表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

脚本「祭りの前に」

作者: 夏目歩知

   登場人物


若田夏子(27)新聞記者

小田切昇平(45)その上司

若田三郎(55)夏子の父・うなぎ屋



○球場(夜)

   プロ野球「魔人対阪仏」の試合。

   観客席に若田夏子(27)がメガホンを持っている。

夏子「ホラ、かっとばせー山本!ピッチャー

びびってんぞー」

  ピッチャーが投げる、バッターが打つ。

夏子「いった!」

   ボールが高く上がって、ライトスタンドに入る。

夏子「いやったー」

   夏子、メガホンを上に投げる。

   メガホンが剥げオヤジの頭に当たる。

   逃げる夏子。


○ゴールデンカレー・外観(夜)


○同・店内(夜)

   男性客しかいないガッツリ系の店。

   夏子が入ってきて、

夏子「カツカレー大盛りで」

   夏子、空いている席に座る。

   と、夏子のケータイが振動する。

   出るか出ないか迷う夏子。

店員「へい、大盛りおまち」

   夏子の前にカレーライスが出てくる。

   ケータイをしまい、カレーを食べ出す夏子。


○読買新聞・オフィス(日替わり)

   雑然としたオフィス。時計は午後2時を指している。電話が鳴っている。

   夏子がきて、電話を取る。

夏子「はい、読買新聞です」

小田切の声「若田か?電話にでろいうてるや

ろ?」

夏子「出てますけど」

小田切の声「アホ、ケータイの方や、いっつ

 もゆうてるやろ」

夏子「ご用件はなんですか?」

小田切の声「俺の話をきけ!」

夏子「だから聞いてますって」

   と、夏子のケータイが振動する。

夏子「あ、電話なんで切りますね」

小田切の声「なんやと?」

   受話器を置く夏子。

   ケータイに出る。

夏子「あ、おじさん?うん、うん、今日よろしくね。はい、じゃああとでー。はーい」

   ケータイを切る夏子。

夏子「はー、いきたくねえ」

   夏子、ためいき。


○浅草・全景

   浅草寺、仲見世通りなど、活気に満ちている。


○うなぎ屋・前

   若田三郎(55)が水を撒いている。

   夏子がきて、

夏子「よう、父ちゃん」

   若田は手を止めて、

若田「なんだ、夏子か。仕事はどうした?ま

たさぼってんのか?」

夏子「人聞きの悪いこと言わないでよ。取材だよ、取材。町会長さんとこ」

若田「取材?へー、おまえもやっと記者っぽくなってきたな。で、なんの取材だ?」

   夏子、ため息をついて、

夏子「祭りだよ」

若田「おお、祭りか、そりゃ楽しそうだ」

夏子「楽しくねえよ。ほんとはさ、もっとでかい事件とか扱いたいんだけどねー。地味な生活面じゃなくてさ、一面トップとか政治面とか国際面とかさー」

若田「贅沢言うんじゃねえよ。読買新聞に入れてもらえただけでもありがてえことだぞ」

夏子「そうかなあ」

   夏子、頭をかく。

若田「じゃ、仕込みがあるから。取材しっかりな」

夏子「へいへい」


○おもちゃ駄菓子屋・外観


○同・中

   狭い店内。おもちゃと駄菓子が雑然とおかれている。

   夏子が入ってくる。

   手にはイモ羊羹の袋を下げている。

夏子「こんにちはー」

   店内をキョロキョロ見る夏子。

   プロ野球カードに目が止まる。

   カードを手にして微笑む夏子。

夏子「(中に向かって)おじさーん!」

   店と居間の間のガラス戸が少し開いている。

   ガラス戸に首を突っ込む夏子。

   居間に60代男性が倒れている。

夏子「おじさん!」

   夏子、袋を落とす。

   夏子、男性の周りをジロジロ見る。

   ちゃぶ台に湯呑が2つ。

   ライターが1つ。

夏子「おじさん!」

   男性は動かない。

   ケータイを取り出し、119番通報する夏子。

夏子「救急車、おねがいします!」


○うなぎ屋・店内

   カウンターに若田、客席に夏子。

若田「とんだ取材になっちまったなあ」

夏子「まさか、おじさんが……」

若田「年が年だからなあ」

夏子「でも、おかしいんだよ。誰かと会って

たみたいなの」

若田「誰かと会ってた?」

夏子「うん。お客さんが来てたみたいだった。それにね、おじさんタバコ吸わないのにライターがあった」

若田「ライター」

夏子「おじさん、最近、誰かに恨まれるようなことなかった?」

若田「恨まれるようなこと?さあ……」

夏子「父ちゃんは、最後に会ったのいつ?」

若田「まさか、俺を疑ってんのか?」

夏子「そうじゃなくて、最近のおじさんの様子が知りたいの」

若田「最近ねえ……おかみさんに先立たれて、一人暮らしが寂しいっていってたけどなあ。女はいねえみてえだったし……」

夏子「おともだちは?」

若田「知り合いは多いんじゃねえか。会長さんだし、祭りの実行委員だしな」

夏子「あー、祭り!取材どうしよう?」

   若田は自分を指さし、

若田「俺でよければ、取材受けるぜ」


○読買新聞・オフィス

   小田切昇平(45)が法被を着てデスクに座っている。

   夏子が入ってきて、

夏子「キャップ、今度の殺人事件、私にやら

せてください」

小田切「アホカ!やらせるわけないやろ?お

前は生活面担当や、祭りの記事を書け、祭りを」

夏子「ですが、私なら被害者とも知り合いですし、事件の第一発見者です。絶対いい記事が書けると思うんです」

小田切「ちょ、ちょ、ちょっとまて。まだ殺人事件とは決まってないやろが」

夏子「あれは絶対事件です。これは記者の勘です」

   小田切爆笑して、

小田切「ええかげんにせえよ。人生相談担当からお前をひぱってやったんは、生活者の目線に立てる記者に育てるためや。そんな刑事みたいな仕事せんでもええ。大人しく祭りの記事をビシッとかかんかい」

夏子「書きます。祭りの記事は記事でちゃんと書きます。ただ、事件の記事も書きたいんです」

小田切「ゆるさへん。そんな、どっちも、なんて中途半端な記事、読者が喜ぶと思うか?事件の記事なんか書いたらクビや」

夏子「とにかく取材は続けます」

   夏子、鞄を持って出ていく。

   と、小田切のデスクの上に野球カードがあるのを見る。


○うなぎ屋・店内(夜)

   カウンターに若田がいる。

   客席に夏子が座る。

夏子「おじさんち、確かこどもいたよね?」

若田「息子がいるよ。でも関西で働いてるっ

ていってた。もう20年くらい会ってない

って」

夏子「関西で働いてる……」

若田「新聞記者だって」

夏子「新聞記者?」

若田「けんかして出て行ったらしいよ」

夏子「なんでけんかしたの?」

若田「芦屋の金持ちのお嬢さんと結婚して、

婿養子になるっていわれて反対したらし

い。そういえば、昨日見かけたって人が……」

   夏子、店を飛び出す。


○読買新聞・オフィス(夜)

   小田切がタバコを吸っている。

   夏子が走ってきて、

夏子「キャップ!今日の午後2時ごろ、浅草

にいましたよね?」

   小田切が振りかえり、

小田切「せやから俺の話をきけ、いうとるや

ろ!」

   夏子と小田切にらみあう。



<完>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ