50年前のペンダント
「ペンダントですか?」
「50年前に落としちまった。見つけられるかい?」
「なぜ今更?」
「そのペンダントは旦那が50年前にくれたのさ。もっともすぐに落としちまったけど。旦那は安物だからと笑ってたけど……旦那が一週間前に死んじまったから、いまさら気になってね」
お婆ちゃんのしわが少し深くなる。
「あなたのお名前は?」
「メアリーだよ。そういえば、名乗ってなかったね」
「メアリーさんですね。僕の名前はセリムです。よろしくお願いします」
「礼儀正しいね」
お婆ちゃんからとげとげしい雰囲気が無くなる。
「さっそくですけど、どんなペンダントですか?」
「覚えてないんだよ。何せ50年前だからね」
「覚えてないんですか……」
「でも見れば必ず思い出せるよ!」
凄い希薄だが、むちゃくちゃなお願いだ。
「分かりました」
とにかく千里眼を発動してみる。
頭に思い浮かんだのは、ここから百キロ南の海岸だった。
「海岸にあります」
「海岸だって?」
驚かれるが僕だって驚いている。
「何がきっかけで落としたんですか?」
「確か、ダンジョンでモンスターに奇襲を受けたんだよ……その時落としたんだと思うよ?」
「ダンジョンで落としたのに海岸に?」
「わたしに驚かれても困るよ? そっちが言い出したんだから」
そりゃそうだ。
「とにかく、海岸に行ってみる価値はあると思います」
「ふ~ん。奇妙な話だけど、グダグダしてても仕方ないね」
メアリーさんは立ち上がると、僕の松葉杖を手に取る。
「一緒に来とくれ」
「一緒に?」
「どこにあるのか案内してくれなきゃ」
その通りと言えばその通りかもしれないが……。
「地図を書きます」
「わたしゃ目が悪いんだ。一緒に来るんだよ」
何を言っても聞かないな。
「分かりました。ただ、僕は身体が弱い。歩くとなると相当な足手まといになります」
「馬を走らせればすぐに着くよ」
強引な人だ。多めに依頼料をもらわないと割に合わない。
「分かりました。同行します」
「すぐに支度しな」
メアリーさんは言うと一目散に外へ出る。
「何なんだかな……」
立ち上がると眩暈でクラクラする。
「あの人はああいう人だ。諦めてくれ」
様子を見ていたダリウスが、なぜかメアリーさんに代わって謝る。
「あの人は冒険者の中でも伝説の人なの。悪いけど、付き合ってあげて。多めに報酬渡すから」
ギルド長のビルマまで謝る。
冷静で冷徹なビルマが謝るということは、メアリーさんは相当な発言力を持っているということだ。
これは、チャンスかもしれない。
しっかりと仕事をこなせば、評判があがって、さらに金儲けができる。
「分かりました」
内心ほくそ笑む。表情はやれやれとため息を吐く。
「早くしな!」
メアリーさんの大声が冒険者ギルドに響く。
「はいはい分かりましたよ!」
腹の底から怒鳴ると、立ち眩みがした。
「が、頑張ってくれ」
僕はダリウスの手を借りて、冒険者ギルドを出た。
「やっと来たね」
外ではメアリーさんが馬に乗って待っていた。
「メアリーさんが馬を走らせるんですか?」
「年寄りだって馬鹿にしちゃいけないよ? わたしゃそこら辺の若造よりよっぽど強いからね」
パワフルなお婆ちゃんだ。
「覚悟しますよ」
よっこらしょっとメアリーさんの後ろに乗る。
「つかまりな」
メアリーさんがバシンと鞭を叩くと、馬は雄たけびを上げて走り出した。