのは、すぐそばにいる倉科の息づかいと、握っている手のぬくもりだけだ。


 遠くの方からかすかに聞こえていた女の子らしい声も、もう聞こえなくなっていた。

 今は倉科だけが、確かな存在感を持っていた。


「速水くん、いるよね……?」


 探るように、おそるおそる発せられた声。不安と恐怖で震えていた。握った手に力がこもる。言葉で生存を確認しないと、不安でいられないのだろう。


「うん、ここにいる」


 倉科を安心させたくて、声の震えを圧殺する。そして、強く手を握り返した。倉科はすがりつくように、両手で俺の手をつかんだ。俺の中にあった恐怖感が薄らいでいく。倉科を守りたいという気持ちが、恐怖心を圧倒していくのがはっきりと感じられた。


「……ったく、一体何があったって言うんだ……?」


「わかんない……あたしにもわかんないよ……」


 倉科の声が感情的に上ずってきていた。俺の存在を確認して、安心したのだろう。俺という受け手の存在が、感情の抑制を弱めたのだ。


 それにしても、何でこんな事になったのだろう。俺達が一体何をしたと言うんだ……?

 あの時、俺は、倉科に想いを伝えたかっただけなのに……。






 俺の名前は速水勇夫。都内に住む高校二年生だ。得意教科は体育だけの帰宅部。つまり、とりたてて変わったところのないフツーの高校生というわけ。


 今日……。つい数時間前、俺は一世一代の勝負に出たのだった。




「あ、倉科、今日部活終わった後、空いてる?」


 校舎の西階段で、偶然を装って、俺はクラスメートの倉科智美に声をかけた。偶然であるはずがない。美術部の倉科が、美術室へ行くためにこの階段を通ることなんて簡単に予想がつくのだ。


「うん、空いてるけど、どうしたの?」


 倉科は屈託なく聞き返してきた。そのあまりの素直さに、俺の鼓動はさらに跳ね上がる。


「い、いや、ちょっと前から言おうと……思ってた事があってさ」


 どぎまぎして言いよどむ俺。


「今平気だよ?」


「いやっ! えっと、その、もちょっとちゃんとした感じで言いたい事だからさ、

……倉科が部活終わったら! ちょっといい感じの喫茶店があるからそこに行こう! そこで話すから!」


 また間髪入れずに直球を返してくる倉科に、一瞬パニックになった俺はマヌケな返事を返してしまった。


「え……? あ……」


 何かを察したのか、倉科は一瞬目を伏せ、何かを言いかける。


「い、イヤだったら、別にい、いいんだけどさ! と、とにかく倉科の部活終わんの、待ってっから!」


 俺は倉科の言葉を遮るようにそう言って、逃げるように階段を駆け下りた。




 こんなんじゃ、相当鈍いやつでも何の用かわかっちまうよなぁ……。

 俺、多分顔そーとー赤くなってただろうし……。


 ……でも、倉科は来てくれた。


 もし、俺の気持ちがばれてるんだとしたら……来てくれたって事は……。




「へぇ~、言うだけあっておしゃれなお店だね。

速水くんがこういうお店知ってるってちょっと意外だったけど」


 店内を見回して、倉科は少しはしゃいでいるようだった。まず店選びのセンスは合格、といったところだろうか。こういうのに詳しい姉貴に、一個1200円の高級プリンで情報を売ってもらったのはやはり正解だった。


「お、おぅ……。いい、感じだろ?」


 心の中で姉貴に最大限の御礼を申し上げ、倉科を空いているテーブルへ誘う。

 店内には数組の客が、静かにお茶を楽しんでいた。


「うん! ほんといいお店だね」


 椅子やテーブルといった調度もアンティークな雰囲気が漂っていて、それだけでいい気分になってしまう空気だ。


「こ、紅茶の専門店なんだぜ、珍しいよな。

……なん、だよな?」


 やっぱり倉科と向かい合って座ると気分がテンパってくる。口の中がからからになって、俺は運ばれてきたお冷を一息で飲み干してしまった。


「あ、うん、珈琲の専門店は結構見かけるけど、紅茶のは珍しいかも」

「だよな、だよなぁ~」


 なかなか本題を切り出せない。でも、まぁオーダーを取りに来た後がいいだろう。いや、紅茶が来てからの方がいいよな、やっぱり。


「で……速水くん、話したい事って……?」


 そんな事をぐるぐる考えていたら、倉科はズバッと本題に切り込んできた。

 俺は生唾を飲み込んだ。もう逃げ場はない。


「んっ!? あ、あの、あのさ……。

倉科って……つきあってるやつとか、いんの……?」


 一旦言葉を切り、息を吸ってそう切り出す。


「いないけど……なんで?」

「あ、そ、そのいや……」


 心臓が破裂しそうに鼓動している。耳で聞こえそうだ。喉がからからだ。でも水は飲み干してしまっている。もう覚悟を決めるしかない。


「く、倉科、つきあってるやつ、いないん、ならさ……あの……」


 その時だった。


 轟音が響いて俺達の頭の中をかき回した。


 自分の体が吹き飛んで、上にあるのか下にあるのか、何もかもが分からなくなっていた。


 轟音の中で、倉科の悲鳴を聞いた気がした。

 力いっぱい倉科の名前を呼んだが、それも単なる悲鳴にしかならなかったかもしれない。

 全力で声を出しても、自分の耳にすら全く届かない。

 ありとあらゆる衝撃が全身を襲い、痛みがあるのかどうかすら判然としなかった。



 そして、永遠に続くかと思ったその轟音と衝撃が収まった時、俺達は暗闇の中にいた。

 ただ一つ。気づいた時、俺はしっかりと、倉科の手を握りしめていた。


 それが全ての終わり。そして、始まりだった。

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