第一話 一ノ瀬光輝
僕の名前は一ノ瀬光輝。数字の一に左払いで瀬が光り輝くと書いて一ノ瀬光輝。高貴な生まれではなくどちらかと言えば下流階級の家庭の長男を務めている。
第一志望であった東京の市立高校の受験前に事故に遭い滑り止めを含めてすべての高校に落ち、親のコネをフル活用して九州の小さな離島の高校への入学を勝ち取った。この場合は勝ち取ったというよりは捻り出したに近い。いやほんとその島の名前とか聞いたことないからね?何なの「八一レム島」って。八一レム島略して ハム島について少し話すと、まず文化レベルが低い。交通の便が悪すぎる。自転車がマストアイテムであり一人一台は持っている…らしい。公共施設も最低限のものしかなく小中高は1つの建物にまとめられている。その分建物自体は田舎の大学にもひけをとらないくらい妙に大きい。しかし、まずもって島民が少ないから生徒数も少ない。そんな辺鄙な離島に親の知り合いが営んでいるアパートで一人ぐらしをすることになった。
四月五日。入学式前日。引越作業や入学式手続きは一通り終わり高校で使う物や細かい日用品を買いにアパートから少しはなれたスーパーに向かっている。明らかに自転車を使うべき距離だがまずは土地勘を鍛えるということで徒歩で。それにしてもハイカラな服を着たおばちゃんや散切り頭のおじさんもいればメッシュの入った少年、凄まじいほど日焼けしている少女など島民の個性が強すぎる。理解することはこっちに来てすぐに諦めた。結構なことをしなければ悪目立ちはしないだろうが言い換えれば普通すぎると目立ってしまう。僕は目立つのは嫌いだ。精神力が減ってしまう。まあ明日の入学式で島民がエレベーターで上ってくる中で転校生の僕というのは嫌でも目立ってしまうけど。
数十分歩いてやっと目的の場所へと着いた。坂道の途中にありボロいけどでかいし色の配色が気持ち悪い。緑とピンクって。目立つよ!?目立つけどさ、そうじゃないよね。看板とかで目立とうよ、自己主張が激しすぎるよ。いざ入ってみると内装は普通だった。期待を裏切られたような気もしたし、期待をしていた自分に嫌気が差した。生涯現役と書かれたTシャツを着た二十代の店員さんから明日に必要なもの一式を買い外へ出た時坂道の上から何かが転がってきた。一つ二つではなく十数個。人の頭ぐらいの大きさで灰緑色で全体的に硬いトゲのようなものに囲まれている。あーこれはドリアンか。…は?いやいやなんでドリアンが大量に転がってくるの?仮にも果物の王様だぞ?いや果物の王様ってのは関係ないけどさ。
「んぎゃぁああ!そっちょの兄やん!わたもんがころころさせちまったドリリンとってけろのすけぇぇ!!」
坂の上から女性の声が聞こえる。この人が落としたのか。そうそう島のことでいい忘れてたことあったけどハム島の方言は頭おかしい。って言われてもこの量どうやって止めればいいんだよ。とりあえず釈迦涅槃像のように横になってみた。んー止められるけどトゲが刺さって痛い。
さっき救急セットも買っておけばよかったな…。
「ありがとけろのすけ!兄やんはドリリンの生命の恩人っちょ!!この恩は忘れるまで忘れないっちょのすけ。って兄やん見たことのない顔面しちょとね?」
「いえいえ、例には及びません。当然のことをしたまでです。僕は最近この島に引っ越してきたんですよ」ピカー
「ちょちょちょ!?これは聞き苦しい言葉遣いをしてしまいましたね…てっきり島の方だと思いまして方言で話してしまいました」
「(ギャップがやべえ)」
「引っ越してきたということは転校なさったのですか?」
「そうです、明日から高校一年です」
「なんとぉ!私も明日から高校一年生ですよ!同級生ですね!私は花咲 鶩と言います。えっと…貴方は?」
「ああ、僕は一ノ瀬光輝って言います」
「一ノ瀬光輝さん…いえ、光輝くんですね!せっかく入学前に知り合えましたし堅苦しい敬語は無しでいい…よね?光輝くん?」
「そう…だな。よろしく花咲さん」
「もう苗字で呼ぶなんて!?この島だとそれは婚約前提にお付き合いしようってことですよ!?」
「(結構綺麗な顔しているのにドリアンを大量買いってどういうことなんだよ)……ん?(やべえドリアンに気を取られて全く聞いてなかったけど適当に相槌しておくか...)そうだねせっかくだしいいでしょ」
「!?////」
「(なんでこんなに動揺してるんだろう)…だめだったかな?」
「い、いえいえいえ別にだめというわけじゃないのですがそれがその今知り合ったばかりですし…それにこういうこと言われるのは私としても初めての経験ですし…」
「あ、そうなの?嫌だったら変えるけど」
「ま、まあ?光輝くんがそう呼んでくれたのだしとりあえずとしていいでしょう!」
「おっけ。それにしても良かったよ入学前に知り合いが出来てさ。結構不安だったんだよねこういう離島に1人で転校ってのは」
「そうなのですか?大丈夫ですよ。ハム島の皆さんは優しい人ばっかりですから。見ず知らずのドリアンを拾ってくれる光輝くんならきっと仲良くなれますよ」
「それなら良かったよ」
「あの…先程からすごく気になっていたのですがお聞きしてもいいでしょうか?」
「ああ、せっかく友達になったんだ遠慮せずに聞いてくれよ」
「どうして光輝くんの…」
「俺の?」
「…股間部分が光っているのですか?」
「あ」
僕の僕の名前は一ノ瀬光輝。数字の一に左払いで瀬が光り輝くと書いて一ノ瀬光輝。
女性と話すと股間が光り輝く奇病を患っている。
続く