3.悪魔
「……暗黒魔術師?」
何だろうこの職業。全部の職業を知っている訳じゃないけど、初めて聞く職業だ。それに魔術師って? 普通は魔法師のはずなのに。暗黒魔術の使い方は何となくはわかるのだけど。
う〜ん……まあ、いいか。あとで考えたら良いんだし。後ろにはまだ列があるから早く移動しよう。物凄い職業を貰えたリーグとステラにはまだ会えないだろうから先に馬車に戻っておこう。
僕は神官に頭を下げて移動しようとする。そのまま出口の方へと向かおうとした瞬間、ガシッと左手を誰かに掴まれた。僕はびっくりして振り返ると、僕の手を掴んだのは神官の人だった。
顔は下を向いており表情はわからないけど、ブツブツと何かを言っている。僕はその事に少し怖くなった。
「あ、あの、神官さん? ど、どうしたのですか?」
僕は神官の表情を見ようと少ししゃがんで見てみると、驚きのあまり僕は尻餅をついてしまった。何故なら、神官の表情があまりの怒りに歪んでいたからだ。
そして、視線だけで僕を殺せるんじゃないかと思えるほどの怒りをぶつけて来る神官は、僕を指差し叫ぶ。
「騎士たちよ! こやつを捕らえろ! 『暗黒魔術師』の職業を持つ、女神に逆らいしこの悪魔を!」
神官が叫んだ瞬間、訳もわからずに見ていた騎士たちが一斉に僕を見て来る。その視線は、先ほどの神官と同じように憤怒の色に染まっていた。
僕は心の底から逃げないといけないと感じた。このまま捕まれば確実に殺されると。だけど、心とは別に体が動いてくれない。周りから注がれる怒気に体が萎縮してしまっているのだ。
そして気が付けば僕は吹き飛ばされていた。後から来る腹の痛み。何されたのかはわからないけど、物凄く腹が痛い。あまりの痛さにうずくまる事しか出来ず、固まっていると、体中に何かが巻かれる感覚。そのせいで動けなくなってしまった。
何とか顔を上げると、僕に向かって手を伸ばすステラの姿が見えた。騎士や豪華な服を着た男性が先には行かせないようにしていたけど。
その時に頭に物凄い衝撃が走る。目の前は霞み、最後に映ったのは叫ぶステラの姿だった。
◇◇◇
……もう、何日くらい経っただろうか。暗い部屋の中、日も当たらないここは時間の感覚がわからなくなる。ここに閉じ込められたからは、ずっと、殴られて、爪を剥がされ、体のどこかが焼かれて。僕の心はもう限界だった。
いくら叫ぼうとも、いくら助けを求めても、誰もやめてくれない。僕が何かを言う度に殴られ、周りから罵倒を浴びさせられる。
死にたくても、神官か誰かが死なない程度に治療するせいで死なない。もう我慢が出来ずに舌を噛んで死のうともしたけど、気が付いた人に殴られて、猿轡をつけられた。
……母さんは心配しているだろうな。ステラたちが上手い事言ってくれていると良いけど。
ぼんやりとそんな事を考えていると、ギギィと扉が開く音が聞こえる。あぁ、もうそんな時間か。また、殴られたりするのか。それとも、焼かれるのか。何をされるにしても嫌だ。
今日は何をされるのかと恐怖していると、バシャッ! 頭に何かかけられた。突然の事で僕は驚き咽せていると、突然の浮遊感。今のは水をかけられて、無理矢理立たされたのか。
だけど、足に力が入らない僕はその場に倒れ込む。すると、腹に走る痛み。僕は呻く事なく耐える。この数日間で覚えた事だ。彼らは僕が叫ぶと、より面白がって殴ったりして来るのだ。だから我慢する。
「おら、さっさと立ちやがれ、この悪魔が!」
再び引っ張り上げられ、僕は無理矢理歩かされる。目隠しをされているせいでわからないけど、何処かへ連れて行かれるようだ。
時折棒のようなもので叩かれたり、蹴られたりしながら歩いていると、ざわざわと声が聞こえて来る。聞こえて来るのは「あれが悪魔……」「汚らわしい」「何で生きているんだよ」とか、そんな事ばかり。
いつの間にか、街の中を歩いていたようだ。だけど、どうしてそんな事を言われなきゃいけないんだ。僕が何をしたって言うんだよ。
誰にぶつければ良いのかわからない怒りを抱きながら歩いていると、頭に衝撃が走る。何か固いものがぶつかった感じだ。1人が投げると、周りからも次々と投げられる。誰も、止めるような事はしない。僕はただ歯を食いしばって我慢するだけ。
それからどれくらい歩いただろうか。もう丸1日は歩いている気がする。目隠しされて周りが見えないからわからないけど。気が付けば固いものがぶつかる衝撃は無くなり、時折、後ろから叩かれるだけだ。
僕の体は血や泥で汚く汚れているだろう。自分からそうなったわけではないのに、周りから薄汚い悪魔と罵られる。
もう、何を言われても心が痛む事は無かった。既に心が壊れかけているのかもしれない。そう思っていたけど、まだ、僕の心は壊れていなかった。いや、後で考えれば壊れていた方が良かったのかも知れない。そうすれば、あんな思いをしなくて済んだのに。
何処かに着いたのか、無理矢理その場に座らされる僕。そして、目隠しを外される。久し振りに目を開けるため、視界がぼやけて初めはあまりわからなかったけど、少しずつ目が慣れて来ると、僕の周りに沢山の人が囲んでいるのがわかった。
そして、少し周りを見て僕は、見覚えのある景色に体が震える。そう、僕が引っ張って連れて来られたのは、生まれ育った村だった。
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