6.謎の骸骨
『カッカッカ! クソ女に騙されているクソども! 悪りぃが俺の大切な女は返してもらうぜ!』
『ふざけるな! 我が国の聖女を貴様のような悪魔に渡すものか!』
『ハッ! その聖女様がテメェらの国でどういう扱いをされているか知らねえクソどもが! テメェら! 目の前にいる、聖女がどのような扱いをされているかも知らないでのうのうと崇めているクソどもにテメェらの憎しみをぶつけやがれ! 国にされた事を思い出せ! 怒りや憎しみ、憎悪をぶち撒けろ!』
◇◇◇
「……なんだ、今の?」
頭の中に流れた自分のものでは無い記憶。黒いローブを着た黒い髪の男が、ゾンビやスケルトンといった魔物を引き連れて、人間の軍へと攻めていた。一体誰の記憶なのか。
「よぉ、目が覚めたか?」
僕が自身の知らない記憶に戸惑っていると、横から声が聞こえてきた。声のする方を向くと、そこにはさっきやって来た黒いローブを着た骸骨が椅子に座って……そうだ、母さんは!?
骸骨が何かを言う前に僕は寝ていたベッドから起き上がろうとしたけど、指が切られて無い上に、右目が潰されて片目で距離感が掴めないため、ベッドから落ちてしまった。足にも力が入らないし、周りの音も聞こえない。
「ったく、あわてんじゃねえよ。ほれ」
骸骨は座ったまま骨の指を振ると、地面から別の骸骨が出て来た。これはスケルトンか。目の前の骸骨ほどでは無いけど、物凄く雰囲気がある。絶対ただのスケルトンでは無い。
新しく出て来たスケルトンは、見た目の無骨さからはわからないほど優雅な立ち振る舞いを見せながら歩いて来る。そして、床に倒れる僕を痛みを感じる事なくベッドまで戻してくれた。そういう事に慣れているかのように。
そして、いつの間にか側に来ていたローブを着た骸骨が、両手で僕の頭を挟む。な、なんだ? 骸骨から魔力が流れると、耳があった場所がなんだかムズムズとする。背後から動かないように押さえられてしばらくすると
「聞こえるか、小僧?」
と、声が聞こえて来た。僕は、えっ? と思いさっきまで骸骨が触れていた場所を触れると、そこには耳が付いていた。確かに村人に切られたはずなのに。
訳もわからず困惑としていると、今度は指の無い手を取られた。右手を掴まれると、骸骨は空いている方の右手で、指の無い右手の親指の部分に何かを合わせるような事をする。
僕はそれを見て思わず手を引きそうになった。骸骨が僕の手を握る力の方が強くて動かなかったけど。骸骨が持っていたのは、僕の切られた指先だった。
僕の手の切り口と指先の切り口の肉が引っ付こうと蠢き引っ付ける光景は気持ちが悪いけど、引っ付くと傷口なんて無かったかのように綺麗に引っ付いていた。動かしてみると、普通に動く。
驚いている僕を他所に、骸骨は次々と指を付けてくれた。凄い。全く違和感を感じない。切り落とされる前と同じ感覚だ。
「これで、俺の声が聞こえるだろう」
「は、はい。聞こえます」
「おう。取り敢えず、俺の名前はダルクス・ブラッドレイ。お前がこうなる原因となった暗黒魔術師だ」
……こ、この人が暗黒魔術師。僕がこうなる原因となった……僕は怒りに任せて立ち上がろうとしたけど、背後からスケルトンに押さえつけられた。
「まあ、お前がそうなる理由はわかる。まさか俺が眠っている間にあのクソ女がこんな手を使っているとは思わなかったんだよ」
「なんの話だよ! あんたが、あんたが聖王国なんかに喧嘩を売るから! そのせいで僕はこんな目に合って……母さんは……」
「それは悪かった。だが、お前が怒りに任せて魔力を放ってくれたお陰で俺が再びこの世界に来る事が出来、お前を助ける事が出来た。別にもう俺は生きるのに満足したから、お前に殺されてもいいと思っている。ただ、俺の話を聞いてからにして欲しい」
怒りに任せて怒鳴る僕に、落ち着いた声色で話しかけて来る骸骨。その姿は、表情は骸骨で変わっていないはずなのに、本当に申し訳無さそうな気持ちが伝わって来た。
この骸骨の事は信じられないし、絶対に許さないけど、僕の命を助けられたのは間違いない。それに、今の僕の命は骸骨に握られていると言ってもいい。この骸骨の話を聞いてからでもいいだろう。
僕は骸骨、ダルクスの言葉に頷くと、押さえつけていたスケルトンが僕から離れる。僕はさっきまで寝ていたベッドに腰をかける。
「それじゃあ、どこから話そうかね。まずは暗黒魔術師について話そうか」
◇◇◇
「それで、あの悪魔は見つかったのか!?」
「いいえ、あの骸骨の化け物が連れ去ってからは、後を追えずに」
「馬鹿者! 既に聖王国には悪魔である『暗黒魔術師』が見つかった事を伝えているのだぞ! 向こうから聖騎士がやって来るのも決まっている。それなのに、悪魔がいなければ私が罰せられるのだぞ!」
「いま、騎士を総出で探しております」
「当たり前だ! ……それで、聖女の方は?」
「はい、聖女様はあの日以来部屋から出てこないそうです。侍女が食事を持って行っても食べないそうで」
「クソッ! どいつもこいつも私の思い通りに動かないクズめ! 私が聖王国に戻る機会だというのに! 聖女には何としても食事をさせろ! 死なれては困る!」
「わかりました」
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