139.神言
「くぅっ!? この魔族がっ!!」
背中を切られた怒りに天弓はルクアに向かって矢を大量に放ちます。ルクアは太刀で弾きますが、空中で落下しているところなので上手く防ぐ事が出来ないようです。助けますか。
「 『矢を、止まりなさい』」
私がそう呟くだけでルクアに向かっていた矢が止まります。ただ、ずっと止まるわけではありません。止まる時間はほんの数秒だけ。たったそれだけしか止まりません。
それでも、ルクアが逃げるには十分な時間です。ルクアが逃げてから再び動き出す矢はそのまま誰もいない場所へと向かって行きました。
放った本人である天弓は、元凶が私であるのをわかっているので私を睨んできます。怖いですねぇ。
「何なのですか、その力は!? そんな力、まるでフィストリア様のよう……つ!?」
ふふっ、わかっているじゃないですか。ただ、流石に私とフィストリアを同一にするのは不味いと思ったのか、咄嗟に口を押さえる天弓。そこまで言ってしまったら駄目な気がしますが、まあ、私は優しいので何も言わないでおきましょう。
「……ふぅ、取り敢えずあなたからどうにかしなければいけないようでしょうね。私ですら縛られるその力をこのままにはしておけませんし。オールレンジアロー!!」
天弓は私を睨みつけてから弓を空に向けて矢を放ちました。空に放たれた矢は幾重にも分かれて、その全てが私に向かって降り注ぎます。雨のようにバラバラに降るのではなく、全て私の元へ。
「『止まりなさい』」
私は向かってくる矢に神言を放ちます。すると、先ほどのように矢は宙に止まります。しかし、既に対策を考えていたのか天弓は私が言った瞬間に次の矢を放っていました。
考えましたね。私の神言はあらゆるものを対象にする事が出来ますが、連続して使う事が出来ません。少し間を空けなければいけないところをいきなり突かれるとは、流石四大聖天使といったところですか。しかし、彼女もこの力を忘れていますね。暗黒魔術の力を。
「消し去りなさい侵食ノ太陽」
ハルト様の技である侵食ノ太陽を発動します。私程度の能力ではハルト様ほど上手く扱えませんが、この技の能力である魔力を吸収して自らの力にする能力を最大限に活かせるものを吸収すれば問題はありません。例えば……天使の魔力など。
私の周りには十分過ぎるほどの天弓の魔力が込められた矢が止まっています。それら全てに向かって侵食ノ太陽が伸びて行きました。
矢が動き始めると同時にぶつかる侵食ノ太陽。抵抗する事なく全ての魔力を吸収してしまいました。そして、それらの魔力を全て天弓に返します。
膨張して大きく膨らんだ侵食ノ太陽からいくつもの棘が天弓に向かって伸びます。天弓は全て打ち抜こうとしますが、その矢の魔力すら吸収してしまいます。このまま貫くかと思い見ておりましたが、まあ、残念な事にそう簡単にはいかず。
弓に1本の矢がつがえられ、かなりの魔力を込められています。そして
「ジャッジメントアロー!!」
一筋の光が侵食ノ太陽を貫きました。吸収する間もなく一瞬で。そしてその矢は真っ直ぐと私の方へと向かってきます。
しかし、私は避ける事はしません。この姿を見て天弓は笑みを浮かべていますが、私が動かない理由は諦めたわけではなく、もう動く必要が無いからです。
私を射抜こうとする矢が眼前に迫った瞬間、地面から噴き出す闇。全てを黒く染める闇が天高く噴き溢れたのです。
その闇によって光の矢は跡形もなく掻き消されてしまいました。あぁ、この闇から溢れ出るあの方の気配。離れていたのはほんの少しだけなのに、これほど恋しく思うなんて。
「な、何が起きたのです!?」
天弓が戸惑いの声を上げていますが、その間も闇は溢れ続けます。そして、その闇から出てくる気配に七星天女は勿論のこと、ベアトリス様も片膝をつきます。レルシェンド様はただ喜んでいますね。
かくいう私も、片膝をついてあの方のお帰りを待ちます。そして
「ただいま、ミレーヌ。予定通り進めてくれてありがとうね」
闇の中から我らが主人が姿を現しました。……あぁ、ほんの数日離れただけですがわかります。この方はまた強くなられたと。早く抱きつきたい気持ちを抑えて
「おかえりなさいませ、ハルト様」
落ち着いた風に頭を下げます。これが終わりましたら抱き締めさせていただきましょう。
遂に本日「世界に復讐を誓った少年」が発売されました!!
書店に並んでいますので、よかったらご覧下さい!!




