129.黒神の力
「……おいおいおいおい、まじかよっ!?」
「こんな直ぐに使えるようになるなんて……」
少し離れたところで僕の姿を呆然と見るメテロとノエル。まあ、使えるようになったのは、獣人が持っていた神のかけらのお陰だけどね。
見た目は、真っ黒なマントを纏ったように見えるけど、これに触れれば全てを吸い込む深淵の闇。僕はその闇を広げる。
広げていく闇は、僕を中心に広がっていき、崩れた家屋や木々のある地面を進んでいく。そして、僕に近いところからメキメキと音が鳴り、崩れた家屋が更に崩れ、僕の広げている闇に沈んでいく。
「ちっ、何をするつもりかはわからねえが奴を止めるぞ!」
「はい!」
そんな僕を見て向かってくるメテロとノエル。彼らの言い方だと完全に僕が敵じゃないか。まあ、この光景を見たらそう思わなくもないけど。
「はっ!」
光を纏うノエルはキラキラと光を散りばめたように消えたと思えば、気が付いたら目の前にいて聖剣を振り下ろしてくる。この技を使う前の僕だったら反応出来ずに切られていただろうけど、黒神化した今は、彼らにも引けを取らない。
僕は目線だけノエルに向けて闇を動かす。その姿に怪訝な表情を見せながらも聖剣を振り下ろしてくるノエル。しかし、聖剣が僕に届くことは無かった。
「なっ!?」
ノエルの振り下ろした聖剣を掴む手が、僕の纏う闇から出てきたからだ。真っ黒に染まった腕は、聖剣を掴んでも怯むことなくせめぎ合っている。
「行くんだ、マッドデーモン」
そして、闇から姿を現した闇に染まった生物がノエルへと向かう。体の元になったのは、さっき殺した獣人たちの骨を使っている。その骨に黒神化で出来た闇を纏わせて作ったのだ。
1体では、ノエルに勝つ事は出来ないのはわかっているけど、少しの間相手させるのは出来る。その間に僕は
「爆炎拳!」
メテロを相手するとしよう。炎を拳に纏わせたメテロは僕の顔を目掛けて振り下ろしてくる。それを僕は左掌で受け止めた。さっき、両腕で受け止めた時と同じぐらいの威力が掌に伝わるけど、焼かれる事なく拳の威力は闇に吸収された。
「返すよ」
「なっ、うおっ!?」
一瞬彼も怪訝そうな表情を浮かべるが、次の瞬間、僕の胸辺りから飛び出した炎の衝撃に、避けながらも驚くメテロ。彼が放った炎を僕の闇が吸収して返しただけなのだけど、これはかなり便利だね。
「ちっ、また面倒な能力を!」
メテロはそう言いながらも攻撃を放ってくる。人の体を一瞬で炭へと変えてしまうその火力は凄いけど、どうやら僕とは相性が悪いみたいだね。
彼の拳や蹴りから放たれる炎や衝撃を全て闇で吸収して、全て返す。しかも、ただ返すのではなく、闇の力を加えて強化して。
魔力はそこそこ持っていかれるけど、誤差の範囲内だ。一撃一撃が重い彼らの攻撃をこうも簡単に防げるのなら。
「ついでにこれも返しておくよ」
僕は、少し距離をとったメテロに、先程吸収した家屋の瓦礫を放つ。当然闇を纏わせて強化したものを。メテロは自身の周りに火柱を立たせて飛んでくる瓦礫を焼き払う。
「聖光斬!!」
メテロに集中していると、こちらに向かってくる強大な魔力を感知する。飛んでくる魔力は光り輝く斬撃。その向こうで塵に変わっていくマッドデーモンの姿があった。倒されてしまったか。
僕目掛けて飛んでくる斬撃に合わせるように、闇を纏った瓦礫を防いでいたメテロの方からも魔力を感知する。
「爆炎剛龍拳!!」
龍の形をした炎が僕に向かってくる。光の斬撃に炎の龍。どちらも片方だけでも前までの僕なら一瞬で殺されていただろう。本当に強化出来て良かったよ。
「黒渦」
僕が手を掲げると、トプンッと液体のような闇が出て来て、渦潮を宙に発生させた。そして、迫る斬撃と龍を受け止める。流石に何もせずに受け止めると痛そうだからね。
途轍もない魔力がせめぎ合い空間を歪めるほど。これほどの魔力の技を放つ2人には色々と言いたい事はあるけど、取り敢えず伝える言葉は……ありがとう。
僕は更に魔力を込めて黒渦の大きさを変える。それこそ、二つ合わせればこの国を覆い尽くせるほどの大きさに。そして、放たれた斬撃と龍を飲み込む。
その2つを闇の中で組み合わせて、更に闇の力を追加する。
「龍斬炎黒波」
その組み合わせた力をメテロとノエルにそれぞれ放つ。2人も自信のあった技なのだろう。まさか返される上に自分の技以上で返ってくるとは思ってなかったのか、防御が間に合わずに吹き飛ぶ。
まあ、この程度では死んでないのはわかっているので、追い討ちをかけようと思ったところに、懐に入れていた石が震える。クロノに作らせた伝達石だ。遠く離れたところでも言葉を送る事が出来るという便利な物だ。
『ハルト様、聞こえていますでしょうか?』
「ああ、聞こえているよ。どうしたんだい、ミレーヌ?」
『はい、聖王国が動き出しましたので、報告の連絡をさせて頂きました。数は各国の兵を合わせて200万ほど。それに天使と総指揮として四大聖天使もいるようです』
「へえ、それはすごいや。でも、聖王国の主力はいないんでしょ?」
『はい。十二聖天は誰もいません』
「りょーかい。それじゃあ予定通りに頼むよ。僕も予定外の事を終わらせたら帰るから」
『わかりました。お待ちしております、ハルト様』
最後のミレーヌの言葉を聞いた後に、石は砕け散る。もう少し長い事話そうとすると、もっと大きな魔石が必要になるからね。持ち運びが大変になる。
さて、早く帰る用事が出来てしまった。神のかけらを持つ2人を殺して、ステラたちも捕らえたいところだけど、それよりも、大切なミレーヌたちの元に行く方が大切だ。こちらを見てくるリーグやステラの方を見て僕は
「命拾いしたね。特にリーグ。君は思っていたよりも弱かったから思わずプチっとしそうだったけど、生きてくれてて良かったよ。次会う時まで生かしといてあげるから。ベルギウス」
リーグは僕の言葉に呆然としていたけど、意味がわかり顔を赤くしていた。あー、楽しい。楽し過ぎて笑ってしまうね。
ベルギウスに命令をしてブレスを吐かせる。獣国はもう終わりだけど、こんな先のないところを残しても意味が無い。大人たちが自分たちで歩みを止めているのだから。
まあ、子供には罪がないので助けてあげるけど。今もドッペルゲンガーが子供を集めているところだろう。
子供たちを集め終えたら国に帰るとしよう。それまでは皆に任せるとしよう。こんな前哨戦に負ける皆じゃないからね。




