末席神の東方奇譚
末席の破壊神の番外編で、女神メディアが異世界へ召喚される前の話になります。
日本の神社でまったりと暮らす2柱のお話です。
これは、天界で居場所のない神が日本の神社で居候する物語である。
『あー今日は冷えるわー』
巫女服のまま神火にて暖をとる。
ここ、東方の島国では四季と言うものがあって、冬と言う奴は気温が一桁前半から零下に落ち込む。
その癖、夏になると40度にも達する場所がある、寒暖差の激しい忍耐の試される地である。
『よく人間は耐性持ちでもないのに耐えられるの』
紹介が遅れたの、儂の名は『メディア』、碌に神力も使えずギリギリで神様やってたのじゃが
5000年ほど前の、大洪水を止められなかった呵責により、人間の繁栄に手を貸し世界中を回っていた。
西洋で500年位前に、東方見聞録を見て黄金の国に興味を抱きやって来たのじゃ。
そこで、この島国の六瓢神と出会い神佑地にある神社に居候する事に…
『はー温くといのー』
火に向かい手を擦り会わせていると背中を蹴られる
『うぁ熱ちゃー』思いっきり神火に突っ込む
「そこは暖を取るところじゃないわ」
『六瓢!蹴る前に言わんか!』
裾についた火を、パンパン叩きながら慌てて消す。
「言っても解らないと思って、それにアンタ火耐性あるでしょ」
『儂自身は燃えなくも巫女服は燃えるんじゃー』
「アンタ、巫女萌えなの?」
『違うわ!服が燃えるって…もうええわ…どうせ服フェチなの?とか言うんじゃろ』
『あーもう裾焦げたし、此れから参拝客来るのにどうすんじゃ…』
「大丈夫よ、社務所で座っておみくじや御守り売ってれば、裾は見えないから」
『…代わりの服用意してくれんのか?』
「あのね、絶叫マシーンにも背丈制限で乗れないアンタの超極小サイズの巫女服がそう沢山有るわけないでしょ」
『じゃあ何で神火の中に蹴り入れんのじゃ!』
「そこに背中があったからよ!!」
逆ギレか!?
そこに山があるから登るみたいな登山家感覚なキレ方されても困るし
「お早う御座います。御二人とも早いですね」
巫女バイトの田村綾乃ちゃん(16)である。
「おはよ、朝早くから悪いわね」
『まあ儂等は朝早いと言うよりずっと起きてるからの』
「徹夜なの?大丈夫?眠くない?」
そう言いながら頭を撫でてくる。
なんで儂だけ子供扱いされてるんじゃ…
「はいはい、じゃあ社務所あけるわよ」
正月三が日も過ぎた為だいぶ参拝客は落ち着いて着ているが、まだまだ人通りは途切れずにやってくる。
『仕事が上手くいきますように…』
『○○高校へ合格できますように…』
『彼と結婚できますように…』
社務所で御守り売っていると参拝客の願いが頭の中に届いてくる。
『なあ、六瓢よ…これ御主の神社よの?何で儂にまで願いが届くのじゃ?』
「さあ、アンタ500年も居候してるから此処の神の一柱って事なんじゃないの?」
『嘘じゃ、去年は聴こえなかったし、御主勝手に回線繋いだじゃろ』
なんの事かしら~
すっとぼけおって…
そんなやり取りをしていると、気になる願いが頭に飛び込んでくる
『行方不明の孫娘が帰って来ますように…』
余程願いが強いのか、その娘の事も色々頭に入ってくる。
どうやら、隣町のF山にある廃寺に遊びに行ったきり帰らないと言うことらしい。
『なあ、F山って御主の神佑地の中じゃよな』
「ええ」
六瓢は、なにか考え事をしているのか、それっきり黙ってしまう。
綾乃ちゃんは夕方の日のある内には帰ってもらう。
女子高生を夜歩きさせられぬしの
やがて、夜の帳が降りて社務所を閉め
焦げた巫女服からトレードマークの黒いゴシックドレスに着替える
昔、西洋で買ったお気に入りである。
仕事の疲れを癒すプリン(スーパーで3個入り)を食べようとしていると
六瓢が部屋にやってくる
「ちょっと付き合って…」
『え?最初は友達から…ってスルーか!』
仕方ない、居候の身じゃからの
儂のボケを無視しそのまま行ってしまう六瓢を追う
2柱共に無言のまま歩く事2時間
『なあ、ここって…』
「そうよ、例の廃寺」
それだけ言うと参道の石段を上がっていってしまう
『すっごい妖気じゃのう』
直ぐ様後を追い六瓢と並んで石段を上がっていく
廃寺の境内に着くと2階の屋根にも届くほどの巨大な猿の化物が10才ぐらいの少女にお酒の酌をさせていた。
どうやら、ここ境内があの猿の結界で覆われていて、少女はソコから出られず囚われの身であるようだ。
『あれかの?』
「よくも私の神佑地を汚してくれたわね」
ご立腹である。
此方の姿を見て敵と認識したのか、咆哮をあげ威嚇してくる大猿。
六瓢も負けずに、持ってきていた長い筒から御神刀を出す。
設計士が設計図を入れるような筒持ってると思ったら中身刀だったとは…
その刀を儂に投げて寄越す。
『御主がやるんじゃないのか!?』
「私はね、無病息災の神で戦うのは専門外なの」
だからアンタを連れてきたんでしょと開き直るし。
突進してくる猿に2柱共に飛び退いて避ける。
結構早いし。
六瓢は少女を庇うように立つ。
そっちは任せるとするか…
何度も大猿の拳をかわした為、当たらないのに苛ついて瓦礫を投げ始める。
ノーコンな猿め。
それも避け続けると、余程頭にきたらしく廃寺の釣鐘を投げようとしていた。
隙だらけの大モーションの投擲。
その飛んで来る釣鐘を掻い潜りながら懐に入り鞘走りさせながら高速で刀を抜き放つ。
一閃
『我流、一文字』
化け猿は腰の位置で真っ二つになる。
『成敗!』
最近テレビでハマった時代劇の真似をする。
「はいはい、少女を送って帰るわよ」
化け猿と共に結界も妖気も消えて夜の静寂さが戻る。
少女を背負うと階段を降りていってしまう六瓢
『おい六瓢、この刀の入れ物は何処じゃ、このまま持ってたら職務質問で捕まるではないか』
落ちてる入れ物を見つけ六瓢の後を追う。
少女の家のだいたいの場所は、願いと一緒に頭に入ってきたんで解って居た。
少女を、家の玄関脇の壁に寄り掛かるように寝かせ、チャイムを鳴らす。
そのまま出てくる家人を待たずに、そっと立ち去る。
「願いは成就されたわ」
『御主良いところがあるではないか』
「当たり前よ、此処は私達の神佑地よ、願いを叶えて当然じゃない」
いつの間にか儂も巻き込まれおるし、この友神には敵わんの。
『でもまあ…たまには良いかの』
冬の寒空の下、2柱は神社へ帰るのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。