《とある占い師の言葉》――③
ネットワーク。
何百年も前に人類が開発して以来、生活を支える大きな役割を持つようになったと聞く。
旧時代の技術は、未だに根強く生き続けている。
建築物の構造だったり、食の文化だったり、被服だったり。デジタル、と呼ばれる文化に関しては魔法の存在する現代においても、重要な役割を担っている。
いや、むしろ。
魔素。
旧時代に想像されていた、魔法と呼ばれる自然を利用した超常現象は、やがて現実のものとなった。
発見されたのは、前暦2500年ほどのことだった。
大気中に含まれているそれは、元々は非常に微量だった。かつての超能力者や霊能力者と呼ばれる人間は、そのエネルギーに干渉できる極めて稀な存在だったと記録されている。
含有量が増加すると共に、後に魔素と呼ばれる未知のエネルギーに干渉できる人間も相対的に増えた。
干渉とはすなわち操作する足がけであり、人類の知的好奇心とはとかく恐ろしいもので。
発見から利用、利用から応用まで発展していく様子は日進月歩。あっという間に、空想の産物でしかなかった『魔法』は現実のものとなり、魔力を込めた道具が出来上がった。
「なんで魔法の専門家が、それよりも前の技術を扱えないのか、俺は不思議でならないんだが。魔法のほうが圧倒的に複雑だろ?」
「それはほら、結局のところ慣れよ。人類語の方が複雑なのに、ルカくんにとっては精霊語の方が難解でしょう? それと同じ。私たちは魔法との親和性が高いから、道具より魔法に頼って生きてきたもの。経験値が違うわ」
「確かに……」
魔素と調和し、エネルギーとして放出したものが魔法。魔素との親和性が高いほど、扱えるエネルギーはより複雑に膨大になっていく。
火や水といった『属性』や、攻撃や付与といった『特性』に関しては、アカデミアで学ぶ基本的な知識だ。それらもまた、個々人で得手不得手が存在している。
要するに、どんな効果を秘めた魔素と調和できるかが鍵である。
「科学だの魔法だの、やたらとややこしくて疲れるな」
「あら、それを混ぜて発展させたのは人間族じゃない。どちらもそつなく扱えるって、他種族からしたら羨ましいものよ?」
「器用貧乏とも言うけどな。元来魔法が得意な精霊族だったり、人間には扱えない技術を持つ技巧族だったりには、それぞれの専門分野で遅れを取っている」
他にも、亜人間族や獣人族といった、10にも及ぶ知性の高い種族はどうやって誕生したのか。
世界が現環境で落ち着いて以降、未だに解明されていない謎であり、今でも多くの研究者が究明しようと奮闘している。
「神のみぞ知る、ね。元々は人間族だった存在から派生したのか、虚空から突如として生まれたのか。魔素が影響を及ぼした人間の変異体、って説が有力ではあるみたいだけれど……」
「信憑性にはいまいち欠けている。卵が先か鶏が先かってやつだ」
「因果性のジレンマね。もしかしたら、平行世界から来た存在や未来からタイムリープしてきた存在が永住した結果、なんてこともあるかもしれないわね?」
「そんな荒唐無稽な」
「あら、魔法なんて非科学的なエネルギーが成り立っている時点で、ありえないなんてありえないじゃないの。未発見のユニークスキルで、平行世界を越えたり時間軸を操ったり出来る人がいるかもしれないわ」
「ユニークスキルね……あれって要するに才能だろ?」
魔素をコントロールし、エネルギーに変えたものが魔法。
相対的に存在しているのがスキルで、それは個人が持っている技能の総称。その中でも珍しいものをユニークスキルと呼称している。
と、会話が一段落したタイミングで。
「おまたせしましたー! あ、ここは『いいんだよ、そんなに待ってないから』って言うとこですよルカ先輩!」
無駄に元気に、ティアが入室してくる。
「仮に言うとして、なんで先手打ったの? さてはどうせ言うわけないと。俺のポテンシャルをナメてるな?」
「え、もしかして言うつもりでしたか?」
「言うわけないだろ」
「やっぱり!!」
「本当、ふたりは仲良しねぇ」
矢継ぎ早にやり取りする二人を見て微笑むユン。
長寿のエルフは見た目以上に歳を重ねており、彼女からしてみれば二人とも赤子同然と言える存在なのだろうか。その笑みは母親のような包容感に満ち溢れていた。
「そりゃあもう。わたし達は生まれてこの方、ずっと相思相愛ですからね!」
「お前がまとわりついてから2年くらいしか経ってないんですけどねぇ!」
「ふふ……ほら、ふたり共。そろそろ行かないとじゃない?」
このままではティアラの暴走のおかげで収集がつかなくなりそうだったところを、ユンが促す。
「ん、そうだな。よっしゃ行ってくるとするか」
「ちゃんと武器持った? 回復薬は? ちゃんと水分補給するのよ?」
「母親か!」
ユンの過剰な心配に、持ち物を軽く見せて答える。
帯刀した黒刀。道具鞄には回復薬などの救急セットと、水。最低限ではあるが、身軽さも冒険者には必要な要素だ。
ルーカスに学び、ティアラもまた自身の武器を取り出して見せる。
「見てください! この指紋ひとつない見事な整備!!」
ドヤッと得意げな表情のティアラが持つのは【双円刃】と呼ばれる、二振りの特殊な形をした斬撃武器だ。輪っかのような形で、持ち手以外が刃で出来ていることが特徴としてあげられる。
両手に短めの剣を構える【双剣】と似た、手数で攻める戦闘スタイルを得意とする武器だが、そのリーチは双剣よりもずっと短く、扱いが非常に難しい。
その欠点を補うために、双円刃には魔力を流し込むことが出来る鉱石が使われている。
魔力で刃のリーチを補ったり、あるいは投擲してブーメランのような使い方を可能にしたややトリッキーな武器だ。
「いつ見てもお前のその武器、戦闘用ってより演劇用って感じだよなぁ」
「元々は演舞に使われている道具を参考にして、作ったらしいですからね」
「ティアちゃんの『双刃の踊り子』ってあだ名、それが由来なんでしょう?」
「や、ユンさん。その名前、結構恥ずかしいんですからね……?」
二振りの刃を操り、軽やかに舞い踊るような戦いの様を見た誰かが言い出したらしい。確かに、相手との交戦距離が極めて近く、そこで巻き起こるギリギリの回避と攻撃の応酬はさながらダンスを踊っているようで。
名付け親が誰かは知らないが、心からのグッジョブを贈りたいと思う。
実力のある者に、個人の特徴を掴んだあだ名がつくのは珍しくないが……本人曰く、いざ自分がつけられるとやや照れくさいらしい。
いつからか、二つ名クラスなんて分類で呼ばれるようになり、その特別感は年々増している。つまり、期待も大きいということだ。
「二つ名クラスがよくもまぁ引き抜きもされずに、こんな小規模ギルドに所属してるよな……」
「声はよくかけられますよ? すっごい広いギルドハウス、潤沢な資金や物資、最高級の装備や頼れる味方に加えて、多くの知識を有する補助職の方々……それら全てを蹴ってでも、このギルドに居続けている理由がルカ先輩ならおわかりでしょう!?」
「知らんわからん興味もない。さっさとクエスト受けに行くぞ」
「ちょっとぉ!? 先輩、そこは感動して涙を流すところですよ! ねぇ!!」
ぎゃあぎゃあと喚き散らすティアラを引っ張り、クエストを受注するためにギルド協会へ。
メモワールを後にする若い二人の後ろ姿を「もう付き合ったらいいのに」と母親のような目で見守るユンであった。