62.亜人国
「大失態だな、セシラ隊長よ」
「……申し訳ございません」
亜人国から奪った領地の中の領主の屋敷で、私は頭を下げていた。部屋の中には今回の戦争で選ばれた将軍たちが席に座っている。
この人たちは平民でありながら自分たちと同じ部隊長まで成り上がった私の事が許せないのだ。本来なら部隊長は貴族の子息がなるための枠だったから。
平民であり、しかも女である私が自分たちと同じ地位にいるのが許せないらしい。本当に小さな男。
「やはり女の君には部隊長の地位は重かったかな? まあ、許してほしい。まさか、援軍が2人加わっただけで敗北するとは思わなかったからな」
そう言い笑い声をあげる将軍。今回の戦争の指揮を任されている男で、この中で1番貴族主義の強い男。私の失態を嬉しそうに話す。
本当に腹が立つわ。私の矢すら避けられない奴らが。あなたたちもあれと戦えば良いのよ。いくら放っても見た事のない魔法で全て防いで、私の大切な部下たちを大きな鎌で次々と切っていって。セルですら押されるような相手なのよ。無様に負けるのが目に見えているわ。
「君の処遇についてはこの戦争が終わった後にしよう。まあ、この間に君から相談があるなら夜に私の部屋に来ると良い」
下卑た笑い声を上げる男たち。誰があんたなんかの夜の相手をするものですか! 私は将軍の言葉を無視して部屋を出る。はぁ、本当に腹が立つわね。
「大丈夫ですか、セシラ様」
「……大丈夫よ、セル。でも、やっぱりあなたのその話し方は慣れないわね」
「仕方ありません。ここには他の人の目がありますから」
そう言い笑うセル。仮面の下も多分笑っているのでしょうね。彼と私はいわゆる幼馴染というもの。私の方が1つ年上で家が隣同士、昔から一緒にいたのを覚えている。
昔は当然仮面なんかつけていなくて、顔もカッコ良かった。何日かに1回は女の子に呼ばれて告白されて、それを見た私がムカムカして、セルはそんな私を見て告白を断ってくれて一緒にいてくれる。この頃から私たちは両想いだった。
そんな私たちだったのだけど、ある事件が起きた。それは私の家に強盗が入った事だ。私の両親は殺されて、私は縛られて男たちに犯される寸前。そんな時彼が助けてくれた。
彼は天啓で剣士を貰っていたため、3人いた内2人は倒したのだけど、残りの1人が魔法を使える奴で、火魔法を放ったのだ。
強盗は慌てていたのか辺り構わずに魔法を放ったせいで、家の中は燃え上がり逃げ場もない程。ああ、私はここで死ぬんだと思った。
だけど、そこで私を助けてくれたのがやっぱりセルだった。最後の強盗を倒して私の手を引いてくれた。その代償としてセルは全身大火傷。カッコ良かった顔も半分近く火傷を負ってしまった。それから1週間近く生死を彷徨ったセル。私は生きた心地がしなかった。もし、セルまで死んだらと思うと……。
私の心配とは裏腹に元気に回復してくれたんだけどね。その代わり、包帯を全身に巻くセルに誰も近寄らなくなった。セルに媚びていた女たちも。私は嬉しく思った反面、セルの顔しか見てなかった女たちを許さなかったけど。
セルも悲しい思いをしたと思う。私を助けなかったらこんな事にはならなかったのだから。だからこれからは私がずっと側にいるの。そのために得意だった弓を鍛えて帝国軍に入ったのだから。
「セシラ様?」
私が昔の思い出を思い出していたら、下からセルが覗き込んでくる。いくら仮面をつけていようとも目の光は変わらないわね。
「何でもないわよ。それより、セルの怪我はどうなの? 大丈夫?」
「はい。私の怪我は薬で治りましたから。それで今後の事なのですが」
「……私たちは一旦待機よ。私たちのところ以外はほとんど勝ったようだから、そこから攻めるみたい」
「そうですか。しかし、あの者は凄かったですね。こちらの兵士たちをものともせずに。私すら抑えられていましたし」
「ええ。私の矢も結局1本も当たらなかったし。でも次こそは射抜くわよ」
「ええ、セシラ様なら大丈……痛っ!」
私と話をしていると、突然右腕を押えるセル。どうしたのかと腕を捲ると、そこにはあの闇魔法師に付けられた傷が残っていた。しかも青黒く腫れて。どうして? 薬で治したはずなのでしょ? 私がセルを見てもセルも困惑な表情を浮かべていた。
原因がわからないけど、私たちは治療師のいる場所へと向かった。何事も無いと良いのだけど。
◇◇◇
「……あれが大神木か」
「はい。その麓に大きな魔力の塊があるのがわかりますでしょうか? あれは神獣を抑えるための結界です。各種族の代表たちが交代で結界を張っているのです」
メルダの指差す先には確かにかなりの魔力が集まっていた。その中には確かにこの世のものとは思えないものが存在するのがわかる。
メルダが操るワイバーンは、その目的の場所へとは向かわずに、亜人国の王都へと向かった。まずは女王と顔合わせをするようだ。
亜人国の周りは森と湖に覆われた自然豊かな土地だった。その中心にある王都へと降り立つワイバーン。直ぐにでも話がしたいと言う事で僕たちは休む事なく王宮の中を案内された。
「女王陛下にお連れした事をお伝え下さい」
案内されたのは執務室のようでそこに女王がいるらしい。執務室の前に立っていた女エルフの兵士が確認すると直ぐに許可が下りた。
メルダを先頭に部屋に入ると
「うふふっ、待っていたわ、坊や」
床につきそうなぐらい長い金髪の髪をしているエルフの女性が座っていた。




