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旅立ち

ホリステラ国家の小さな村の小さな民家で大きな音が鳴り響く


「クソガキが」

家に、父親の叫び声が響く


いつも通り、父親の母親に対する暴力止めると

酒瓶を投げつけられる


いつものことだ


父親は、殴り続け飽きたら自分の部屋へと戻る


いつものことだ


「母さん、大丈夫?」

「ありがとうね。いつも私のために、でもあなたが傷付く姿なんか見たくないわ。()めなくていいのよ」


いつもの言葉


「私は、不甲斐ない母さんね」


いつもと同じ言葉が、母さんから発せられる


「いいや、僕が弱いのが悪いんだよ」


「いいえ、違うわ。悪いのはお父さんよ。昔は優しくて、誇り高い騎士様だったのに、なんでこんなことに」


全部いつもと同じ


泣きじゃくる母親を見ていると自分の目から涙がこみあげてくる


「僕、強くなるよ。お金さえあれば、父さんだって昔みたいになるはずだよ」


いつもとは違い僕は勇気をだし、母さんに宣誓する


「いいえ。母さんは、あなたはそのままでいてほしいわ。」


「いつまでも変わらないのなんて耐えられないよ。修行してくる。夕飯には間に合うと思うよ」


「・・・その変化が絶望を生むのよ」


その母親のかすむような言葉は僕に届かず

止まることを知らない僕は、風に押され進む


今なら何でもできそうな、気分だった・・・・・

自分は、いつもと違う変化に舞い上がっていた、それによって幸せになれるような


強くなる方法を唯一この村で知る、門番のおじさんのもとに行き強くなる方法を聞く


「おじさん。強くなるにはどうしたらいい?」

「どうした?急に。強くなりたいって」


おじさんが急な発言に戸惑う

僕はお構いなしにおじさんに質問する


「昔は、どんな修業した?」

「んー、昔は、山越えとかしたが」


僕の耳に聞き覚えのない単語が通る


「山越え?」

「ああ、山を走って頂上まで行ってそのまま下山するんだ。一番つらいのは止まらずに走り続けなきゃいけなくてな。おじさんは、昔なそれがきつすぎて・・・ってあれ?どこいった?」


門番の前には、すでに僕はいなかった

なぜなら僕は、山越えを実践しようとしていたからだ


舞い上がり、実践し

いつもとは違うこの時を楽しんでいたのかもしれない


「待っててね、母さん。強くなって見せる」


山守の魔物に挨拶して、登山許可をもらい

僕は走り続けた、見えぬ山頂を向けて


後先考えず、走った


すると最初は、喉に異変を感じ始めた


息の仕方を忘れはじめ、体が重くなる

足を動かすことに集中して、止まってはいけないと本能的に悟る


走り続けて、30分が経過していた


走り続ける途中、初めて弱音を吐いてしまった


「はぁはぁ、気持ち悪い。でもあと少し」


弱音を吐いてしまったことで体が一段と重くなってしまった


一刻も早く休みたい


「諦めちゃだめだ。もっと強く、母さんを守らなきゃ」


そして、遂に頂上を走り抜ける。

精霊が楽しそうに踊っているのを目にした


「綺麗だな」


その時、僕は止まってしまっていたことに気づくと足から崩れ落ちた


「だめだ。動け足、下りが待ってる。止まっちゃダメなんだ・・・」


体を引きずり、村へと戻ろうとする

僕の体は、限界に耐え切れず深い眠りへと・・・いざなった


僕は強くなるんだ

真っ暗なひとりきりの僕の前に、昔の出来事が映し出される


「父さん、僕、強くなりたい」

「ははは、じゃあ父さんに相撲で勝ってみるんだな」


昔の父さん。


楽しそうに相撲やってる。


・・・いいなぁ。楽しそう


ふと目が覚めると、辺りは真っ暗だった


「なんで今更、昔のことなんか」

僕の胸に、喪失感という名の化け物が襲い掛かる


「父さん、帰ってきてよ。僕は、父さんと母さんと一緒に暮らしたいだけなのに。なんでどっか行っちゃったんだよ」


誰もいない向かいの山に叫びだし、目から光るものを落とした


それを拭き、倒れた近くにあった木に、もたれかかる


「寒い」

山は、気温が低い。僕の場合、汗をかいているから当然だ

・・・いやそれだけじゃないよな


腰を持ち上げ、揺らめく木を見つめる


「絶対、父さんを取り戻してやる」


するとその木は笑うように大きく揺れだした


「帰らなきゃ」


と腰を持ち上げると

いつもより体が軽いことを感じる


「修行の成果が出てる。これを毎日続けたらすぐに強くなれる」


いつもより速いスピードが出ていることに興奮している


すぐに、村へと続く道が見えた


村へと駆け出したとき、僕の目にはあざ笑うかのように燃えている自らの生まれ育った村があった


「は?」


その火は、言葉を失ってしまうほどに煌めき眩しかった

その煌めきは僕の脳裏に深く焼き付き、僕に抱きついた


手を伸ばしても届きはしない

それに気づいた僕は、震える体を動かした


「母さん!」


僕は、村へと走り出した


人の焼けるにおい、あちこちに響く気持ちの悪い音


門番のおじさんが倒れていた

「おじさん、何があったの?」

「山賊がやってきて、それで・・・こんなことになるんだったら、もっとちゃんと修行してればよかった」


と言って門番のおじさんは動かなくなってしまった

おじさんをおいて、母さんのもとへ向かう


「母さん。母さん。」


僕は、家族のもとへと走り出す


家は崩れ、焼かれていた。


瓦礫を押しのけるとそこには母さんが腹から血を出して倒れていた


「母さん!」

「・・・あなたは?」


そのかすかな言葉からは希望が生み出される

目からも耳からも血を出し、僕のことが認識できない


「僕だよ母さん」


「私の息子に伝えてほしいことがあるの。あなたは決して弱くはないわ。とっても強い。私の自慢の最強の我が子よって・・・」

「母さん。母さん」


母親が辛そうに体を持ち上げ、僕の頬に手を添える


「この先どんなことがあっても、あなたはあなたのままでいてね」


「母さん。どうしたの?動いてよ。起きて。起きてよ母さん」


無慈悲にも僕の生まれ育った家は、崩れ落ちた




お腹がすいた

無慈悲にも夜明けがまた訪れる


炎ですべてが燃えた


投げ出すものも逃げ出すものもなく

帰るところもない


「何にもできないってこんなにつらいんだな」


村に手を合わせる


背を向けたくない

だけど、目を背けたい


王都に行こう

それで、冒険者にでもなって、この村にでも家を建ててできれば、冒険者仲間とでもいっしょに暮らそう


ひっそりと暮らそう


「前を向こうって時に、なんで涙が出てくるかなぁ」


キラキラと流れる涙を憎みながら

武器庫に一つだけ残っていた、鎌を取り出し

前へと進む


風が僕の背中を押してくれた

まるで、村のみんなに送ってもらっているような温かい風だった


「行ってきます」

と一言残し

僕は、涙を振り切り王都へと走った



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