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第二話ヒロイン

前立腺刺激ホルモン受容体刺激型自己抗体性光症(通称:チンピカ病 命名:幼稚園時の友達 山本くん)

 それが僕の持つおかしな病気の名前。発症者は極めて少なく、国内だと僕しかいない。だからまだ解明されてないことの方が多いんだけど直接的な害があるわけでもないし、感染性があるわけでもないから身体的な特徴として扱われてる。備考としてはホルモンによるものだから僕次第でたまに女性以外にも光を放つ。三徹後にとち狂った僕が話しかけたひょっとこのお面にも反応したのは今思い出してもショッキングだ。それはともかく普段は下着と服で隠してるからそんなに目立たないんだけど……


「ごめんね、こういう病気でさ。特に害があるわけでもないから緊張すると顔が赤くなる人と同じようなものだと思ってよ」


「そうなのですか。私こそごめんなさい!落としたドリアンのせいで……」


文字通り体を張って道に溢れるドリアンの氾濫を止めたわけだから、服に穴が空いてしまってそこから光が漏れたようだ。普通ならこの案件だけでイジメまで発展するのが昨今の学生事情だけどこの島に限ってはそうじゃない。


「服の代金を弁償させてください!」


普通ならそこじゃないだろって思うんだけど花咲さんのように各々の個性が強すぎるこのハム島ではいちいち股間が光る程度で騒がれたりしないのだ。島の外から来た転校生ということで目立つ可能性はあるけれど、子どもの頃の様に股間のことで弄られることはないだろう。むしろ個性の暴力でアイデンティティに殴りかかってくるようなクラスから目立つところが一切なくて浮くよりはマシかも知れない。なんなら「俺」なんて無理して中学の友達に合わせていた一人称すら使わなくてもよかったかな。


「気にしないでいいよ。さっきまで掃除と荷解きしてたから古いジャージで作業してたんだ。それよりそっちこそドリアンみたいな高級な果物を転がしてダメになってたりしてない?」


あまり日持ちがしなさそうなドリアンを大量に買ってどう扱うつもりだったのか、不思議に思いながら尋ねると花咲さんはハッとした顔で胸の前で手を合わせると


「そうでした!今日はご近所さんを集めての新学年を祝うドリアンパーティーでしたのに!大人しく迎えを待つべきでしたね。果肉が割れて見映えが悪くなってないといいのですけど」


見開いた目を徐々に潤ませ、落ち込んだ顔を見せた。コロコロと表情が変わって感受性豊かな彼女の性格が伺える。それにしてもどこから突っ込めばいいんだろうか。わざわざ割高な時期にドリアンをこんなにも買って近所の人も集めてのパーティーだなんてテロ以外のなにものでもない気がするんだけど。

結局僕がそうだね、なんて相変わらず適当な相槌を返しながら運ぶのを手伝うべきかと考えているとスーパーのある坂の上から花咲さんの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら迎えとやらが来たらしい。


「おーい!あひるー!大丈夫だわらー!?」


なんだその語尾。島に来てから聞いた言葉にやけに統一性がないとは思ってたけど大家さんの言ってた島の方言は個人によるフリースタイルってそういうことか。方言ってそういうものじゃないよね。


現れたのはまだ学校が始まっていないのに改造した学ランを身にまとい、ボサついた前髪から覗く鋭い眼光をこちらに向けた絵に描いたような不良だった。


「おみゃーは、あひるを誑かす新顔だわら!?」


いや、正確に言うのなら花咲さんを後ろに庇いながら僕にあらぬ疑いをかけてくるこの古いタイプの不良は──


「とるぞー!来てくれたのですね!流石にドリアンの山を1人で運ぶのは無理がありました。こちらは明日から同じ学校に通う一ノ瀬光輝くんですよ」


抱きつきながら、どこかずれたことを言う花咲さんの顎を頭上に乗せている身長150cmにも満たなさそうなこの不良?は────


「そげなこと聞いてなか!おぅ新顔!わっちは烏梅とるぞう!あちきの目が黒い内はあひるに手出しはさせんぜよ!」


─────花咲さんにいろんな意味で負けないほどめちゃくちゃな美少女?だった。


「そっかー……そう来たかー……うん!よろしくね、烏梅さん!」


そして僕は一度、考えることをやめた。


「は!?はぁあ!?何をいきなり言うがや!……そんな手で動揺させようとしてもダメなんだわらねっ!」


なんで烏梅さんがそんなに慌てているのか、よくわからないけど僕の股間はまた光った。長年付き合ってきたこのチンピカ病のことをショボいなって思ったのは初めてのことで、加えて僕は危機感を覚えた。

この調子だとクラスメイト全員の個性(と呼ぶのもおぞましい何か)がコレ以上にぶっ飛んでいる可能性がある。いつしか僕はチンピカ病に胡座をかいていたのかも知れない。取り敢えず股間光らせとけばキャラが立つとでも思っていたのだろうか……

少なくともこの島ではそんな悠長なことをしていたら高校生活が、残された青春の日々が霞のように不確かなものになってしまう。僕は悪目立ちはしたくないが人並みの学生生活を送れる程度には認識されていたいんだ。


……高校デビューだ!ただし取ってつけたようなキャラ設定を盛ったら自分の首を締めるだけだから変な口調で喋るんじゃなくて、自己紹介と普段の在り方で僕をみんなの中に刻んでやる。見てろよ、そこの謎に顔を赤らめてる二人、これからの高校生活よろしくお願いするよ……!


続く

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