第四話 お昼を一緒にどうですか
入学してから一週間経った。郷に入れば郷に従えとよく言うものだが未だに方言の規則性というのはよくわからない。ただ何を言っているかはわかるのでコミュニケーションを取る上では問題ないかな。
クラスは男女含めて38人だけどまだ全員とは話せていない。まずは席の近い人から段々と仲良くなっていきたい所なんだけどどうも鳥梅さんが距離を置こうとしているような気がするんだ。初対面の時の印象が良くなかったのかな。ドリアンを全身で受け止めたから服がボロボロだったし。こちらとしてはやっぱり入学前に知り合ったということもあるからぜひとも仲良くしたい。そしていつかはどうして学ランを着ているのかを聞きたいものだ。僕の股間が反応したということは女性だとは思うんだけど…
チンピカ病───女性と話すと股間が発光する奇病。散々悩まされてきたしこれからも付き合っていかなければいけない僕の個性。…まあ例外で僕のホルモンバランスが崩れた場合にも発光するけど鳥梅さんに対する輝きはそうではないだろう。初対面の時、第一印象は学ランを着た謎の美少女だった。この一週間の学校生活を通じて僕のこの輝きは女性に対しての輝きだと確信した。チンピカ病での発光量は一定ではない。つまりは僕の好むであればあるほど、美少女であればあるほど光は強くなるんだ。
───可愛いは暗闇を照らす光
僕の股間はどんな状況でも正直だ。こんなにも光り輝いているのだからまさか女装少年のわけがない。僕の股間に誓って彼女は女性だ。
可愛いから仲良くなりたいって訳ではない、僕は人を外見では判断しない。僕自身が外見で大きなバグを抱えているからこそ人を見た目で決めつけたくない。まずは隣の席から仲良くなりたいだけなんだ。…やっぱりエレベーター式にみんな一緒に学年が上がっているから仲良しグループが固定化しているからシキみたいに話しかけてくれる人もいるけど、どうも輪に入りずらいから一応顔見知りである鳥梅さんが安心するから仲良くなりたいってのが本音。
悶々としてこのことを考えているとお昼休みになっていた。この一週間は入学テストでまともな授業はなかったからテストが早く終わるとこのことしか考えていなかったな…テスト期間が終わってクラスの皆がガヤガヤしている。放課後遊ぶ約束をしているみたいだけどハム島って娯楽施設ってあったっけな。今日の授業は午前はテストで昼食を挟んで午後は役員決めをするみたいだ。白鷺先生って抜けている所あって大事なところを話さないことがあるんだよな。今回も何の役員は言っていなかったし。
さてここ一週間欠かさずやっていることをしよう───
「鳥梅さんよかったら一緒にお弁当食べない?」
僕は毎日鳥梅さんをご飯に誘っているのだ。そして必ず
「…」
無視されてしまう。今までの僕はここで自分の中で鳥梅さんが食べてくれない理由を考え納得していたが今日は違う、最後まで食い下がらないぞ。
「テスト大変だったね、数学とかしっちゃかめっちゃかだったよ。それからさ、国語も普段かけている漢字なのにテストのときだと急に出ないときとか───」
「うるさいうるさい!!さっきから無視しているのになんなんだわさ!!わっちはおみゃーとは話したくさいだわさ!」
苦節一週間、やっと口を開いてくれた。難攻不落の要塞だって完璧ではないわけで、最期は粘り勝ちってところかな。いや、返答の内容的には全く勝ったようすなんてないんだけどね。ただ、やっとこれでコミュニケーションをチャンスを得ることが出来た。若干耳を赤くしているのは僕が相当やかましかったから少し怒っているのだろう。次。次の一言が大切だぜ僕。ここが佳境。最善手を考えろ、彼女に何を言えばいいんだ。まずは謝罪からだろうな、それから誠心誠意一緒にごはんを食べたいことを伝えるんだ。花咲さんも誘って一緒にどう?これだ!これに決めた。
「あの、鳥梅さ──」
「むぅ!だからなんでおみゃーはそうやっていつもいつも…!」
はて…これは失敗したのか。いいや、まだ押しが足りないのだろうな。もうひと押しだ、まずは僕の考えを聞いてもらおう、話はそれからだ。
「うば───」
「わー!わー!わー!わー!あひるー!新顔がわっちのことをいじめるだわさ!」
おいおいおい、助けを求められてしまった。流石にしつこすぎたかな。顔まで真っ赤にしてたもんな、誠心誠意謝らないと。僕が鳥梅さんの行動にあっけにとられていると白鷺先生と話していた花咲さんがこっちに来た。エマージェンシーコールに呼ばれてきた。僕は悪役ではないと思うんだけどな。
「よしよし。とるぞう、何をされたんですか?」
「新顔が…わっちを…いじめるん…」
「そうなのですか?光輝くん」
「あらぬ誤解を与えてしまったようだけど僕はただお弁当に誘っただけなんだ。ただしつこすぎたと思う、本当にごめんなさい」
「だ、そうですよとるぞう。どうですか許してあげられますか?」
「むぅ…あひるが言うなら許してやらんこともないもん…」
「ではこれで仲直りですね!そうですね…私はお腹が空いてしまいました。どうでしょうか、二人とも一緒にお弁当を食べませんか?一緒に食べたほうが美味しいと思いますよ」
僕は生まれて初めて天使と遭遇した。鳥梅さんをあやして尚且つ僕が望んでいた一緒にお弁当の提案をしてくれるとは、なさってくれるとは!天使ではないな、神の使いではなく神様そのものではないだろうか。あーどうしようめちゃくちゃ嬉しい。この嬉しさをどうやって伝えればいいんだ、この幸せな気分をどう表現すればいいんだろう。口下手だからここぞってときに何も思いつかない。どうしても陳腐な言い方になってしまう。
「…とっても輝いているみたいですしいいってことですかね」
口下手だが光上手だったみたいだ。あまりの嬉しさにいつも以上に輝いてしまっている。これじゃ僕が浮かれているみたいじゃないか。もっとクールに冷静になろう。紳士らしくこのお誘いに乗るんだ。
「それは願ったり叶ったりだよ!ぜひ一緒に!」ピカピカピカピカ
点滅してしまっている。僕はウルトラマンか。
僕と鳥梅さんの机をくっつけてお弁当を食べることとなった。まさに僕がやりたかったことが出来てとても嬉しい。鳥梅さんは少しうつむいているが花咲さんとは話しているみたいだからそこまで気分を落としてはないみたいだ。
僕はコンビニお弁当、花咲さんは手作りのお弁当、鳥梅さんは授業の合間の短い休み時間で買ったであろう購買パン。学ランに焼きそばパンというのは合うがそこにワンクッション美少女置かれているとどうも絵として面白い。花咲さんはお弁当を自分で作っているそうだ。大量買いしたドリアンがまだ残っているそうでデザートとして貰った。よく考えたら初めて食べたけど流石果物の王様とても美味しい。
引っ越しをする前の話や来てからの話、ハム島のことなど取り留めのない会話をした後にふと気になっていることを聞いてみた。
「そういえば、午後の役員決めって何を決めるの?」
「主に学校の委員会ですね、この学校生徒は少ないのにとても大きいですから委員会もしっかりと決めて活動しているんですよ。中学生の時はとるぞうは風紀委員、私はクラス委員長をしていました。まあ活動量が多いだけでこれは光輝くんがいた学校と大差ないと思います。そしてその後には委員会とは別に一時的にこの時期だけ組織される団体に入る人を決めるんですよ」
「委員会とは別に?ああ、林間学校とかそういう催し関連かな?」
「そうですね、近いです。正確に言うとお祭りです。ハム島で毎年行われているお祭りの団体です」
「お祭り?」
そういえばスーパーで買物をする時とかにポスターが貼ってあったような気がする。詳しく見ていなかったけどその組織を学校からも出すのか。それほど密着型の伝統のある祭りなのだろうか。
「詳しくは優ちゃんが教えてくれると思いますよ」
そう言うと同時に予鈴が鳴った。楽しかったですまた明日も一緒に食べましょうと言って花咲さんは席に戻っていった。鳥梅さんはふくれっ面になってるけどこれはこれでかわいい。
ピカ
続く