135.旧魔王vs天弓
「全く、このような雑魚相手に私が駆り出される事になるとは。フィストリア様も天使使いが荒いですわ。でも、確かにこのような不浄な存在を残すわけにはいきませんから、殲滅するために私が送られたのにも納得ですわね。
総員構えなさい。全てを撃ち抜くのです」
女神フィストリアの配下の中で最強と呼ばれている四大聖天使の1人『天弓』のアタランテ。ほとんど表に出てくる事なんてねえから存在自体も眉唾物だったが……まさか存在してたとは。
連合軍の奴らは空に現れたアタランテ率いる天使隊の姿を見て歓声を上げていた。その気持ちはわからなくもねぇ。天使たちの姿は老若男女誰が見ようと皆が見惚れるほどだ。まるで精巧に作られた美術品のように。
そのような綺麗な天使たちが、先ほどまでこちらを押していた死霊たちを圧倒的に倒していくのだから興奮して歓声を上げたくなる気持ちもわかる。特に聖王国の奴らは女神フィストリアは当然の事、四大聖天使を崇めている奴らも少なくねえからな。
……他国の人間である俺からすれば、俺が死にかけた死竜を一矢で撃ち殺す力を持つ存在は恐ろしくて仕方がないがな。
現に、今も震えが止まらねえ。……くそっ、まじまじと見せつけられるぜ、聖王国の力を。これでまだ十二聖天なんかも残しているんだからな。ここまで力の差があったら誰もが聖王国に膝を着く。
……それだけに、その聖王国に喧嘩を売っている死国の存在がおかしく見えてくる。現に死国の切り札の一つであろう死竜たちが次々と射抜かれていき、他の死霊も貫かれている。大地を埋め尽くすほどいた死霊たちが殆ど全滅だ。普通なら馬鹿だと思うだろう。
「呆気ないものですわね。しかし、こそこそと見ていないでそろそろ出て来てはいかが?」
しかし、死国はその聖王国を倒せると思ったから宣戦布告をしたのだろうな。天弓が放った弓を容易く防いで現れたのは黒いドレスに黒い日傘をさした金髪のツインテールをした女性だった。ただ、雰囲気がやばい。明らかに普通じゃないのが誰の目からでもわかるほど。
「ふう、久しいのう、天弓よ」
「……フィストリア様から聞いていましたが、本当に最悪な事をしてくださいましたね、ハルトという悪魔は。まさかあなたも蘇らせていたとは、ベアトリス・エステキア。せっかく殺して差し上げたのに蘇っているなんて」
にこやかに笑みを浮かべる黒いドレスを着て、黒い日傘をさしている女性と、それを忌々しげに睨み付ける天弓。
2人が睨み合うだけで互いの魔力がぶつかり合い、大きな唸りとなっている。化け物すぎるだろ2人とも。ちっ、なんて争いに巻き込まれたんだよ、俺たちは。
そんな後悔をする暇もなく目の前で戦いが始まった。俺がたった一回瞬きをしただけ。ただそれだけで天弓は何千発という魔矢を黒いドレスの女性に放つ。ドレスの女性はそれを閉じた日傘で容易く叩き落とした。
「いきなりとは無粋なやつじゃのう。せっかく久しぶり会ったというのに一緒に紅茶の一杯でも飲む気概はないのかぇ?」
「ふん、そんな事一度もした事はありませんではないですの。私たちは出会ったら殺し合った仲なのですから!」
天弓は先ほどよりも太めの矢をドレスの女性に向かっていくつも放つ。ドレスの女性は今度は日傘で叩き落とそうとせずに、放たれた矢を避けていく。何であのスピードの矢を避けられるのだろうか。俺には不思議で仕方ねぇ。
ドレスの女性が矢を避けて、その矢が地面を穿つ度に大きく揺れる地面。何度も大きく揺れるものだから、兵士たちはずっと立っている事が出来ずに大抵の兵士がしゃがみ込んでしまった。俺も立っているのが辛くなり膝をついてしまう。
「ほれほれ、どうした天弓よ。あの時みたいに後ろから妾を狙わんのか? そんな矢じゃあいつまで経っても当たらんのう。他の天使にも手伝って貰ったらどうじゃ?」
「うるさいですわね、死体が。いつまでもあの時と同じと考えていては痛い目を見ますわよ!」
怒りに表情を変えた天弓は、隣で浮遊していた巨大な弓を自分の前で横に倒して腕を引く。すると一本の魔力矢が現れてバチバチと音を鳴らす。ドレスの女性へと狙いを定めてそして
「穿て! 天光ノ破滅矢!!」
ドレスの女性に向かって放った。とてつもない量の魔力を圧縮されて放たれた矢は、空間を歪ませながらドレスの女性へと迫る。ドレスの女性は迫る矢を見ても避けるそぶりを見せずに日傘を持たない左手を前に突き出す。
「喰らいつくせ暴食ノ闇竜」
左手から闇の魔法で作られた竜が姿を表して、矢へと向かってぶつかる。激しくせめぎあった2人の技はとてつもない魔力の伴流と共に爆発した。
視界は爆発のせいで舞い上がった砂煙のせいで何も見えなくなった。しかも爆発音のせいで耳も今は使えない状態で、砂煙の向こうがどうなったのか何もわからない。
そして、しばらくして砂煙が落ち着いたころには2人の姿は何処にも無くなっていたのだった。




