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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編】異世界でスローライフをしている奴を全力で殴りに行く話

作者: おっぱな

異世界転生。


 それは現世で不遇の死を迎えた者が神々の気まぐれで別の世界で第二の人生を送るというもの。


 異世界に送られた者は神々から寵愛を受け、常人では考えられないほどの力を与えられ新天地に降り立つ。


 希少なアイテムを保持していたり、ユニークスキルが備わっていたりと将来の展望も明るい。


 異世界転生者の殆どが勇者や英雄といった職種に就くのだが、最近は事情が変わってきたようだ。





 私は今、平時第三次元空間へいじだいさんじげんくうかんを統括する守護天使をしており、死者を異世界に送る仕事に就いている。





『羅盤と呼ばれる器具を用いて、死者の行き先を決めるだけの簡単な作業です』


 と求人誌に記載されていたにも関わらず、実際の業務は死者を異世界に送り、更にその死者が向こうの世界で目的を達成しているかを確認・指導するというのが本来の仕事だった。





 転生者の動向や働きぶりを天文界と呼ばれる世界を統括する部署に報告しなければならない重労働で天文界のネット掲示板に恨みつらみを書き込みたくなった。


 しかも、『羅盤と呼ばれる器具~』を使用する的な事が書かれていたにもかかわらず、実際にはそのような器具は全く使用しない。


 というよりも、羅盤なんて器具自体この仕事には存在しない器具であった。


「何故、嘘が載っていたのか?」と人事部に尋ねると「羅盤って言葉かっこよくない?」と言われ、「カッコいいです......」と長い物に巻かれる性格の私は大人の対応でその場を流した。





 死者が目的を達成していなければケツを叩いてやらなければいけないのだがその作業が一番大変だ。


 同じ仕事をしている先輩エリシアさんは困り顔で「昔は死者も率先して魔王を倒したり、国を統治してくれてたんだけどねぇ......」と最近の死者の怠慢さを嘆いていた。


 折角、最強クラスの力を与えているのにも関わらず異世界で農家をしていたり、平民として暮らす死者が多くなっているらしい。


 力があるにも関わらずどうして高みを目指さないのか?


 甚だ疑問である。





 今回、私は三ヶ月前に送り込んだ死者が目的を達成する気配もなく、異世界でスローライフを送っているという事を耳にしワザワザ下界に降り、死者と面談することにした。








「......で、貴様は一体、何をしているんだ?」





「え? 森で採れたハチミツをベースに特製ジャムを作っているのですが......」





「......ジャム」





「は、はい。あ、味見します?」





「......頂こう」





 手渡された木製スプーンに並々と注がれた茜色のジャム。


 ハチミツをベースに苺を入れているのか、口元にスプーンを近付けると芳醇な香りが鼻腔を潤す。


 宝石のようなジャムを口に含めると、頭の中に花畑が広がり、心臓が脈打ち、日頃の疲れが全身から抜ける感覚を得た。


 確か、このジャムを私に手渡した栗毛の少年には”ヒーラー適性SSS”というユニークスキルを付与していた気がする。


 この世界の最高ランクは確かSまででSランクを持つ者は世界にも数人しかいない。


 それを二つも上回るSSSはこの世界の神をも超える逸材になるはずだったのだが......。





「あ、あの......。お、お味は?」





「......味? 震える程美味い」





 そりゃ、美味いに決まっているでしょうが!!!


 ヒーラー適性SSSを持つ人間が作ったジャムだぞ!!!


 頬っぺたが落ちるどころか、爆発するくらいうめぇわ!





「よ、良かったー。この世界の人たちは涙を流すほどに美味しいって言ってくれるんですけど、神様のお口に合うか心配だったんですよー」





 少年は目を輝かせながら安堵に満ちた表情で、私を見ている。





「あのさ、その神様ってやつ止めてくれない? 私、バイトなんだけど」





「いえいえ! 僕にとっては神様です! だって、テテス様が転生させてくれなければ僕はただの死者だったんですから」





「......」





 少年は悲しそうな顔で遠目を見る。


 異世界転生の対象となる死者には条件があるのだ。





 それは前の世界で不遇だったということ。





 人の為に自らの命を投げ出したり、重度の障害を持ちベッドから起き上がる事も出来ずに寿命を迎えた等。


 まぁ、はたから見て「こいつ可哀想だな」と思う者が異世界転生者として選ばれる訳だ。





 この少年は確か、病気で余命一年を宣告された幼馴染に臓器移植をし、退院した直後に道路に飛び出した小学生を助けようとしてトラックに轢かれたという感動系小説の主人公みたいな奴。


 そういや、良い人過ぎて「こいつキモくね?」と天文界で異端児扱いされていた。


 私も、聖人のようなこいつが気持ち悪くて面接もほどほどに異世界に送り込んだのを思い出した。





「テテス様から頂いた力も素晴らしいです! この力があればみんなを幸せに出来る......!」





「お、おう......。そうかい」





 早く、この頭お花畑少年を異世界に送り込みたかったから適当に与えた力なんだけどなぁ......。


 この喜びっぷりを見たら言えなくなってきた。





「あの、それで、神様は何か用があってこの世界に来たのですか?」





「う、うん。そうだよ」





 私は覇気の無い声で答える。





「へぇ! 何をしに来たのですか?? あ、僕が手伝える事でしたら何なりとお申し付けください!」





 少年は嬉々とした表情で忠犬のように尻尾を振る。


 このように私を神と呼び、慕う少年の顔を見ると気が重い。


 しかし、やらなければ私が罰を受けるのだ......。





「......じゃあ、少年。とりあえず、そこに立て」





「は、はい!」





 少年は私の言いつけに従い、私が座っている椅子の前で直立。





「目を閉じ、口も閉じろ」





「え? あの何を......」





「つべこべ言うな! 男だろ!」





「は、はい!」





 少年は緊張した様子で背筋を伸ばし、私の言ったとおりに目と口を閉じる。


 何か期待しているのだろうか?


 少年の股間は微かに膨れていた。





 まぁ、天文界ではそうでもないが、人間からしてみれば私は絶世の美女に見える。


 その美女から目を閉じるように言われているのだ。


 少年が期待するのも無理はないか。


 だったら、僅かでもその期待に応えてやるのが神としての努め。





「は、はわっー! か、神様! どこを触っているのですか!?」





「太ももだけど」





 適度な弾力がある太ももに触れると少年の身体はビクビクと小刻みに震え、少年の息遣いは荒くなる。


 そして、太ももから少年の大事な所周辺まで手を滑らすと膨らみは更に大きなものとなる。





「そんなに私が欲しいのか?」





「や、その、か、神様とまさかそんな!」





「私は魅力的ではないと?」





「い、いえ! 滅相もございません! その、と、とても素敵です!」





「ふふふ。正直は良い事だ。褒美に貴様を快楽の向こう側に連れて行ってやろう」





「か、快楽のむ、向こう側!?」





 少年は赤面し、汚い笑顔で私を見る。


 少年と目があった瞬間、私は宣言通り、少年を快楽の向こう側へと連れて行った。





「______ごふっ! か、神様......」





 股間を蹴り上げると白目を剥きながら卒倒する少年。


 何を期待していたのか、少年は「......神様どうして」と小言を言いながら、痛みに耐えている。


 それを見た私は身体の芯からゾクゾクと込み上げるものがあり、地面を踏みならすように転がる少年の脇腹を二度三度踏みつけ。





「おい。何故、与えられた使命を全うしない? 貴様の使命は優雅にジャムを作る事か? ん?」





「い、いえ......。この世界を混沌に誘う魔王をとうば______ぐはっ!」





 私が再び、少年を踏みつけると少年はいい声で鳴く。





「分かっているではないか。では、何故、ジャムなんか作っている? 魔王を倒す為に必要か? 魔王は苺ジャムが苦手か? 食ったら死ぬか?」





「そ、その......。僕は以前から異世界でのんびり過ごす事に憧れていて......。魔王を倒しに行く前にそれを堪能して.......」





「い~世界でのんびりすご~す!? 甘ったれるなよ! クソが! 剣と魔法の世界なんだよ! もっと、富と名声と肉欲にまみれろよ! マヨネーズとかジャム作ってドヤ顔かましてんじゃねぇよ!」





「ひ、ひいっ!」





「あ......」





 あぁ、また、私はやってしまった。


 本当は殴りたくないのに、自分を抑えきれなかった。





 怯えきった少年を横目に私は家を飛び出し、泣きながら田園が広がるあぜ道を走り、帰路に着いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] この転生者はこの世界で魔王を倒さないといけないと理解して転生したのですよね? あなたがジャムを作ったりまったりスローライフを楽しんでいる間にこの世界の人間が死んでいっている。 この世界の人間…
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