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頭の中が理系すぎる男

作者: するめいか

 「ねぇ。一つ質問があるんだけどいいかな」

 「あぁ、別に構わない。一つと言わず二つでもいいぞ」

 「なら遠慮なく聞くね。利啓(りけい)って私のこと好き?」


 彼女と付き合い始めてから3ヶ月と25日目。通算4回目のデートをしているときにそれは起こった。


 最初はなぜ彼女がそのような質問をしてきたのかよく分からなかった。

 すでにカップルという関係にあるのだからお互いのことを好きであるはずだ。そうでないとその関係は維持できない。

 しかし、それでもこの質問を投げかけてきたことは何かしらの意味があるのではないだろうか。


 質問というのは分からないことや知りたいことについて尋ねること。それが普段使われている『質問』という言葉の意味であり、俺もさっきの質問をそのようにとらえてしまった。

 しかし、使われどころによっては物事について疑いを持っているという意味も含まれるときがある。

 今回の質問には後者の意味が適用されるのではないだろうか。

 つまり、彼女は自分に向けられているであろう好意に疑問を持っている。

 彼女にとって俺に好まれているかがとになく心配になっているらしいが、そんなのわざわざ考え直すほどのものでもなかった。


 「わざわざ聞くな。そんなの好きに決まっているだろう」

 「ほんと!? うれしい。じゃあもう一つ質問させてもらうね。私のことどれぐらい好き?」

 「どれぐらい、というと?」

 「私への愛はどれぐらい大きいのかって聞いてるの。恥ずかしんだから最後まで言わせないでよ」


 愛の大きさ、というものは一体どう表せばいいのだ。

 質量、重さ、体積。愛を置き換えるのならばどう置き換えるのが正解か。


 そもそも愛の単位とはなんだ。愛という絶対的な質量がないものを扱うのだから目に見えるような単位を使うのは間違っているのだろうが、他になんの単位を使えばいい。

 もしそれを新しい関数『love』と置き換えたところでどう測ればいいのか。利啓りけいにはそれがよく分からなかった。


 「ねぇ、答えてよ。早くしてくれないと待ちくたびれちゃうんだけど」

 「……その前に一つ質問させてくれ。君にとって俺への愛は一体どれくらいなんだ」

 「え? そんなの決まってるじゃん。手で表せ切れないほどだよ」


 なんと。すでに彼女の中では関数『love』が100%を超えているというのか。

 利啓は驚きを隠せず、それほどまでに彼女が俺を好んでくれたことがなによりも嬉しかった。


 しかし、その答えによって新たな疑問が生まれてしまったことも事実である。

 彼女が言っていた手で表せ切れないほどの大きさとは一体どれぐらいの大きさなのか、正確に定義されていない。

 手をめいいっぱいに広げても表しきれないというのだから愛は円形に近い形であると推測しても差し支えないだろう。しかし、形が分かったところで大きさが分からなければなんの意味もない。


 愛の重さを感じるという言葉があるぐらいなのだか愛の大きさを質量と置き換えるのはまず間違いだろう。

 ならば愛の大きさを面積で考えてみるとどうだろうか。それならばめいいっぱいに手を広げても表しきれないと表現することはできるはずだ。

 しかし、愛の重さと同様に愛の質という言葉も存在している。

 愛の質というのは愛の体積をもって定義づけていると仮定して、愛の大きさとは本当に面積と置き換えてもいいのだろうか。

 面積に対しても大きい小さいを使うが、体積に対しても大きい小さいで比較することができる。

 ということは、愛の大きさを面積で表せることができると仮定したが、そもそもその仮定が間違っている可能性が出てくる。

 愛の大きさとは面積で表せることができるのか、それとも体積で表せることができるのか。その両方で表されるかもしれないし、はたまた違う単位で表すのが正解なのかもしれない。

 愛の大きさを定義づけるための糸口は一体どこにあるのだ。利啓はこんがらがった頭でしばらく考えていたが、なかなかこれといった答えを見つけられずにいた。





 あれからすでに30分。

 私を好きかどうかの質問をしただけなのに、まだ椅子に座りながら考え続けている彼がいる。


 そんなの適当に「僕も好きだよ」とか答えるだけで話は終わるというのに、 一体どこに突っかかっているのだろうか。気が気でならない。


 一般的な女子からしてみればこんなめんどくさい男、好きになるどころか友達にすらなりたくないと思うだろうが、私はどうやら一般的ではないらしい。

 どうでもいい質問に真剣に考え込む彼の横顔が、私は大好きだった。

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