《終わりの始まり》
――――血に塗れた少女が、呆然と立ち尽くしていた。
千の落雷に打たれた痕のように、穿たれ焼け焦げた大地。複数の黒い塊が乱雑に転がっている。
家屋も木々も花も焼き尽くした炎が、くすぶりながら沈黙に向かっていた。
「もう、誰もいないや」
華奢な体躯には不釣り合いな巨大な剣を片手に佇む少女は、世界に取り残されたような儚さを醸し出す。
彼女は何を考え、何を見ているのだろうか。大量の血を浴び、身も心もボロボロに削れた様相で、彼女はどこを見据えているのだろうか。
やがて雨が降り始める。
灰を纏ったような黒い雨が、少女の涙を覆い隠す。
涙。
涙?
なぜ彼女は泣いているのだろう。
なぜ自分はこんなに痛いのだろう。
全身に走る痛みを自覚すると共に、情景がぼやけ始める。
ゆっくり、意識を失うように。
さよなら。
――――血に塗れた少年の、命が燃え尽きていた。
周囲は不快な異臭を発しながら焼け落ち、己の犯した業が複雑に絡み合っている。
やや細身だが力強さを感じさせる男性の遺体だけが、辛うじて原型を留めて残されていた。
天を仰いだ。どす黒い雲は、とっくに鮮やかな青を隠している。
彼は何を考えたのだろうか。大量の血を流し、悟ったような安らかな表情で、どこへ旅立とうとしているのか。
やがて雨が降る。
罪を被ったような黒い雨が、業を洗い流す。
涙。
涙?
どうして自分は、泣いているのだろう。
きっと彼が、痛みと痛みを感じて逝ったからだろう。
全身から抜ける力を自覚すると共に、感情が願望を浮き彫りにする。
こんな事実なんて、認めるものか。
こんな世界なんて、認めるものか。
ゆっくり、意識を失うように。
世界がぼやけ始める。
さよならは、言わない。