64.VS神獣(2)
「ははっ! いくぞ!」
楽しそうに神獣へと向かっていくリーシャ。僕もようやく着地したので後を追うとしよう。まずは10個の球体を短剣に変え、神獣へと放つ。
神獣は雷を放って撃ち落そうとするが、短剣は侵食ノ太陽を変化させたものだ。短剣は雷の魔力を吸収して、威力の弱まった雷を突き破る。
神獣は一瞬目を見開くが、それも一瞬、迫る短剣を危なげなく角や前足で払う。そして、僕に向かって迫って来た。
僕の目の前まで迫り右前足で殴りかかってくる神獣。雷を纏った前足を僕は大鎌の石突きで打ち払う。ガギィン! と大鎌と神獣の前足がぶつかるが、ほんの少し耐えただけで僕は吹き飛ばされた。
少しは予想していたため怪我は無いが……さて、どう倒すか。力、速さ、守り、全てが高い。体勢を立て直す僕を追いかけてくる神獣を砕剣で切りかかるリーシャ。
リーシャの剣を軽々と角で弾いて、噛み付こうとする神獣。いくらリーシャといえども、あの鋭い牙で噛み付かれたら唯では済まない。
更には神獣がリーシャを噛み付こうとする度に雷が微量ながら迸り、リーシャの動きを阻害している。あれは意図して流しているものでは無く、自然と漏れている物なのだろう。
神獣にとっては無意識の内に流れている些細なものでも、人間である僕らにとっては動きが阻害される脅威なものでしか無い。
僕は更に球体を出現させ、それらを1つに集める。普通の短剣では雷を突破出来なかった。突破出来るように大きく、硬く、鋭く。
出来たのは漆黒に染まった巨槍だった。その巨槍を神獣に目掛けて放つ。リーシャに噛み付こうと迫っていた神獣だが、迫る槍に気が付き、直ぐに雷を放つ。
雷のバリアが出来るが、少し拮抗しただけで貫いた。そのまま神獣へと迫る槍。神獣はリーシャを追うのをやめて、槍を睨みつける。そして
「ワオォォォォン!!!」
神獣が吠えたと思った瞬間、大神木から光が溢れ神獣へと降り注ぐ。光が神獣へとかかると、角がそれに合わせて輝く。集まった光は伸びていき、巨大な角へと変わる。そのまま神獣は迫る槍に向かって頭を振った。やばっ!
ズザァァァァァン!!!
振り下ろされた角の斬撃は槍を容易く葬り、地面を割り、森を貫いた。なんて破壊力だ。あれはどう頑張っても僕には防ぐ事が難しい。それに何より
「……力を与える大神木が厄介だ」
今は光が収まっていて、どういう条件で力を与えるのかはわからない。だけど、あれは無視出来ない。
「撃てっ!」
女王の命令で放たれる大量の魔法や矢。神獣は吠えて再び雷のバリアを張るため、こちらの攻撃が全く通用しない……のだが
「マスター。この防御は厄介だな」
「ああ、だけど……リーシャ、あの神獣がバリアを張っている間って、一歩も動いていないよな?」
「むっ? ……言われてみればそうかもしれないが、偶々かもしれないぞ?」
「だけど、動き回られているところを狙うよりは確実だ」
僕はさっきよりは小さいけど短剣よりは大きい槍を10本作る。
「リーシャ、続けよ?」
「むむ、マスターを盾にして進むのは気がすまんが、よし、私の1撃を打ち込んでやる!」
よし、リーシャも気合十分だ。後は僕がミスらないように行くだけだ。真っ直ぐと神獣に向かって走り出す。やはり、バリアを張っている間は動けないのか神獣は睨みつけてくるだけだ。それを狙うように槍を放つ。
槍も他の魔法と同じようにバリアとせめぎ合うが、1点に集中させた一撃はバリアを貫く。まあ、僕の魔術でバリアと接している部分の魔力を吸収して脆くしているのだが。
バリアの内側に入られたのを見た神獣はバリアを解除した。魔法が神獣の体へと当たるが、それほどダメージも無かった。
体に当たる魔法を無視して僕へと角を振りかざす神獣。再び槍を放つが角には大して通用せずに砕かれた。
そのまま迫る角へと大鎌を振り上げぶつける。その瞬間、体がバチっと痺れて全身に力が入らなくなった。これは雷のせいか。
力が抜けて崩れ落ちそうになるのを歯を食いしばって踏ん張る。魔力で無理矢理体を動かして、更には神獣の魔力も吸い上げる。吸い上げた魔力の量に比例して鋭く大きくなる大鎌。
何とか踏ん張りきり耐えた僕と、力を更に加えてくる神獣。僕だけなら耐えられなかったけど、今は
「くらえ! 二剣奥義・隕石砕撃!」
僕の後ろから現れたリーシャが神獣の横顔目掛けて剣を振る。剣の先には鈍器のように固められた土や金属が付いて、大きなメイスのようになっていた。
かなりの硬さや重さを持つ剣をリーシャは軽々とかなりなスピードで振り抜いた。神獣は避けきれずに横顔へと吸い込まれていき、バキッ、と何かが折れる音と共に吹き飛ばされていった。
大神木まで吹き飛ばされて行く神獣。砂煙で姿が見えないが、僕は構えを解かなかった。まさか、神獣がこの程度で終わりじゃないよな? リーシャも同じ考えなのか、睨みつけている。
僕たちのその考えは正しかったようで、大神木から光が煙の中へと降り注ぐ。砂煙が収まり姿を現したのは、僕たちと同じような人型に変わった神獣の姿だった。
◇◇◇
「……はぁ……はぁ……んんっ!」
『ふふっ、我慢しなくていいのよ? この快楽には抗えないわ。人間が私の僕である天使に変わる高揚感には』
「ふぅ! ……うぅっ! だ、誰がて、天使になんかなるもんですか! ……はぁ……はぁ、わ、私は絶対に耐えて、ハルト様と一緒に……うぅんっ! はぁ……あなたを殺します!」
『ふふっ、私の僕にして愛する男を殺させてあげるわ』
……絶対にそんな事になるものですか。わ、私は……私は絶対に……




