132.とある兵士の話(3)
「……これはどういうことですかねぇ、隊長」
「俺が知るか。だが、あれ程初日に攻めて来た敵が、こうもあっさりと引いたのには何かあるのだろうな。油断はするなよ? あの貴族たちのように」
戦争が始まって1週間が経った今日。俺たちの視界の先では初戦の時ほどの勢いが無い死霊どもの姿があった。
数を減らしているわけではないが、初日の時ほど勢い良く攻めてこないため、貴族たちはかなり油断している。それに聖王国が後ろに待機したままなのも貴族たちが有頂天になっている理由の一つだろう。
聖王国が前に出てくれば、指揮は全て聖王国に取られる。そうなる前に自分たちで手柄を取っておきたいのだろう。
「しかし、聖王国に宣戦布告するだけはありますね。これだけの兵力差を物ともせずに対抗してくるのですから」
副官であるゲインがこの1週間の死国の戦力に畏怖を込めた賞賛をする。まあ、そのせいでこっちは苦労しているんだがな。
初日から眠る事も休む事もしない異形を突撃させ、何らかの方法で兵士をゾンビにさせて治療師たちを殺した。その上、こちらがやられれば死んだ兵士が同じように死霊となり、死霊を殺しても死体が集まり別の死霊へと変わる。戦争の相手としてこれほど厄介なのは無い。なんせ、敵が減らないのだから。
死霊の弱点である火魔法や光魔法を得意とする魔法師を連れて来ても、当然対策されており、魔法を放つ度に黒い霧のようなものが魔法を防いでしまう。
他の魔法が効かないというわけではないのだが、火や光に比べて効果が少ないため、あまり撃つことが出来ずに結局ぶつかる事になってしまう。これも、向こうの作戦通りなのだろう。
魔法を打ち合うより、ぶつかった方がこちらの数を減らす事が出来て、向こうは増やす事が出来るからな。
「他にも隠し球があるんだろうな。噂じゃあ帝国の内乱に天使が介入したらしいが、倒されたと聞く。それにも死国が関わっていると聞いたからな。少なくとも天使に対抗出来る力は持っているのだろう」
「ひゅ〜、流石隊長、詳しいですね」
「馬鹿野郎、何で大国の内情を知らねえんだよ。内乱だけでも大事だが、龍が現れたとか天使が帝国にいると色々あるんだぞ?」
「それぐらいはちらっと聞いたことありますが、正直俺には関係ないと思って聞き流してましたよ」
そう言い笑うゲイン。俺は頭を抱えることしか出来なかった。いくら興味がないと言っても、大陸でも上位に位置する大国の内乱だ。少し離れた我が国でも影響は少なからず出てくる。少しぐらい興味を持ってほしいものだ。
そんな事を考えていたら、前線の方がざわざわとし始めた。皆がある一点を見ていた。俺たちも前に赴き見るとそこには黒一色に染められた鎧を纏う金髪の女性が立っていた。
見た目はかなりの美人で敵であると思われるが、兵士たちの中に見惚れる者もいた。しかし、あの女性から感じられる圧に俺は冷や汗をかいていた。他の国でも気が付いた者がいて警戒するように声を出していた。
「連合軍諸君よ。私の名前はリーシャ・アインスタイン。我が国の主人であるマスターに蘇らせて頂いた死霊の1人である。これより余興を行おうと思う。どの国の豪傑、誰でも良い。私と一騎討ちをしよう」
突然名乗りを上げてそんな事を言い出す女性。いきなり余興など……なぜだ? 理由はわからないがそれを考える暇もなく、功を焦った国の一つがリーシャと名乗った女性に向かって兵を出した。数は200ほどか。
200ほどの兵士が迫ってくるにもかかわらず、平然としているリーシャ・アインスタイン。そして
「馬鹿者が。一剣・疾風ノ大剣!」
リーシャ・アインスタインの背に7本の剣が輝き現れ、深緑色の大剣を握り振った。ただそれだけ。ただそれだけで200もいた兵士が吹き飛んだ。
そして、その姿を見て昔見た聖王国の書物を思い出す。裏切りの聖騎士団長の話を。確かあの話に出てくる聖騎士団長も7本の剣を扱っていたはずだ。
聖王国に対して謀反を起こして一族全てを処刑された筈だが……いや、この死霊軍を見ればわかるか。本人も言っていたし。しかし、この死国の王はどれほどの力の持ち主なんだ?
「さあ、誰が来る?」
見惚れるほどの笑みだが、俺たちは冷や汗が止まらなかった。
明けましておめでとうとございます!!
明けてから既に4日も経っていますが。
この作品も2ヶ月ぶりの更新で読んでくださっている方は申し訳ありません。もう少し更新速度を上げたいと思います!




