20.とある冒険者の話(2)
「……これが俺たちがギルドとかから聞いて来た話だ」
リンクが最後にそう締めくくり、みんなが黙り込みます。突然地面から現れた魔物ですか。それも、4方から人々を外に逃さないように。
「……これは、作為を感じるわね」
「ああ、俺もそう感じる」
マリエさんとガンドさんも同じ考えのようです。話を聞くと魔物が現れた穴を兵士が調べているようですが、かなり深く長いのと、悍ましい臭いのせいで全く進んでいないそうです。
それも仕方ないですね。話を聞く限り、何日も穴の中にゾンビたちがいたようですから。ゾンビから臭う腐敗臭は本当に気持ちが悪いですからね。
「後、本当かどうかがわからねえが、この町で怪しい奴を見かけるようになったらしい」
「怪しい奴?」
ガンドさんの話にみんなの視線がガンドさんへと集まる。ガンドさんの話を聞くと、魔物たちが町を襲った日から、町中で黒いローブを着た怪しい人物を見かけるようになったらしい。
何が目的なのはわからないようなのですが、町の中を歩き回っているようです。ただ、兵士がその人物の後をつけようとしたらしいのですが、途中で見失ってしまうようです。
「明らかにそいつ怪しいじゃねえか」
「ああ。だが、神出鬼没らしくてな、いつ現れるかも、どこに現れるかもわからねえ。偶々見つけてもぬらりくらりと撒かれたしまうらしいんだ」
「うーん、しかも、その人物が今回の事に関係しているとも限らないわね」
行き詰まった私たちは黙り込んでしまいます。今、手がかりとなりそうなのが、魔物が現れた穴と、魔物が町を襲った日から現れた黒いローブを着た怪しい人物。
「まあ、考えていても仕方ねえよ。俺たちは探すしか出来ねえんだからな」
それもそうですね。リンクの言葉にみんな頷きます。取り敢えず、明日からの動きを話し合って、みんな休む事になりました。
そして翌日、私たちは二手に分かれて調べる事になりました。チームは、私とガルドさん、リンクとマリエさんに分かれて探す事に。
マリエさんがリンクに文句を言っていましたが、いつもの事なので私たちは見ているだけです。その内諦めてくれるでしょう。
リンクとマリエさんのペアはローブを着た人物を探すのが担当で、私たちは魔物たちが現れた穴を調べるのが担当です。
まだ言い合う2人と分かれて、私とガルドさんは町を歩きます。昨日ほどではありませんが、胸が苦しいですね。この町に入ってからずっと。やはり、この町に何かあるのでしょうか?
「おい、大丈夫か、ミレーヌ。また、顔色が悪いぞ?」
「あ、はい、大丈夫ですよ、ガンドさん」
「そうか? まあ、無理はするなよ。お前が頼りだからな」
ガンドさんの言葉に私は微笑みながら頷きます。皆さんに心配かけてばかりではいけませんね。私はもう一度大丈夫だとガンドさんに微笑み、先を歩きます。
ガンドさんは何か言いたげでしたが、黙って私の後をついてきてくれます。ご心配かけて申し訳ありません。
それから、しばらく歩きますが、この胸の苦しみは軽くなるところか、目的の場所へと近づくにつれてより苦しくなってきます。やはり、何かあるのでしょう。
「ここが、4つあるうちの穴の1つだ。誰も入らないように、再び魔物が出てこないように兵士が交代で見張りをしている」
ガンドさんはが言うように、穴を塞ぐように4人の兵士の方が立っています。うっ、ここからでも物凄い臭いが漂って来ます。兵士の方も口や鼻を塞いでいるようですが、物凄く辛そうです。
「これは酷えな。物凄い悪臭だ」
「かといって、閉じるわけにはいきませんものね。今回の事件の唯一の証拠なのですから」
それから、他の穴も見て回ったのですが、特に異常を見つける事なく見回ってしまいました。うーん、思ったより手がかりが見つかりませんね。
「おっ、ミレーヌたちじゃねえか」
最後の穴を見ていると、私たちを呼ぶ声が聞こえて来ます。振り向くと、こちらに向かってくるリンクとマリエさん。
「よっ! 調査はどんな感じだよ?」
「駄目ですね。何かあるかと思ったのですが、何も見つかりませんでした」
「俺たちもだ。聞き込みとかしたんだが……」
「黒いローブを着た人物は見た事があるけど、誰だかはわからないってのばかり。男か女かもわからないそうよ」
うーん、それじゃあ、ローブを脱がれたら誰だかわからないですね。行き詰まってしまいました。
「それなら、1回町長に話を聞きに行くか。何か情報が集まっているかもしれねえ」
「そうだな。領主からの依頼で来たと言えば会ってくれるだろう」
そうですね、ここで話し合うよりかはそっちの方がいいでしょう。みんなで町長の自宅へと向かいます。よく見れば、町長の自宅へと向かうにつれて、争いの跡が激しくなっていますね。ところどころ焼け跡があるのは、魔法を放ったからでしょう。
それに、何でしょうか、この雰囲気は。あの穴からも感じましたが、それ以上に重苦しい感じ。町長の自宅に近づくにつれて増していきます。
「……皆さん、気をつけて下さい」
「ん? どうしたんだ、ミレーヌ?」
「町長の家に近づくにつれて、穴と同じ雰囲気が感じられます」
「それって……町長の自宅に穴があるって事?」
「わかりません。わかりませんが、私は注意した方が良いと思います」
根拠はありませんが、あの家には何かある。そう感じてしまうのです。リンクたちも私の言葉に頷いてくれます。周りに注意しながら、町長の自宅へと辿り着くと、家の前には兵士が立っています。
「すまない。俺たちは領主様の命令で、この町に現れた魔物について調査をしているのだが、町長に合わせてもらえないか? 話がしたいのだが」
「……少しお待ちください」
兵士が家に入り確認してもらい、許可が下りたので、中へと入ります。私の予感が外れてくれれば有り難いのですが……。
評価やブックマークよろしくお願いします!




