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25.とある冒険者の話(7)

 1週間後


「我々の目的は! 魔物どもに侵略され、操られている町人たちを救う事だ! 死霊どもを根絶やしにするぞ!」


 今回部隊を率いる隊長の声に、叫ぶ兵士たち。これは凄いな。数は1500ほど。こんな人数の兵士が集まるのなんてこの領地にいたら見る事なんて殆ど無いからな。


「どうしたの、リンク。ビビっているの?」


 そんな兵士の人たちを見ていたら、全く見当違いな事を言ってくるマリエ。今更ビビるかよ。


「そんなわけないだろ。ただ、凄えと思っただけだ」


「そう。それなら良いんだけどね。でも、確かに凄いわね。兵士もそうだけど、集められた冒険者も凄いもの。人数は300人ほどだけど、中にはAランクの冒険者もいるみたいよ」


「ああ、確か『風剣』のアラシだったっけ? 風の魔剣を使う」


「ええ、その他にも参加して人数は2千ほど。領主様もかなり力を入れているみたい」


 そういや、ガルドが今回の騒動は早めに収めたいんだろう、って言っていたな。確か政治的な事とかで。学の無い俺には分からねえが。


 そんな話をしながらも俺たちは町へと進む。作戦としては領軍と冒険者たち、それぞれ分かれて港以外の3方向から攻めるってだけだ。


 町人が襲ってきたら基本は気絶させるだけ。本当にどうしようもない場合のみ切る事を許された。町人にはあまり剣を抜きたくないけど、ミレーヌを助けるためだ。許してほしい。


「……なんだこの雰囲気は?」


 そして、町に辿り着いた俺たちが初めに見たものは、まるでこの町は魔物の襲撃が無かったかのように、普通に生活が行われているのだ。俺たちが来たの見た町人たちが逆に俺たちを訝しげに見てくるぐらいだ。


「……これはどう言う事だ? 本当にこの町は魔物に襲われたのか?」


「当たり前だ! 俺たちが実際に襲われたんだからよ! 町人たちは洗脳されているんだよ。言っただろ?」


 俺の言葉を信じていないような表情を浮かべる隊長。こいつ、ここに来てふざけんなよ。確かに俺たちもおかしいと思うほど普通の生活をしているけど、洗脳されているんだから、もしかしたら記憶も弄られているのかもしれない。それぐらいわかれよ!


「とにかく入ろうぜ。出て来たら殺せば良いんだしさ」


 俺と隊長が睨み合っていると、後ろから金髪の男が溜息を吐きながら俺たちを抜かしていく。こいつが、Aランクの『風剣』のアラシだ。


 飄々と俺たちの先を歩く。イラつくがこいつの言っている通りだ。こんなところで睨み合っている場合じゃねえ。


 それからは黙って俺たちは町へと入った。西側は部隊は隊長が率いる領軍の一部、東側はアラシや俺たち冒険者と領軍の一部、残りの北も領軍になる。


 突然町へと入っていく俺たちに町人たちは震えて、残っていた兵士たちが止めようとしてくる。あまりにも変わらない対応に、兵士や冒険者たちは戸惑いを隠せないようだが、次の瞬間、空気が一変した。


 先頭に立っていた兵士の頭が矢で射抜かれたのだ。射抜かれた兵士が倒れると同時に、雨のように降ってくる矢。


 突然の事に冒険者や兵士たちは慌てるが、俺たちはガルドが持つ盾に隠れる。盾には次々と矢が刺さる衝撃が走るが、なんとか耐える。


 盾から少し覗くと、3分の1ぐらいの兵士と冒険者が矢で射抜かれていた。屋根の上にはスケルトンアーチャーがずらりと並んで、その後ろにはゾンビたちが矢を渡している。50:50ぐらいで俺たちを狙っていた。


 そして、前と同じように操られて向かってくる町人たちに、ゾンビたち。矢によって慌てふためく俺たちに追い打ちをかけてきた。


「これは面倒だな」


 盾の向こうから聞こえて来たのは、怠そうに呟くアラシの声。やっぱりAランクだけあって咄嗟の状況にも対応していやがるな。


 矢が止んでガルドが盾を退けると、視線の先ではアラシや耐えた兵士が町人たちと戦っていた。乗り遅れたか。だけど、俺たちの目的は町人と戦う事じゃねえ。ミレーヌを見つける事だ。


「お前ら、この町のどこかにミレーヌがいるはずだ。必ず見つけ出すぞ!」


「おう!」


「当たり前よ!」


 絶対に助けるからな、ミレーヌ!


 ◇◇◇


「おうおう、これはまた結構な人数連れて来てくれちゃって」


 僕は映像に映る兵士や冒険者たちを見て呟く。中にはミレーヌの仲間も混ざっていた。あいつらが連れて来たのか。実力を持っている奴もちらほらと。


「いやー、こんな人数に襲われたら怖いなー」


「思ってもない事を。そんな事よりマスター、私の出番はいつなのだ? こんなの見せられたらうずうずとしてしまうではないか!」


 隣でそわそわと、僕の肩をガクガクとしてくるリーシャ。僕の軽いジョークをそんな適当にしないでよ。僕泣いちゃうよ?


「ねー、ねー! マスター!」


 どれだけ戦いたいんだよこいつは。本当に食べるのと戦うのが好きな奴だ。まあ、かなり役に立ってくれているから良いのだけど。


「今回はしばらく待機だ。色々と試したい事があるからね。ネロたちの準備は出来たか?」


『ワタシタチノ準備ハ出来タゾ、創造主ヨ。イツデモ構ワナイ』


 手元にある石が震えてネロの声が聞こえてくる。これは、クロノが作った伝達石というやつだ。2つで1つの魔道具で、石を持った者が話すと、声の振動が石に伝わって対となる石を震わせるらしい。詳しいのは僕にはわからない。でも、かなり便利なものではある。


 僕も手元にある石に話しかけて指示を出す。これが道具だと知らないと、側から見れば石に話しかけている変な奴だな。


「それじゃあ頼んだよネロ。この程度でリーシャを出さないといけなくなる状況になるようだったら、今後の事を考えないといけないし、何よりリーシャが調子に乗る」


「なっ! 私は調子に乗らないぞ! 精々お腹いっぱいのご飯を所望するぐらいだ!」


 ……そのお腹いっぱいが問題なんだよ。


「まあ、取り敢えず頼んだよ、ネロ」


『心得タ。奴ラヲ絶望ニ落トシテヤル』


 さて、どうなる事やら。

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