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天の箱庭  作者: ゆゆ
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はじめましてのお話

この狸さんバグった?



「この狸さんバグった?」


「残念ながら正常です」



つい思ったことをそのまま口にしてしまった。条件反射で喋ってると喧嘩売ってるの?とよく怒られるので普段は気を付けてるのに……



「では、いってらっしゃい」



え、それ以外の説明なし?そんな声を掛ける間もなく視界が光に包まれ、見えるようになった時には別の場所にいた。ユーザーフレンドリーの精神が大切なんですよ運営さん、なんて考えたけどここの運営は神様だったわ。超常的な存在に人の精神を説いても仕方ないよね、うん。



「何だこれは、どうなってるんだ!?」



自分より取り乱してる存在が目の前にいると落ち着くというのは本当らしい。ポメラニアンに見える犬がひたすら現状への不理解を言葉にしていた。

周りを見渡す、森の集会場というような木に囲まれた場所に先程の犬、熊、兎、サイズがおかしい蜥蜴が鎮座していた。視線を下げると黒い毛並みの体が目に入ることから私も何かしらの動物になっている。つまり彼らが同じ境遇の者であり情報交換の相手という事なのかな?



「あのー、とりあえず自己紹介しませんかー」



兎から声が上がる。少し間延びした可愛らしい声で聞いてて和む。犬も大人しくなっていた。でも本人の声そのままなのかは不明だが喋ると声で性別が判断できてしまうのはいかがなものか。



「まずわたしからー、名前は――」

「待った!」



反応のない周りを見かねてか自己紹介を進める兎に蜥蜴が待ったをかける。思考にふけってる場合じゃなかった、今のは私も止めなくちゃいけないところだった。



「自己紹介で名前を出すのは無しですね、自己紹介は私から種族は獣人系統で開始場所が森で1日彷徨ってたので戦闘に関する情報はそれなりに出せます。街の様子や文化なんかを知れると嬉しいかな。呼び方はアバターの見た目でいいですよね?熊さん、兎さん、蜥蜴さん、犬さんとお呼びしますね。あと私の見た目が何かを教えて貰えると嬉しいな」



蜥蜴がかなり強い口調で遮ったので場の空気を流すために畳みかけて喋る。経験上この手の会合は硬過ぎても緩過ぎてもいけない。できれば進行役になって円滑に欲しい情報を入手したいところだけど強引に進めても反感を買うし難しいかな。とりあえず隣の熊に自己紹介を促して流れを作って様子みる。



「あー、俺熊の見た目なのか。種族は人族で村といった規模の集落でスタートしたけど正直混乱してて無駄に1日過ごしたから有益な情報を出せる自信はない。んで、あんたは……狸?にみえるよ」



ふむ、ここでの外見と種族に特に関連性は無いのかな?私も結局のところ流されて1日過ごしただけだからそんな気落ちした態度をとる必要はないぞ。そして私は狸なのか……



「わたしも獣人で開始場所は1日で回れるくらいの孤島でしたー。とりあえずレベリングしてたので戦闘以外の情報は出せないかもです。あとアライグマかなと思ってたんですけど狸さんなんですかね?」



声との印象とは裏腹に兎は切り替えが早く思い切りのいい性格のようだ。とりあえずで探索してレベリングしようと思えるのはなかなかに神経図太いと思うよ?あと狸とアライグマを見分けるのは難しいし狸でいいよ。



「僕は魔物種族で開始時に同族に保護されてその集落にいる。種族特性かもしれないが戦闘以外の方法でレベルを上げる手段と10を超えたときに起きる変化について情報提供できる。この世界での人外種族に対する見識を提供して貰えると有難い」



蜥蜴はモンスタープレイの変わり種なのか。スキルレベルなんかは使い込みっぽかったけど種族レベルも戦闘以外で安全に上げられるならそれに越したことはないね。少なくとも私より高レベルであるなら効率も期待できるわけで……でもモンスター死すべしな世界だったら死活問題だね、可哀そうに。



「人族でそれなりに発展してそうな街で開始。熊と同じく無為に1日過ごしたのでたいした情報は出せん。元の世界に帰るための情報が欲しい」



犬は一人喚き散らしてたのが恥ずかしいのか言葉少なめ。だけど目的がはっきりわかる要求はこういう場においては好ましい。話し合いの邪魔になりそうだなと最初に思ってたのを心の中で謝罪しておく。



「自己紹介も終わったところで話し合いを進めていきたいんだけど効率よく進めるために進行役やらせてもらってもいい?やりたい人がいるなら任せるけど……」



色々考えたけど変な駆け引きなんて私には無理だし時間の無駄なのでダメ元で素直に言ってみる。



「あのー、その前に名前を言っちゃいけない理由が知りたいです。迂闊に個人情報をしゃべっちゃいけないみたいな感じなんでしょうかー」


「名前を対象に発動する魔法とかあったら怖いですからね、昔の小説にあった名前を呼ばれたら吸い込まれちゃう瓢箪みたいな道具とかもあるかもしれませんし」



何となくで流さないでちゃんと自分の納得できる答えを求めるのは素晴らしいよ兎さん。会社の後輩も見習ってほしい、もう関係ないけどね。瓢箪の話は正確には名前関係なかった気がするけど一番有名なエピソードだしいいよね?『名前という概念』を攻撃することによって強さ関係なく倒される可能性があるとか言ってもピンとこないだろうし。



「それはこの中で敵対する可能性を考えているという事か?」


「それも無いとは言い切れませんがこの場にいる方は味方に近いものとして考えてます。有益な話し合いがしたいですからね。問題は敵対者に尋問されたり隷属状態になった際に不利益を与えない状態であることが望ましいと考えています、お互いに……ね?」



犬が尤もな疑問をぶつけてきたので予め用意していた答えを返す。可能性の話をし出すとキリがないけど自分の身を守れる最低限の戦力を確保してない状態で個人を特定できるような情報は出したくない。兎と犬がそれぞれ考え込んでるみたいだけど時間が惜しいし会議を主導したいのでちょっと強引に進めさせてもらう。



「とりあえず反対意見もないようなので進行役をやらせて貰いますね。議題としては順番に

 1、現状把握。この世界に来るまでの状況と来てから受けた説明に差異がないかの確認

 2、元の世界への帰還について。最終目標にする人しない人出てくるとは思いますがこの後を円滑に進めるために話しておきます。

 3、攻略について。戦闘だろうが街の様子だろうが現状あらゆる情報が不足しているので此処がメインになると思います。

 4、その他雑談など。この話し合いの制限時間が提示されてるわけじゃないので出来るかわかりませんが時間が余れば息抜きにおしゃべりでも出来たらいいですね」



議事まとめ用の黒板と書記役も欲しいけど悲しいかな今の我々は会話のみを許された畜生の身である。会話だけで相手の理解と納得を得るのはお互い難しいだろうなーなんて考えながら話を切り出す。



「それでは情報交換会を開始します」

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